【肯定的に評価されるべき「歴史修正主義」と、その条件に関して】

屋代聡さんの連ツイをまとめました。
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屋代 聡 @yashirosatoru

【肯定的に評価されるべき「歴史修正主義」と、その条件に関して】

2014-08-03 10:52:42
屋代 聡 @yashirosatoru

昨日、この2つについて呟きました。 「屋代聡さん【誰が「歴史」をつくるのか/歴史叙述における主体と問題関心】」togetter.com/li/701164 「屋代聡さん【歴史学における史実の修正】」 togetter.com/li/701162

2014-08-03 10:53:29
屋代 聡 @yashirosatoru

今日はこれに関連することで、歴史学における史実の更新と歴史修正主義の違いに関して、他国の例を踏まえ、もう少し考えましょう。 (とはいえ僕もそれほど詳しくないので、概説的になりますが)

2014-08-03 10:55:18
屋代 聡 @yashirosatoru

先日も少し残念な人に絡まれたのですが(苦笑)、その人は、歴史修正主義は学術的用語か?政治と学問を混同するなwwwと言っていました。どちらも陳腐すぎて話になりません。 以下に挙げるウィキペディアでも見たのでしょうか。せいぜいその程度の知識でしょう。

2014-08-03 10:56:37
屋代 聡 @yashirosatoru

もちろん歴史修正主義は、既にれっきとした学術用語になっています。 そもそもこの言葉が日本の歴史学研究から生まれたのではないことに思い至れば、わかりそうなものなのですが。

2014-08-03 10:57:13
屋代 聡 @yashirosatoru

ウィキペディアの「歴史修正主義」の項目は、ずいぶん雑駁な事を書いている、というのが僕の印象でした。ウィキペディアというのは、そういうものです。 歴史修正主義を「歴史学的用法」「通俗的用法」にあっさりわけているのが、どうも釈然としませんでした。むろん、便宜上のことでしょうけど。

2014-08-03 10:58:51
屋代 聡 @yashirosatoru

歴史学の成果というのは、新史料や新解釈によって常に更新・修正されてゆきます。 これら成果は公開されていますから、実は、社会には新しい歴史像が示されているのです。 1970年代と2010年代では、「歴史」が違うのです。

2014-08-03 11:01:23
屋代 聡 @yashirosatoru

歴史学における論争というのは、そうした新しい歴史像やそれを描くための方法論の是非を巡って展開されます。 当然、旧来の歴史観に立つ学者は新しい歴史像に対しやや批判的になり、そこに“歴史修正主義”のレッテルを貼る事もあります。

2014-08-03 11:02:04
屋代 聡 @yashirosatoru

「歴史修正主義」問題の最初期の例として挙げられるのはフィッシャー論争やテーラー論争、つまり「ドイツ特有化の道」論争になるでしょうが、フィッシャーやテーラーは自説を発表したさい、かなり辛辣に批判されました。

2014-08-03 11:02:48
屋代 聡 @yashirosatoru

例えばフィッシャーはその著作で、第1次世界大戦におけるドイツの開戦責任を指摘したのでした。第1次大戦はバルカン半島でのいざこざがサラエボ事件を契機に戦争に拡大したと捉えられていますが、フィッシャーは当時の史料を洗いなおすことで、これを真っ向から否定したのです。

2014-08-03 11:03:28
屋代 聡 @yashirosatoru

フィッシャーは第1次大戦前のドイツ政財界の動きや国民の支持について、古くはルターの宗教改革、遅くともビスマルク統治下のドイツ帝国のあり方にその淵源があると指摘しました。これは「第3帝国やヒトラーは悪」としつつも、それ以前のドイツを肯定的に評価していた人々に大きな衝撃を与えました。

2014-08-03 11:04:56
屋代 聡 @yashirosatoru

フィッシャーの提起は学界を超えて大反響、政治家たちもコメントを出す騒ぎになってゆくのですが、フィッシャーによる“歴史修正主義“の動きが、自国史を真摯に見つめなおす、ドイツ人の(第1次大戦までドイツは良かったという)素朴な過去認識を問いなおすものであったことは注目すべきでしょう。

2014-08-03 11:06:16
屋代 聡 @yashirosatoru

また英国の歴史家テイラーは、外交文書を駆使したその著作において第2次大戦期のドイツを取り上げ、戦争の原因を西側諸国の外交姿勢に求めたので、ヒトラー擁護と見られ、大論争になりました。 テイラー論争と呼ばれるものです。

2014-08-03 11:07:22
屋代 聡 @yashirosatoru

フィッシャーの場合は自国史の暗部をもっと見つめるように求め、テイラーの場合は、たとえナチ政権であっても、外国を安易に断罪すべきではないという主張を展開したのでした。 日本における歴史修正主義が自国礼賛史観であることと比す時、彼我には大きな隔たりがあると思います。

2014-08-03 11:08:18
屋代 聡 @yashirosatoru

またフランスにおいて歴史修正主義と呼ばれたのは、フランス革命は「ブルジョワ革命」ではないとした人々、フュレやオズーフといった歴史家でした。彼らは革命以前のブルジョワが特権階級と融合して新エリート層を形成していたこと、革命が資本主義を促進させなかったことを踏まえ、そう主張しました。

2014-08-03 11:11:11
屋代 聡 @yashirosatoru

伝統的な革命史観をもつ左派系の学者たちは彼らを「歴史修正主義者」と呼んで、種々の反論を展開しました。しかしながら論争においてフュレやオズーフの述べたことは一部、認められてゆきました。つまり歴史修正主義と呼ばれた側の意見は、通説と言わないまでも、無視できないほどのものだったのです。

2014-08-03 11:13:22
屋代 聡 @yashirosatoru

彼らはこれまでの歴史家が認めがちだった「ヒトラーだけが悪い」と言うバイアスがドイツ人の戦争責任回避の意識を育んでいること、フランス革命が自由・平等という民主主義の良い点だけを強調するあまり、民主主義の弱点・盲点をぼやかしていることを指摘したのです。

2014-08-03 11:14:07
屋代 聡 @yashirosatoru

こうした事例が示すのは、歴史修正主義と呼ばれる研究であっても、“史料批判が的確であり、実証に裏付けられ、学会報告に耐えられるものであれば、ちゃんと認められる”ということです。 なおその後、フュレは、フランスにおける学問の最高峰、アカデミー・フランセーズに選出されました。

2014-08-03 11:16:18
屋代 聡 @yashirosatoru

逆に史料批判に難があり、実証せず、単なるイデオロギー表明に終始するものは、著者の政治姿勢いかんに限らず、全く相手にされません。 当然です。

2014-08-03 11:17:44
屋代 聡 @yashirosatoru

さて日本の場合、歴史修正主義者と呼ばれる人たちの多く(ほとんど全て)が、この3点をクリアできない人たちです。 端的にいうと、ずぶの素人なのです。まったく恥ずかしいものです。

2014-08-03 11:18:29
屋代 聡 @yashirosatoru

それゆえ日本における「歴史修正主義」擁護の人やネトウヨさんが “歴史というものは新史料や研究によって常に修正されてゆくものだろwww ” みたいなことを言ってきても、相手にしなくて結構です。

2014-08-03 11:19:47
屋代 聡 @yashirosatoru

研究者がただ述べても、それは研究成果になりません。 研究成果は学会報告がなされたり、学術誌に掲載されたりして、初めて認められます。同業者の厳しい審査を経て、ようやく生まれるのです。 そして、その後いっそう厳しい批判にさらされつつ、論争の中で精錬されてゆくのです。

2014-08-03 11:22:35
屋代 聡 @yashirosatoru

この点において、わが国の「歴史修正主義者」は、まだ何も研究成果を実らせておりません。それゆえ僕はいつも言うのです。

2014-08-03 11:22:59
屋代 聡 @yashirosatoru

「ネトウヨ諸君、そんなに自信があるなら、君たちの信奉するセンセイとやらに学術誌に発表するように、学会にきて報告するように、頼んでくれないか? 彼らにとっても業績が増えるし、自説が広まるチャンスだよ。」と。

2014-08-03 11:23:40
屋代 聡 @yashirosatoru

でも専門家集団の査読には耐えられないでしょうし、学会なぞ怖くて、絶対に来られないでしょう。 まぁ蛮勇をふるって来たとしても、コテンパンにされて終わりですけどね(笑)。

2014-08-03 11:24:13