【幸せになるための資格・番外編】ささやかな復讐

ひな＠復旧中 @newgibbousmoon

「いいな、トードーのあれ」 「おまえがいいのは嫁さんだろ」 「うん。ヤス、かわいい。スタイルさいこー！しかも、頭いい！！」 「しかし、トードー、器用だな。あんな風に二人乗りできるんだな」 まず、チーム内で彼女や嫁と二人乗り、大流行(笑) でもって、何気なしに撮影してSNSにUP。

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@newgibbousmoon 「どうだ！二人乗りできただろ！」 「まあな。でも、自分で乗ったほうが早ぇだろ、これ」 「おまえの場合、そうだな」 （けど、おまえは一番好きだった自転車もやめてしまったから） 「……これだと、おまえが重いだろ」 「いや、別に」 「坂登れないじゃん」

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@newgibbousmoon 「これで登れたら、超人だぞ。それに、さすがに坂は危ないな」 「……あたしも、自転車買おうかな」 「え？」 「そうすれば、一緒に走れるじゃん……そりゃあ、もう今は本気のおまえになんて絶対追いつけないけどさ」 「そんなの構わない。俺は一緒に走りたい」

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@newgibbousmoon 東堂は身を乗り出す。 「なあ、おまえの誕生日に、プレゼントさせてくれないか」 「え？」 「フクが羨ましかったんだ。……だから、今度は俺に、プレゼントさせてくれ」 これくらい、夫の権利を主張していいよな？と嬉しそうに言われれば、うなづくしかない。

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@newgibbousmoon 「いいよ。でも、そんなすごいのじゃなくていいからね」 「ああ。色は何色がいい？」 「任せる」 「わかった」 心の底から嬉しそうな東堂を見ていたら、何だか少し恥ずかしくて照れくさくて、でもやっぱり自分も嬉しいのだと思える。 だから、小声で言った。

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@newgibbousmoon 「……ありがと」 もちろん、聞こえるはずなんかない距離だ。 なのに、振り向いた東堂はそれが聞こえたように笑う。 「なんだよ」 だから、ついつられて荒北も笑みをこぼす。 そして、同時に、涙が出そうになる。 （たぶん、こういうのがしあわせなんだ）

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@newgibbousmoon 温かくて、切なくて、嬉しくて……どうしていいかわからなくなってしまうようなこの感じ。 もし、それをくれるのが東堂でないのなら、荒北はきっと逃げ出しているだろう。 それくらい、この感じは、荒北には怖いものだ。 （だって、抜け出せなくなる）

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@newgibbousmoon でも、東堂ならばいい。 （だって、東堂は絶対にあたしの為にならないことはしないから） 東堂は絶対に荒北を傷つけないと言うべきかもしれない。 そして、ありえないことだが、東堂になら傷つけられてもいい、と思うのだ。 （別にマゾってわけじゃないけどさ）

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@newgibbousmoon 「……どうしたんだ？難しい顔をして。言っておくけど、今更、やっぱりやめたはナシだぞ」 「わかってる。それはいいんだ。……悔しいから、練習するし！」 「……こ、高校時代みたいな練習はやめてくれよ」 「今更、あれはできないよ」 「……うん」

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@newgibbousmoon しかし、東堂の中には荒北だったらもしかして、という疑惑がある。 「せっかくだからウェアを見に行こう」 「気が早いな。今から注文したってすぐには来ないだろ」 下手したら来年の誕生日かも、と荒北は笑った。 東堂は何も言わずに、よく似た笑みを返した。

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@newgibbousmoon 「これ、いいなぁ、俺もやりてぇ」 「ニンジャにしかできねえかもよ」 「これ、乗るほうが勇気いるよな」 （何の話だろう？） レース後のシャワールームで、着替えもそこそこに固まっている集団がいるのを横目に新開は、私服に着替える。

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@newgibbousmoon 「なあ、ハヤト、ハヤト、これ、できるか？」 「何？」 見せられた写真に、ぶっと思わず吹き出す。 「……これって」 「トードーと嫁さんらしいよ」 「え、トードー結婚したのか？」 「あ、うん、嫁さん。去年の年末に結婚してる」 「お、新婚じゃん」

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@newgibbousmoon 「そ、新婚さんなんだよね」 「ハヤトも嫁さん知ってるのか？」 「もちろん！」 （ここで、元彼女なんて言ったら、ややっこしいことになるだろうなぁ） そして、彼らの頭の中では三流昼メロのよくわからんストーリーが展開されるに違いない。

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@newgibbousmoon （でもって、オレは尽八に殺される、と） それを口にした場合、間違いなくそこまでセットである。 だから、うっかりな新開であってもそれは言わないし、言えない。 かつて、自分の彼女だったのだと自慢したいのだけれど、残念ながらそれはできないのだ。

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@newgibbousmoon （靖子とつきあってたことは、オレの自慢だし、オレの誇りだ） かつてつきあっていたことを自慢できる女なんて他にいない。 下世話な、変な意味で言っているわけではなく、本当に心の底から自慢なのだ。 （特別なんだ） 同僚がRTしたその写真を新開は見つめる

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@newgibbousmoon 写真の中の荒北は、本当にできるのかよ、とでも言うような表情で笑ってる。 （だから、幸せでいてくれることが嬉しい……） こんな風にそれを見れることも、すごく嬉しいと思うのだ。 （良かったな……） 東堂も荒北も幸せなんだな、と一目でわかる写真だった。

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@newgibbousmoon だから、それを世界中に自慢するような気持ちで、新開はその写真をリツイートした。 少しだけ意地悪な気持ちもあった。 世間的には独身イケメンロードレーサーである新開のアカウントのフォロワー数はかなりのものだ。特に日本の自転車ファンの割合は高いだろう。

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@newgibbousmoon （金城くんの目にも触れればいい） 荒北の一件で、新開には何も言う権利はなかった。 権利などなくても、機会さえあれば言ってやりたいことはたくさんあったのだ。 けれど、会う機会すらないのだから、どうしようもない。 （……どんな気持ちになるんだろう）

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@newgibbousmoon 自分にはもう絶対に永遠に手の届かない幸せがあること。 それが他の男のものであること。 それを思い知らされることは、きっと何よりもの罰に違いない、と思うのだ。 （オレには何も権利なんかないけど） でも、これくらいの復讐はしてもいいはずだ。

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@newgibbousmoon 新開は、自分のリツイートがどんどんリツイートされていくのを見ながら、皮肉げに嗤った。 「……ひっ」 翌朝、珈琲をおとしながら何気なしに携帯のツイッターをのぞいた荒北は絶句した。 （……こ、これって……） リツイートしているのは新開である。

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@newgibbousmoon 「あの、デブっ、何してやがるっ！！」 「……どうしたんだ？」 日課のロードから帰ってきた東堂に、荒北は無言でスマフォの画面をつきつけた。 「おお、撮られていたのか。うむ。なかなか良い角度だな」 「おい、それが感想かっ！」 額に青筋が浮かんでいる。

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@newgibbousmoon 「撮ったのは、レイだな」 「あたしは一般人だぞ！！」 「まあまあ、次から気をつけるようにいっておくから」 「……嘘つけ」 「そんなことないぞ、ちゃんと言っておく。でも、オレとしてはちょっと嬉しいな」 「何がだよ」 「世界中に広まったからな」

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@newgibbousmoon 「何がだよ！」 「俺たちが夫婦なのだということがだよ。……披露宴はまだまだ先だが、これで世界中におまえは俺の妻なのだと宣言できたということだろう」 同僚のレイモンドが写真につけたコメントは『東堂と東堂の嫁。ラブラブ新婚カップル！』と書かれている。

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@newgibbousmoon 「バッカじゃないの」 「バカじゃないぞ。大事なことだ」 真面目な表情で、でも嬉しそうに笑う東堂に荒北は溜息をつく。 こういう表情をしている東堂には、なぜだかわからないけれど、かなわない、と思うのだ。 「……あのデブ、今度会ったら殴る」

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@newgibbousmoon 「……レイではなく隼人をか？」 「レイのアカウントなんか、どうせ身内と自転車関係者くらいしかつながってないだろ。でも、あのデブのアカウントは桁が違うから！！あいつのフォロワー日本人ぜってー多いし！」 身内の目に触れたら絶対からかわれるだろ！