僕と神通のたった1つの約束

【艦娘たちの戦後】というのが気になって書いちゃいました しかし神通さんはヒロイン適正やばいですね・・・
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深海さかな @dzurablk_kai

…あれはいつだったろうか 「…提督」 春の木漏れ日差し込む、あたたかな執務室 目尻に嬉し涙を浮かべたその軽巡は、目元と共に光る薬指に唇をそえ、静かな声で僕に囁いた 「…1つ、約束してくれますか?」 #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 01:40:15
深海さかな @dzurablk_kai

…夫婦の契りを交わしたその日、二人の間にはもう1つ別の契りが交わされた 「…私は提督の守り刀です ずっと提督のそばにいます だからどうか提督も、どこにも行かないでください …ずっとずっと、私のそばにいて…」 #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 01:42:44
深海さかな @dzurablk_kai

…あれからどれくらいの月日が経っただろうか 戦に継ぐ戦、出撃に継ぐ出撃の中で、僕と神通は着実に絆を深め、また司令部としての評価も高めていた 練度と数、双方の揃った僕らの艦隊は負けを知らず破竹の勢いで各要塞級深海棲艦、その拠点を潰していった #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 01:47:41
深海さかな @dzurablk_kai

もちろん、その功績の陰には秘書艦たる神通の活躍があったのは言うまでもない …今にしてみれば、その頃が一番幸せだったのだろう 大破して帰った神通を慰める時も、全く損害を出さず奇跡的大勝利を収め帰投した時も、僕は変わらず神通を抱きした #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 01:50:56
深海さかな @dzurablk_kai

そして神通も変わらず、僕に優しく微笑みかけて、その暖かな体温と言葉で僕を癒してくれた …あのかけがえのない一瞬一瞬が皆全て、輝いていた #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 01:52:27
深海さかな @dzurablk_kai

…だがそんな日々は、予想だにしない形で終わりを告げた #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 01:53:44
深海さかな @dzurablk_kai

「…じゃあ、先にいってるね?」 そう言って那珂が執務室を去った 今生の別れというには、余りに質素な形の挨拶 …やがて工廠からは鋼材を叩く音が響いて、この世から彼女が消えたことを伝えた #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 01:57:47
深海さかな @dzurablk_kai

「次は私の番か…」 川内がいつものようにやれやれと立ち上がる 「あーあ、もっと夜戦で暴れたかったなー」 …本音とも、場を和ます冗談ともつかぬ言葉と共に、僕らの義理の姉は執務室の扉の向こう、グリーンマイルへと歩み出し、姿を消した #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 02:00:28
深海さかな @dzurablk_kai

…そう 今では、彼女たちが活躍できる夜戦は無い いや、夜戦はおろか出撃も、演習も、遠征も存在しない …勝ちすぎたのだ、僕たちは 勝って勝って勝ち続けて、遂には戦う意味も相手もいなくなった そして、戦友たちさえも… #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 02:04:05
深海さかな @dzurablk_kai

解体された艦娘たちは、記憶を消されて市井に戻る… そこにかつての戦友や武勲、誇りといった想いは存在しない あるのはただ、まっさらな新しい生活… …そして遂に、僕の神通にもその番がやってきた #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 02:07:18
深海さかな @dzurablk_kai

…艦娘が誰もいなくなった艦隊司令部、その執務室にただ2人 まるでアダムとイブだな、などとノスタルジックな思索に浸る 涙も既に枯れ果てている今、こんなことくらいしか考えることが無いのはなんとも複雑な心境だった #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 02:09:59
深海さかな @dzurablk_kai

そんな1人遊びを、手を包む暖かさが途切れさせた 言わずもがな、神通の手だ 「…少し、風に当たろうか」 立ち上がると神通も黙ってついてきた …ただ、手だけは離さずに #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 02:11:32
深海さかな @dzurablk_kai

屋上に上がると、初冬の潮風が頬を打った 「寒くないか?」 振り向くと神通は真一文字に口を結ったまま、首を横に振る …と、突然のつむじ風が神通のスカートを捲れ上げさせた #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 02:15:36
深海さかな @dzurablk_kai

慌てた神通がまるでモノクロ映画の女優よろしくスカートを抑え恥ずかしそうにこちらを見上げる様に、思わず笑みがこぼれた それを見た神通も、少し悪戯っぽい顔に変わる 「…見ましたね?」 「見てないよ」 「ウソばっかりです」 #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 02:17:52
深海さかな @dzurablk_kai

「神通には黒は似合わないと思うな」 「ほらやっぱり、エッチな人 一応はお気に入りなんですよ?これ」 「僕がそう勧めたから、かな?」 そう言ってまた笑い合う 神通の鈴のような笑い声は、司令部の敷地内によく響いた #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 02:20:18
深海さかな @dzurablk_kai

眼下に広がる、寄宿舎や食堂、陸上のトラックや入渠のドッグ、そして解体ドッグまで… それほどまでに朗らかでよく通る、まるで冬の空のように透き通った笑い声だった 「…みんな、いなくなっちゃいましたね」 #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 02:22:57
深海さかな @dzurablk_kai

「そうだな…」 「…私、この基地が好きでした 基地のみんなも、色んな行事やイベントも…」 「僕もだよ」 「みんな、提督のおかげです」 そこで思わず、言葉に詰まった 「ありがとうございます、みんなきっと感謝…しています」 #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 02:24:46
深海さかな @dzurablk_kai

神通の声も微かに震えていた だが彼女は、言葉を紡ぎ続ける 「そう、私たちがみんな幸せに暮らせたのは提督のおかげなんです 今まで提督にお世話になりっぱなしでした だから今こそ提督のために、提督が提督を辞められるよう、解体されるんです…」 #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 02:27:34
深海さかな @dzurablk_kai

それを聴く間僕は、体育館のような解体ドッグを眺めたままだった あの建て屋の中で今頃は、最後に部屋を出た川内が艤装を外し、ずらりと並んだカプセルホテルのベッドのような記憶消去装置、そのフタを上げていることだろう #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 02:30:18
深海さかな @dzurablk_kai

まるで棺桶に入るかのような、今までの自分との決別… 脳の電気信号パターンの記憶そのものである感情も思い出も、それら全てが強烈な電磁場で洗われ失われてしまうその瞬間、彼女らが抱くのは一体どんな感情なんだろう #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 02:32:37
深海さかな @dzurablk_kai

楽しかった思い出の反芻だろうか、あるいは果たせなかった目標への悔しさだろうか 否、きっと皆が抱くのは同じ感情…悲しさだ 悲しさに涙を流し歯を食いしばりながら、隣のカプセルとの絆を一つ一つ断ち切られていくのだ #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 02:34:36
深海さかな @dzurablk_kai

…ちょうど、手を繋ぎあった僕らがそうしているかのように たまらず僕は神通の身体を抱き締めた 「…提督!! 私、解体なんてされたくありません!! もっとずっと、提督と一緒にいたかった…!!」 #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 02:36:20
深海さかな @dzurablk_kai

溢れ出した嗚咽が神通の押し留めていた感情を乗せて、耳元から胸の中へと流れ込み、僕の心を激しく押し潰す 「提督はこの指輪をくれた時、約束してくださいましたよね… 私と一緒にいるって… どこにも行ったりしないって…!!」 #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 02:38:50
深海さかな @dzurablk_kai

「…ああ」 「なのになんで!! 私はこんなに、提督と離れたくないのに!! 提督だって同じ気持ちなはずです!!」 …半ば金切り声にも近い神通の懇願 「そうなるくらいならいっそ、提督と一緒に死を… いえ、提督の手で私を殺して…!!」 #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 02:44:41
深海さかな @dzurablk_kai

「神通!!」 半ば金切り声にも近いその声を、無理やり止める 「…やめてくれ 君には死んでほしくはない… 命令なんだ 海軍を辞める者に、軍の機密や作戦記録の記憶を残す訳にはいかない、そういう…」 #僕と神通のたった1つの約束

2014-11-16 02:48:23