よいこのシモニタ小話

クリフォード=キナチのフィールド・ノートより
4
きなちとシェリーさん @kinachium

~よいこのシモニタ小話ここから~

2014-11-23 00:46:26
きなちとシェリーさん @kinachium

トウキョウの大学で私の講義をとっていた学生に***(場所は伏す)島の出身とする若者がいた。私が島を訪れたのは平家伝説よりも、その風変わりなシモニタ祭に興味をもったからだった。

2014-11-23 00:46:41
きなちとシェリーさん @kinachium

島にはモリソバ神社があり、そこの神主がシモニタ祭の祝をあげるという。小さな神社だが、ご神体は立派な宝剣であるという。大昔に海底から引き上げられたという伝承があり、かなり古いものだそうだ。

2014-11-23 00:47:39
きなちとシェリーさん @kinachium

島の海岸には海から海へUの字を描くように鳥居が並んでいる。祭りの日には海苔、ごはん、エビフライなど様々な食べ物を鳥居の下に置いて“あんとく様”をお迎えする。捧げられた供物は翌日には忽然と消えているという……しかし、U字型の鳥居で迎えては海に帰ることになる……

2014-11-23 00:48:57
きなちとシェリーさん @kinachium

供物がどこに消えるのか若者に尋ねてみたところ、その日の夜は決して家から外に出てはならないというしきたりにより誰にも分からないのだという。それを破って確かめに行った者もいたが、気がふれてしまい海に飛び込んだりしてしまったそうだ。

2014-11-23 00:51:02
きなちとシェリーさん @kinachium

島に着いたその日、神社の神主を見かけたが声をかけることはできなかった。彼が崖から放り投げた光るものが、剣のように見えたからだ。 その後、海に行くと島の皆が見たこともない魚が打ち上げられているのを見て騒いでいた。私も見たが、恐らく奇形か何かだと思われる。

2014-11-23 00:51:46
きなちとシェリーさん @kinachium

老婆がその魚を見て???とく様の祟りだ! 怒りに触れたのだ! と叫んでいたが「???とく様」は忌み言葉らしく口にしてはならない! とたしなめられながら家へと連れ帰られていった。「???とく様」については後に記す

2014-11-23 00:52:35
きなちとシェリーさん @kinachium

祭の当日、初めに神主が検校として海に向かって平家物語を朗々と謳い上げる。しもにたという言葉と平家物語に何の関係があるのかは島民も知らぬということだった。 それが終わると次に、供物を神主が鳥居の下においていく。粛々として静かな、どこか怯えを含む空気がこの祭りには流れている

2014-11-23 00:52:55
きなちとシェリーさん @kinachium

(なんか文章のなおし忘れがありましたがこれをかいたひとはしゅじゅちゅでこんごそんなまちがいをしなくなるので確定的にあんしんだ)

2014-11-23 00:54:40
きなちとシェリーさん @kinachium

神主の祝詞を一部記す「青海の原の底深きかどすけうすの宮におはします君にごはんを奉ることをもうしたまはる……しかれども病人そろはずけんこうなので今しばらくの御猶予を賜りたく……来年の今月今日この時この所に速やかに集い奉りてじつをうけたまはらんと思えば……」

2014-11-23 00:55:37
きなちとシェリーさん @kinachium

海難避けとも豊漁祈願とも思えない、奇妙な祝詞だ――― 私は祭りの夜、宿を抜けて海へと向かった

2014-11-23 00:56:10
きなちとシェリーさん @kinachium

まだ神主が海に平家物語を唱え続けている。長い髪が時化の海風に煽られて大きくうごめく。その髪の中に一瞬、大きなまなこを見た気がした。昼間の静けさが嘘の様に海は大きく荒れている。地面が揺れて、鳥居が倒れた。私と共に来ていた若者が、それを伝える。島民が総出で倒れた鳥居を直しにかかってい

2014-11-23 00:56:58
きなちとシェリーさん @kinachium

誰も私の言葉を聞かない。波に飲まれてはあまりに危険だ。海の彼方から大きな影が見え、誰かがあんとく様お許しを! と叫ぶ。あれは海蛇だ。みな祭りにより錯乱やトランスに近い状態に実は陥っているに違いない。皆鳥居から離れて方々へ散っていく。浜へ行ってはいけない、津波がくる。山へ逃げなくて

2014-11-23 00:57:37
きなちとシェリーさん @kinachium

若者が私を呼ぶ、起き掛けた鳥居が放り出されて挟まれている。津波の中から大きな蛇のような、人のような顔をした、あんとく様はつまり安徳天皇のことか、そのために平家物語を―――神主の姿が見えない―――宝剣とはつまり共に入水した草薙の剣のことで―――若者がその口に飲み込まれようとしている

2014-11-23 00:58:52
きなちとシェリーさん @kinachium

時間が止まったように思えた。安徳様は海に巻き戻るように吸い込まれ、代わりに黒い大きな、形容するなら黒い鉛筆で太く描いた卵のような、異様な物体が、存在があらわれて、言うその言葉をそのまま記す「あばれてはいけませんね? おおむかしにとてもよくきれるメチュをくれたのでしゅじゅちゅしてあ

2014-11-23 01:01:12
きなちとシェリーさん @kinachium

げましたよ? なんだか島がひどいのでおぼれたひとたちもしゅじゅちゅでたすけましょう。かぞくがふえてダブルハッピーですね? うみのそこのおうちもそろそろせまくなってきたのでおひっこしですかね? おや、あなたもしゅじゅちゅごきぼうのかんじゃさんですか?

2014-11-23 01:01:31
きなちとシェリーさん @kinachium

私は“それ”に大きく首を横に振った。ソウデスカー、トテモザンネンデス、という言葉を私の頭に響かせながらざぶざぶと海に帰っていった。

2014-11-23 01:02:41
きなちとシェリーさん @kinachium

共に助かった若者は後日、しもにたせんせい、しもにたなかよし、とうわごとを繰り返しながら海に飛び込み、帰ってこなかったそうだ。あの夜の地震は島のすぐ近くの深海が震源で、百人ちかくの島民のうち生き残ったのは数人だった。その数人も親類をたよって島をでてゆき、島は無人島となった 【了】

2014-11-23 01:03:11
きなちとシェリーさん @kinachium

【補】らおし様はせんせい、即ち老子様か。かどすけすはしゅじゅちゅ、手術という言葉から医療の神を意味するカドゥスケウスのことか。ナカヨシとはどのような意味を持つのか、文字通り友好という意味としては考えにくいが材料が足りない。住処をうつすという話をしていた、それを追えば手がかりが得ら

2014-11-23 01:03:41
きなちとシェリーさん @kinachium

クリフォード=キナチのフィールド・ノートより (あるいはシモニタハンターと呼ばれた男の手記)

2014-11-23 01:03:54
きなちとシェリーさん @kinachium

~よいこのシモニタ夜話ここまで~

2014-11-23 01:04:06