【真荒】あなたのいる場所6

弱虫ペダル二次創作 腐向け 真波×荒北
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ひな@復旧中 @newgibbousmoon

【真荒】あなたのいる場所6 「うへぇ、何これ」 「おまえが、終業式までにやらなきゃいけねえ課題な」 旧図書館におとなしく出頭した真波の前に数えたくない量のプリントが置かれる。 「終業式って、あと一ヶ月ないですよ」 「バァカ、そういう時はあと一ヶ月もあるって思うんだよ」

2014-11-25 00:33:15
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 荒北がおそろしくポジティブなことを言うので、少し真波は驚いた。 「ほれ、これで明日からやる分を一日ずつ分けろ」 荒北が一番最初に真波にやらせたのは、全部の課題とプリントを仕分けることだった。 荒北がくれたのは小さな缶に入った色つきのクリップだった

2014-11-25 00:35:54
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon およそ、荒北の持ち物とは思えないかわいい品に思わず荒北をまじまじと見つめる。 「あんだよ」 「ううん。荒北さんがこれをどんな顔して買ったんだろうと思って」 普通の文房具屋さんには売ってないよね?とたずねると、妹がくれたんだよ、とぶっきらぼうに言う

2014-11-25 00:37:41
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「え、オレがもらっちゃっていいの?」 「いい、いい。まだいっぱいあるし」 「……ねえ、荒北さん、なんでこれ青だけないの?」 「オレが使ったから」 「えー、オレも青好き、青欲しいよ!!」 「ったく、仕方ねえな」 荒北はがりがりと頭をかく。

2014-11-25 00:42:59
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon そして、自分のプリントについてたのを一つとって真波にくれた。 「わーい、ありがと、荒北さん」 代わりに水色あげるね、と水色のクリップを渡すと、元はオレのだっての、と目だけで笑った。 (あ、今の表情、好きだな) きゅっと目を閉じて、記憶に焼きつける

2014-11-25 00:45:13
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「一日二枚ずつやれば終るんだ」 「そ、均せばたいした量じゃねえんだよ、こういうのは。で、そうしたら、フセンに日付書いて貼っとけ」 「フセンもカラフルだね」 「目立つほうがわかりやすいからな。フセンは七日ごとに色変えろ」 「なんで?」

2014-11-25 00:49:23
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「どこまで進んだかわかりやすいから」 「うん。わかった」 この時の真波は本当の意味ではそれを理解していなかった。 「で、それが終ったら、明日の分をやれ」 「えーっ、明日の分じゃないの?」 「バァカ、前倒しでやるんだよ。そうすりゃあ、早く終るだろ」

2014-11-25 00:51:07
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「そうかもしれないけど、何かだまされた気分」 「誰もだましてねえっ」 「わかってる」 むぅっと口をとがらせる真波に、荒北は溜息をつく。 「ったく。いいからさっさとやれ、で、終ったら置いてけ、オレが提出しとくから」 「えー、自分で提出できるよ」

2014-11-25 00:53:15
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「いや、おまえはかばんに突っ込んどいてそのまま忘れる」 「そんなこと!!……あるかもしれない」 これまでの所業を思い返すと、ない、とは言い切れなかった。 「わかったなら、とっととやれ。時間は限られてるんだからな」 参考書を解きながら荒北は言った。

2014-11-25 00:56:12
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「ったく、やればできるじゃねえか」 昼休みと放課後、荒北が勉強している旧図書館で、課題とプリントをコツコツと仕上げた。 自分はこういう積み重ねていくことが案外嫌いじゃないことがわかったのは大きな発見だった。 (山登りに、ちょっと似てるかも)

2014-11-25 00:58:36
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「えへへ、荒北さんのおかげです」 「だよな。オレもすげえそう思うよ」 荒北は自分の参考書から顔を上げて、ちょっとだけ呆れたように笑う。 (ここにいる時の荒北さんは、何かちょっといつもと違う気がする) いつもより少し優しくて、いつもより穏やかだ。

2014-11-25 01:00:43
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 課題にそれぞれ日付を振ってあると、どんどん前倒しをするのが楽しかった。 もう三日分もリードしていると考えるともっと前倒ししようと思ったし、七日ごとに代わるフセンの色が最後の黄色に変わったときは、ああ、もうすぐゴールなんだと思えて、更に前に進めた。

2014-11-25 01:02:53
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 結局、三週間分の課題は十日で終ったし、自分でも驚いたのが、期間中にあった数Ⅰの小テストで90点という好成績をおさめ、自分でも驚いたほどだった。 「おまえは、頭も悪くねえし、カンどころもいい。やりゃあできるんだよ」 「オレ、できる子なんですね」

2014-11-25 01:06:02
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「そうだよ。おまえは山に登るのが一番好きなんだろ?」 「はい」 「それを補習とか、課題とか、そういう面倒くせえもんに邪魔されないようにほどほどにやっとけや」 「……ほどほどに、ですか?」 「おう」 荒北さんは気がない様子でうなづく。

2014-11-25 01:08:17
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 全力で、最後の一滴までも絞りつくすような走りをする荒北さんの口から、ほどほどになんて言葉が出るのが不思議だった。 「手抜きしろって言ってるみたいに聞こえますけど」 「必要になればやるんだから、それまでは、一番大事なことに全力使っとけ」

2014-11-25 01:09:36
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon おまえの一番は山だろ、と荒北が当たり前のように言うから、真波は嬉しくなって笑った。 そして、思いっきり大きくうなづいた。 「はい」 「よし。いい返事」 んじゃ、これで解散な、と荒北は終ったプリントを手にとんとんと整える。 「えーっ」

2014-11-25 01:12:48
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「別に来てもいいけど、終業式までだぞ」 「え?」 「年明けから三年はほとんど自由登校になる。俺は家の都合でまだ寮にはいるけど、こっち出てくるかはわからねえ」 (……あ……) この時、真波は初めて荒北が三年生であるのだということを実感した。

2014-11-25 01:15:06
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「夜も眠れてるようだし、もう、大丈夫だろ?」 真波と目線を合わせる表情は、まったく険がない。 (荒北さんって実は結構イケメンなのかも) いつも皮肉げなひどい表情をしているから気がつきにくいだけで。 「眠れて入るけど……」 「けれど?」

2014-11-25 01:17:21
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「目は何度も覚めるんだ」 (でも、そのたびに荒北さんの背中を思い出すんだよ) 「夢はみるのか?」 「え?」 (オレ、荒北さんにそのこと話したっけ?) 「いや、俺が眠れなかった時は一番最低な夢を繰り返し見てたから」 「……今は、見てません」

2014-11-25 01:19:40
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「ふーん。じゃあ、今度からやな夢見たら、楽しいこと考えて上書きしておけ」 「上書き?」 「そ」 「荒北さんは何の夢で上書きしたの?」 「俺?俺は死ぬほどローラー回して、夢見る間もないくらい疲れきって寝るようになったから」 「……それ、いいですね」

2014-11-25 01:22:16
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 一石二鳥だ!と指を鳴らすと、荒北はバァカと呆れた顔で言った。 「おまえはそういう無茶すんじゃねえの。元が丈夫じゃねえんだから」 「え、荒北さん、なんでオレの事そんなによく知ってんの?」 「見てればわかるだろうが、そんくらい」 おまえ熱でやすいし。

2014-11-25 01:23:38
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「風邪もひきやすいもんな」 (荒北さん、すごい!) 「風邪は荒北さんもひきやすいよね」 「まあな。ローラー回すんなら、そのへんは泉田と相談しろ」 「泉田さん?」 「ああ。あいつはそのへんがよくわかってるから」 「はい」 真波は素直にうなづいた。

2014-11-25 01:25:45
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「じゃあね、荒北さん。ありがとうございました。また、明日も来るからね」 「おう」 荒北はノートから顔をあげず、ひらひらと手だけを振る。 真波は、それを何となく切ない気持ちで見た。 (あと何回、こんな風に過ごせるんだろう)

2014-11-25 01:27:51
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 真波は時間が有限であることを初めて理解した気がしていた。 ずっと自由だった真波にとって、それは初めての限られた時間という概念だった。

2014-11-25 01:29:57