【創作】ランプロファイア序章

創作作品の殴り書きをまとめ。自分用。 ------------------------ 流野昭博(ながれの・あきひろ):男子大学生。何かの干渉を受け、デイの存在を認識できるようになった。 白浜栞(しろはま・しおり):女子大生。昭博の恋人。 続きを読む
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井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 予定の時刻まで残り数時間。それまでの経過は良好だったのに、ここで計測値と想定値がズレた。今までの記録から推測する。計測値は想定値より少ない。足りないのは命ひとつ分。つまり誰かの死が確定した。このタイミングで計測値に影響を及ぼす死者など一人しかいない。舌打ち。

2014-12-08 03:16:45
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 乱暴に上着を羽織る。これだから気まぐれな子は嫌いなんだと恨み節を溢す。このまま計測し続けるままでは望む結果は得られない。状況の好転のために出来る事は少ないが、赴かない訳にはいかない。変化し続ける計測値を見て、勘が鋭すぎるのも嫌いだとまたこぼす。時間がない。

2014-12-08 03:22:01
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 『世界』に接続。数値から演算された『人々の生活』の中に飛び込む。いくつかの路地の状態を『工事中』に書き換えながら計測値の変動箇所へ向かう。今回の試行では、そこで死者は出ないはずだった。見えない所で突発的に発生するように見える乱数、その法則は未だに読めない。

2014-12-08 07:20:35
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 計測値の変動現場へ辿り着く。そこには推測通り死に行く一人の少女が血溜まりに横たわっていた。まだ息はある。しかし彼女の死はもう変えられない。人に直接触れる事が出来ない以上、止血して手当などできるはずもない。それ以前に演算結果に『こちら』は認識できない。

2014-12-08 07:28:28
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 少女は時折うわ言のように彼女の恋人の名を呼ぶ。その声が酷く神経に障る。予定の時刻までは長くも短くもない。彼女の命の残量はそれまでに尽きる。『彼』の位相はまだ遠い。何が起きているか知ることは無いはずだ、このままの移動量を保ち続けるなら間に合わない。

2014-12-08 07:50:35
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 少女の傍らで空間に立体地図を展開。いくつかの路地に触れて『工事中』の箇所を更に増やす。なにせ深夜だ、この時間帯だけ通行止めの場所が増えても何ら不自然はない。念には念を、くらいの心で『彼』の進路を徹底的に潰す。少女を『彼』に看取らせてはならない。

2014-12-08 07:56:18
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 「なんでさ、殺されてんの」苛立ちがそのまま形になる。予定の時刻――それ以前の半年間を不変の歴史として確定するチェックポイントまで、彼女が生き延びた試しはない。そして彼女の骸を目にした『彼』が狂わなかった試しもない。

2014-12-08 08:06:33
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 今回は『彼女の死』が確定するのが通例よりも随分と遅かった。このまま予定の時刻を過ぎれば――夜が明ければ、少なくとも『彼』が狂う前の記録は残せる。もちろん最良ではないだろう、しかし現時点で取れる最善策には違いなかった。

2014-12-08 08:10:05
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 「なに頑張っちゃってんのさ」届かないのはわかっているが、それでも苛立ちは溢れ続ける。試した事はないが『骸』という物体なら触れられるのではないか――そんな考えが浮かんで。今までその発想に至らなかった自身に呆れるしかなかった。「彼なら間に合わないよ。諦めたら?」

2014-12-08 08:15:46
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 物体であるなら状態の上書きは可能だ。きっとそれは、有機物無機物関係ないはず。今までは無意識に有機物に対して権限を行使することを避けてきた。一度考えが至ってしまえば、躊躇う理由がない。試しに手近な果物を『皮剥き済』にしてみる。何のエラーも起きずに実行できた。

2014-12-08 08:22:42
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 「なんだ、もっと早く気づけば良かった」幾分か苛立ちが覚めた声。目の前の少女は、おそらくもう目も見えていないはずだ。夜も白み始めた。あともう少し。すっかり目を離していた計測値に再び視線を向ける。覚めた目が大きく見開かれる。

2014-12-08 08:31:37
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 「んなアホな――」『彼』の位相が『彼女の死』までに『彼の到着』が間に合う数値を示していた。あり得ない。何故。原因を探す。『彼』と共に同行者がいる。同行者は車を所持している。そこから導かれる可能性。何か『余計な事』をしてしまった?

2014-12-08 08:36:07
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 「――あ」脳裏に浮かぶのは『工事中』の看板。進路を塞ぎすぎて『彼』が別の人物に会うきっかけを作ってしまったのか。「やっちゃったな……書き戻し(ロールバック)だ、悪い癖だよ本当に。今度こそ確定(コミット)だと思ったのに」顔が隠れるように上着のフードを閉じる。

2014-12-08 08:40:53
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 認識される事もないのに、何となく棚の後ろに隠れる。背後で焦ってドアが開けられる音がする。振り向けば『彼』がそこにいた。まだ息がある彼女に駆け寄り抱き上げる。それを待っていたかのように彼女の命は潰える。それを看取った彼の悲痛な声が――通例のように響かなかった。

2014-12-08 10:24:51
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 「…?」おかしい。何百回の試行の中で、この状況とこのタイミングで『彼』が取り乱さないことなどなかった。そっと棚の影から顔を出す。幽鬼のようになった瞳がこちらを向いた。視線は絶対に重ならない。『彼』もまた演算結果だ、『彼女』同様こちらを認識することは出来ない。

2014-12-08 12:09:22
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 明らかに指向性を持って放たれた言葉。『彼』の視線は真っ直ぐにこちらを睨み付けている。あり得ない事が――世界の前提すらひっくり返す事態が目の前で起きていた。「……やぁ。月が綺麗だね?」アラートは鳴らない。事態の解析とこの場の収束、ふたつの事柄を全力で思考する。

2014-12-08 12:22:07
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 「そんな目で見ないでおくれよ。こちらも混乱しているんだ、話をしよう」言葉の裏でログを確認する。目立った計測値の乱れはない。これだから『上』は、と内心で毒づいた。 (一旦締める)

2014-12-08 12:26:32

井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 「こちらも混乱しているんだ、話をしよう」それは間違いなく本音だった。思考を三つに分割する。そのうちひとつで『彼』との対話を始めつつ、残りの二つで状況の確認と解析・状況の収束方法を並行して行う。分割思考自体は慣れているが、対話を織り込むのは久しぶりすぎた。

2014-12-23 04:16:54
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 「――誰だ、と聞いている」低い声で再度問われる。何となくホールドアップしながら、棚の影から『彼』の前に姿を現す。「定型文で返そうか」 計測値に不自然な乱れは無し。ならば値に影響しない箇所に『改竄』が為されたか。「名前を問うなら、まず自分からじゃないかな?」

2014-12-23 04:23:08
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 『ログ』を遡る。『彼』を演算するための要素が改竄された形跡はないか。「先に問うたのは、こちらだ」「……、いや。君ならそう言うと思ったよ」言葉を口の中で転がして、別の言葉に差し替える。改竄の形跡はあっさりと見つかった。何を変更したかはわからないが、予測はつく。

2014-12-23 04:30:47
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 『彼』を演算するための要素の何かが置き換えられた、あるいは追加された。その結果『彼』は本来認識出来るはずのない『こちら』を認識してしまった。確定で『上』の仕業だろう。少なくとも自分と同じレベルの権限で出来る芸当ではない。

2014-12-23 04:34:38
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 「まったく、気紛れにも困ったもんだ」「……?」「ああごめん、独り言」舌打ち交じりの内心が言葉になっていた。ホールドアップの姿勢は崩さずに『彼』の刺すような視線に答える。目線こそこちらから外さないものの、その両腕は骸と化した『彼女』をしっかりと抱き止めていた。

2014-12-23 04:43:34
井上ばるく@伯耆国 @in_baq

@sousakuTL 「……私が何者かって話だったね」苛立ちを呑み込む。『彼女』の死はどのみち避けられなかった。今はもう言及する価値もない話題だ。「悪いけど、名乗れる名前はないんだ。名乗る必要がなかったから、忘れちゃってね」肩を竦めて見せる。『彼』の瞳が丸くなる。

2014-12-23 04:48:39