「フィスト・フィルド・ウィズ・リグレット・アンド・オハギ」 #1

B・ボンド&P・モーゼズ作。ネオサイタマを舞台としたサイバーパンク・ニンジャ活劇「ニンジャスレイヤー」の私家翻訳物 詳細はこちら http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「フィスト・フィルド・ウィズ・リグレット・アンド・オハギ」その1

2010-08-06 17:53:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

重金属を含有する酸性雨が降りしきる夜の安宿街、明滅する巨大な「タケノコ」というネオン文字に、黄緑に照らされながら歩く男の姿があった。

2010-08-06 18:02:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

くたびれきった防塵トレンチコートはところどころ擦り切れ、目深にかぶった毛糸帽も虫食いだらけだ。男は片足を引きずりながら、おぼつかない足取りで、水溜りをハネ散らかして歩いていく。

2010-08-06 18:04:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

こんな時間帯に浮浪者が一人で出歩くなど、絶対に避けねばならないことである。見よ、男の後方3メートルを。鉄パイプを持った2人の武装ヒョットコが、少しずつ距離を狭めながら、男の後をつけてゆく。

2010-08-06 18:12:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヒョットコは、センタ試験と呼ばれる過酷な選抜試験からドロップアウトし、家を追われた十代の浪人生で構成された、巨大なストリート・ギャング・クランである。このトミモト・ストリートも、奇怪なマスクを被る彼等の掌握下にあった。

2010-08-06 18:19:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼等にはルールも良心も無い。特に浮浪者狩りは彼らの間で最もホットな競技である。日没から日の出まで、浮浪者達は遠く離れたセンベイ・ステーション周辺で時間をつぶすか、あるいはなけなしのトークンをはたいて、アニメ喫茶に避難するしか無い。この男は誰もが知るそのルールを忘れてしまったのか?

2010-08-06 18:25:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

左のヒョットコが右のヒョットコの肩をつつき、自分の鉄パイプを指差して笑った。ナムサン、先端には電動ドリルがくくりつけられている。右のヒョットコはそれに応え、ポケットから左手を出して見せる。握っているのは拳銃だ。「ヒッヒヒ!」2人はおかしくてたまらぬのか、声を漏らして笑いあった。

2010-08-06 18:30:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゆがんだ電信柱の陰まで男が歩みを進めたとき、ヒョットコはいきなり男に拳銃を発砲した。乾いた銃声が空気を震わせ、男は驚いて身をすくめ、しゃがみこんだ。狙いは外れたようだが、そんなのはおかまいなしだ。2人のヒョットコは爆笑しながら、男を取り囲む。

2010-08-06 18:33:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヒャハァー!」電動ドリルのほうが男の背中を蹴りつけた。「アイエー!」男は情けない悲鳴をあげ、ぬかるみに突っ伏した。

2010-08-06 18:36:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドリルやれよ!ドリルをよ!」拳銃のヒョットコが叫んだ。「ガッテン!」片割れが電動ドリルのスイッチを入れる。危険なモーター音が鳴り響き、回転する刃先が男の目玉に突きつけられた。「アイエーエエエエ!」男は激しく抵抗したが、拳銃のヒョットコが後ろから彼を羽交い締めにしてしまった。

2010-08-06 18:48:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「すっごいぜ!すっごい!」笑ながら、ヒョットコはドリルをオトコの眼球にちかづけていく。ナムアミダブツ!だがこの地獄絵図は、ネオサイタマのストリートにおいてはありふれすぎた「チャメシ・インシデント」なのだ!

2010-08-06 18:52:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それぐらいにしておけ、小僧ども」道の反対側の電柱の陰から、別の男がゆらりと姿を現した。「アイエーエエエエ!」浮浪者はより一層の大声をあげた。ヒョットコたちは新手の人影を睨みつけた。

2010-08-06 18:59:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その男もまた、くたびれきった身なりではあった。だが、ボロボロの防塵トレンチコートの下の肉体は違う。がっしりと盛り上がった肩と太い首が作る四角いシルエットは、男がいま水溜りで震えている浮浪者とは別種の存在であることを告げて余りある。

2010-08-06 19:10:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヒャハァー!一匹増えたあ!」「ダブルスコアだ!」ヒョットコは爆笑しながら鉄パイプを振り上げた。「アイエーエエエエ!」水溜りで浮浪者が叫んだ。二本の鉄パイプが、新参の男に振り下ろされる!

2010-08-06 19:39:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

闇の中で鳴る鈍い音。「タケノコ」のネオンサインがバチバチと光った。屈強な男は肩で鉄パイプを受け、微動だにしない。先端の電動ドリルが虚しく宙を掻いた。「あれえ?おかしいぜ?」「テストに出ないぞ!」ヒョットコたちが顔を見合わせる。

2010-08-06 19:43:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

男の肩を粉砕するはずの鉄パイプは、まるで飴細工のように、男の肩の輪郭に沿って、ぐにゃぐにゃに歪んでいた。闇夜に男の鋭い眼光が光った。

2010-08-06 19:51:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ぶるる、と男の肩が震えたようだった。「イヤーッ!」ドウン、と、銅鑼を鳴らすような破裂音が轟いた。電動ドリルのヒョットコが、消えた。男は拳をまっすぐに突き出し、直立していた。「え?」もう一人のヒョットコが、路地をキョロキョロと見回した。

2010-08-06 20:06:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエーエエエエ!」浮浪者が斜め頭上を指差した。「タケノコ」の「ケ」の灯りが消えていた。ヒョットコはそちらへ目を凝らした。「ケ」があった空間には、かわりに、「大」という字が書かれていた。

2010-08-06 20:10:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

字が変わった?いや、そんなはずはない。あれは字ではない!四肢を広げた人間の形に、看板にうがたれた穴である!

2010-08-06 20:16:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「活力バリキ」ドリンクのオーバードーズで極度の興奮状態にあるヒョットコにも、おぼろげながら事情がのみこめてきた。相棒はこの男の素手のパンチを食らって、斜めに吹っ飛び、あそこにある看板に埋め込まれてオブジェになった。わかりやすい。「ヒ...ヒヒー!」ヒョットコは失禁した。

2010-08-06 20:46:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエエエエエ!」浮浪者が叫んだ。男はヒョットコの手から拳銃を取り上げ、ルービックキューブをいじるかのようなリラックスした手つきであっという間に分解してしまった。「まだやるか、ヒョットコ=サン」男が凄みをきかせた。ヒ「ヒヒー!」ヒョットコは失禁しながら脱兎の如く逃走した。

2010-08-06 20:49:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

男は浮浪者に肩を貸し、立ち上がらせた。「もう大丈夫だ、お客さん」「あんた、何者だ?」礼すら忘れ、浮浪者は問うた。「ヨージンボーだ、お客さん」男は低く言った。「こんな時間にウロウロして、他所から来たのかね、お客さん?」浮浪者は頷いた。「炊き出しが毎日あるって聞いたから...」

2010-08-06 20:54:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

男はガラガラ声で笑った。「が、はは、はは!そんなうまい話、ネオサイタマのどこにもないよ、お客さん!」「アイエエ....」浮浪者はしょんぼりとうなだれた。

2010-08-06 21:06:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「さっきのガキども、あれはヒョットコ・クランと言って、殺人嗜好者の集まりだ。炊き出しの噂を流したのも奴らだろう。地元の人間達が奴らの人間狩りを警戒するようになったからな。他所からお人よしの獲物を調達というわけだ」男は歩き出した。「ついて来な、お客さん。寝場所くらいはあるよ」

2010-08-06 21:13:55