空想の街・灯りの樹の夜'14 一日目 #赤風車

#空想の街 「灯りの樹の夜」一日目(14/12/12) #赤風車 。公式様参加者様、お疲れ様でした。 時系列順に絡んでくださった方のツイートも入っております。有難う御座いました。 何か問題など御座いましたら、お手数をおかけして申し訳ないのですが、ご一報頂けると幸いです。すぐに修正いたします。 他本編や番外などはこちら→http://nowhere7.sakura.ne.jp 続きを読む
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不可村 @nowhere_7

鮮やかに魅せ散るを待つ 咲かぬ花に落ちる花 風に弱きはどちらとも 椛が白に染まるまで 鳴る風車に花が咲く #赤風車 #空想の街

2014-12-12 00:10:06

宵闇の椛

不可村 @nowhere_7

男にとって、冬は余り得意な季節ではなかった。冷たさとあの白の鮮烈さはどうにもよくないものを連想してしまうせいだった。まるで己がその想像に縫いとめられているかのようだ、と彼は思う。単に彼の場合、体調を崩しやすいせいだというのもあるのだが。 #空想の街 #赤風車

2014-12-12 00:37:11
不可村 @nowhere_7

列車から足を降ろし、狐色の羽織りと椛色の首巻きを靡かせ男は街に到着する。一度周囲を見渡して、はあ、と何とはなしに溜息をつけば、薄い眼鏡に膜が張った。ひゅうと消える白い靄の向こう、久方ぶりの街が広がった。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 00:41:07
不可村 @nowhere_7

雪がないのが幸いだった。一本歯下駄を煩く鳴らすことも無く、男は歩を進める。狐色の羽織りから覗く桧皮の着物。色素の薄いふわりとした長い髪は緩く編まれている。その先に蜻蛉玉のついた髪留めをつけているが、毛先だけが何故か楓の葉の形に広がっていた。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 00:49:26
不可村 @nowhere_7

併し冬で一番いいのは着込むために体が細いと悟られんことだ、と彼は独りごちる。背は低くは無いが、お世辞にも体格がいいとはいえない自身の体のことを考えると男はどうにも落ち着かない。喉仏や節が目立つ手足のおかげで女には間違えられないのだが。 #空想の街 #赤風車

2014-12-12 00:54:47
不可村 @nowhere_7

――この街はいい街だ。 窮屈なしがらみを厭う彼は心底思う。一年ほど前に気まぐれに色々と旅をした中、一日いたかいないかの滞在期間でしかないこの「空想の街」だったが、時計塔の聳えるこの街はとても印象深かった。海も森もある。そして何より、ひとがひとに優しかった。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 01:04:51
不可村 @nowhere_7

ひとがひとに優しい、というのは簡単な話ではない。親切であればよいというものでもない。心をもつものならヒトでなくとも人間、思想や主義が違っていても崇めすぎたり蔑んだりしない。互いを尊重しつつ共生するというのは生半可なものではないのだ。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 01:08:56
不可村 @nowhere_7

最初にこの地を踏んだとき、“ここは己が息を吸うことを初めて赦してくれる街だ”と思った。 だがだからといって彼はここに定住することはしなかった。否、だからこそ、しなかったのだ。旅ののち、敢えて厳しい場所へと結局戻った。その判断は間違っていなかった筈だった。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 01:13:12
不可村 @nowhere_7

それなのに、何故。どうしてこうなる。今になって。自問を繰り返せどもどこからも答えはこない。己の下駄がここをまた踏んでいることが不思議でならなかった。何かから逃げたつもりも何かを諦めたつもりもない。始めるつもりで歩いてきた。だが何故ここなのか、分からなかった。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 01:19:19
不可村 @nowhere_7

単にこの街の居心地が、空気が好いせいだ、そうだそれでいい。男は顔を顰め、指で眉根をじわりと押さえた。 ――ここは確か第二東駅付近だったか。東区のうち南区寄りの、海に程近い場所。ふと物音が聴こえたように思え、男は細い体を捻る。からり。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 01:33:56
不可村 @nowhere_7

音。ひとつのしがらみを絶てばまたひとつのしがらみが生まれる、この世。いや先刻の音は気のせいだ。偶然だ。珍しく下駄が鳴っただけだ。男はずれた紅色の襟巻きを直し、中に柔らかな三つ編みを入れた。隅から楓型の毛先が覗く。それを無感情に眺め、夜の街をまた歩き出した。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 01:38:43

泥濘に咲く

不可村 @nowhere_7

ふ、と意識が浮上する。少々虚弱気味とはいえ、流離うことに慣れた身は、冬場の路上でも音を上げることはなかった。頭を掻きつつ周囲を見渡すともう大分街は賑やかになってきていた。肩から落ちた襟巻きを拾い上げて男は思う。夜中の静けさなど嘘のようだ。 #空想の街 #赤風車

2014-12-12 14:17:24
不可村 @nowhere_7

ここは建物の陰だったので幸い被害はなかったが、どうやら雨が降っているらしい。昨晩、列車に乗る前に、役所で換金しておいて本当によかった。着物についた汚れを払い、下駄を履きなおして立ち上がる。この街に定住すると決めたからには、住処も金も仕事も必須だ。 #空想の街 #赤風車

2014-12-12 14:26:00
不可村 @nowhere_7

金なら夜のうちに、今まで持ってきたありったけを換金した。定住するつもりだ、商売をしたい、と言えば、役所の者は頷いて応援してくれた。長ったらしい手続きやら、出自を問い詰められるかと覚悟していたがそれはなかった。流石はこの街ということか。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 14:28:50
不可村 @nowhere_7

問題は住処と仕事の内容なのだが、男にはそれよりも、どうにも気にかかることがある。昨晩一度聞いたきりだと思っていた妙な音が、まだどこからか続いているような気がするのだ。脳内を暴れているだけかも知れなかったが、これをどうにかしないことには安心して住処も探せない。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 14:31:46
不可村 @nowhere_7

この程度の雨なら、特に気にせず歩けるだろう。男はそう判断し、東区の更に南区寄り、もっと海に近いほうへと歩いていく。今はあまり使われていない住宅街の名残のようだった。和風なのだが、所々に西洋風のものも見られる。この近辺には人が居ないようだ。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 14:35:11
不可村 @nowhere_7

雨を吸い込む海に近くなれば近いほど、何かが男を呼んでいる気がした。気配が強くなった、と思った瞬間、直後にぱったりと脳に無音が訪れる。通り過ぎた一軒の襤褸家を、ゆっくりと振り返る。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 14:37:38
不可村 @nowhere_7

数歩戻って、そろりとその廃屋の敷地へ足を踏み入れた。建物の陰をそっと窺えば、そこには置いてきた筈の物が立て掛けてあった。いや違う。あれは旅のさなかに失くしたと思っていたものだ。この街に置いてきていたのか。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 14:39:48
不可村 @nowhere_7

さくさく草を踏みしめ、それに近寄る。使い物になるだろうか。箒を逆様にしたようなそれは、名称を弁慶という。祭りで蝶々売りなどが売り物を挿して練り歩くための物だ。普段自分が使っていたものは元の町に置いてきたのだから、これは矢張り、旅で忘れたもの。 それならば。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 14:44:00
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