傭兵鎮守府【Mission 0】

傭兵鎮守府プロローグ的小話
1
奈由坂 @nysk_ryona

何処か洋上に浮かぶそれなりに大きな島の一角に、ソレはある。 お世辞にもキレイとは言い難い外壁に、ひび割れと油汚れの目立つ廊下。 海に面したソレは、彼らがやってくるまでは廃墟同然だった。 その廃墟が、今やこの島の生命線の一つである。 #傭兵鎮守府

2014-12-19 05:27:13
奈由坂 @nysk_ryona

かつての廃墟、今の要塞の奥。 少しだけ偉そうな扉を携えた部屋の中で、机に身を預けながら書類を読む提督と、その机に我が物顔で座る叢雲がいた。 #傭兵鎮守府

2014-12-19 05:28:19
奈由坂 @nysk_ryona

「…で、これどうすんのよ。」 「これ?」 その、あまりにも華奢な体躯の少女が、一枚の書類を手元に遊ばせていた。二本の指先でヒラヒラと、これ見よがしに男の前で躍らせる。 その紙面は負に傾いた収支報告書。インクの都合で赤字はない。 #傭兵鎮守府

2014-12-19 05:28:52
奈由坂 @nysk_ryona

「今月の収支に決まってんでしょ。いい加減一度くらい黒字を見せてくれてもいいんじゃないかしら。」 「まあまだまだ焦る時期じゃない。どうとでもなる。」 「本当に、よくもまあこのザマで6ヶ月も生き長らえてるわね。別の司令官に着こうかしら。」 #傭兵鎮守府

2014-12-19 05:30:58
奈由坂 @nysk_ryona

「好きにしろ。どうせテメーの性格じゃ、またここに流れ着くのがオチだ。」 前の月も、その前の月にもした会話を、今月も繰り返す。実際収入源が無いから仕方がない。 深海棲艦から資源を回収しようにも、この辺りの連中は大方駆除してしまったし、遠くに出れば今度はリスクが上回る。 #傭兵鎮守府

2014-12-19 05:33:28
奈由坂 @nysk_ryona

「まあ、この茶番もボチボチだ。」 「そのセリフも何回目かしらね?」 相変わらず定例の会話を続けていると、ドタドタドタ、と廊下をかける慌ただしい足音が近づいてきた。 #傭兵鎮守府

2014-12-19 05:34:54
奈由坂 @nysk_ryona

「チィーッス提督!に、叢雲!漁師のおっちゃんから情報だよー!!」 「…はぁっ、はぁ…。鈴谷…ですからもっと…行動に落ち着きを…はぁ…。」 #傭兵鎮守府

2014-12-19 05:36:30
奈由坂 @nysk_ryona

走る勢いそのままに入ってきたのはストレートに伸ばした緑色の髪が特徴的な娘鈴谷と、後頭部から垂れる亜麻色の髪が上品な娘熊野。 …今は長距離走の直後のせいか、その自慢の髪も乱れまくっているが。 「よしよし。熊野お嬢のお小言は無視して情報の詳細を聞こうじゃねーか。」 #傭兵鎮守府

2014-12-19 05:36:59
奈由坂 @nysk_ryona

「ワーオ提督容赦なーい。んじゃ、早速。」 そう言ってコホン、とわざとらし咳払い。その後ろではまだ熊野が膝に手をついて肩を上下していた。 「えーと、2,3ヶ月前から隣の鎮守府の周りで暴れてた海賊いるじゃない?アレ、こっちの近くでも見かけたって。」 「…来たか!」 #傭兵鎮守府

2014-12-19 05:37:27
奈由坂 @nysk_ryona

鈴谷が持ってきたのは鎮守府近海での海賊出現の報。コレを聞いて部屋の中がにわかに熱を帯びる。 やる気なさげにしていた提督も、その顔の横に腰を下ろしていた叢雲も、獲物を見付けた猫のように、その目を爛々と輝かせていた。 #傭兵鎮守府

2014-12-19 05:38:01
奈由坂 @nysk_ryona

「ようやく、ね。来月こそは黒字を見せてもらえそうじゃない。」 「うむ。ようやく収入源がウチにも流れてきたぞ。いやあ随分と待ったもんだ。」 「…あ、あのー…」 #傭兵鎮守府

2014-12-19 05:38:58
奈由坂 @nysk_ryona

鎮守府始まって以来の金づるの出現に湧く執務室に、これまた邪気の無い声が申し訳無さそうに飛び込んでくる。 見やると、金色の右目に、眩しいほどの金色を放つ左目を持つ少女、古鷹が扉を小さく開いてこちらを覗きこんでいた。 「…入ってもよろしいでしょうか?」 #傭兵鎮守府

2014-12-19 05:39:29
奈由坂 @nysk_ryona

「おう、入れ入れ。これから新しいオトモダチの身包みを剥ぐお話をしようとしてたところだ。」 「あ、そう。それについてなんですけど。」 古鷹は部屋に入ると、手に持っていた紙を取り出して、提督に手渡した。 その内容は、「近海に現れた海賊をどうにかしてくれ」という依頼文。 #傭兵鎮守府

2014-12-19 05:40:04
奈由坂 @nysk_ryona

鈴谷とは別に、古鷹も情報を手にしてきたようだ。正直あまり歓迎出来るものでは無かったが。 「あー…なんだ町の連中もこういう行動ははえーな。」 「そう言わないでください。町の協力がないと鎮守府自体存続できなかったんですから。」 #傭兵鎮守府

2014-12-19 05:40:46
奈由坂 @nysk_ryona

「それはそうなんだが…どうせなら依頼来る前に対処してふっかけたかったな…。」 「あら、何をバカなことを仰っているのかしら。」 その依頼文を見て、あからさまに嫌そうな顔を擦る提督。その提督をたしなめたのは今の今まで呼吸を整えるしか出来なかった熊野だ。 #傭兵鎮守府

2014-12-19 05:41:24
奈由坂 @nysk_ryona

「そもそも、私達が赤字経営を余儀なくされているのも、まともなお仕事が来ないことが大きな原因でしょう?」 「実入りの良いお仕事をするためにも、このような依頼をキッチリこなした、という実績は大切ですわよ?」 「お、おう…」 #傭兵鎮守府

2014-12-19 05:42:14
奈由坂 @nysk_ryona

上司に対してこうもズケズケとモノを言う部下というのもどうなのか。…いや、今まさに上司の机に座っている娘もいるが。 「…まあ、いい。町からの依頼も出たし、お客さんからお金と資源を貰いに行くとしよう。」 「対人戦闘なんてやるのは何時ぶりかしら。」 #傭兵鎮守府

2014-12-19 05:43:04
奈由坂 @nysk_ryona

「ふっふーん。鈴谷達には初めての経験じゃん?一つよろしくね、叢雲。」 「…えっと、相手は深海棲艦ではないので…出来るだけ人的被害は抑えましょうね?」 「所詮賊相手。確約は致しかねますわ。」 #傭兵鎮守府

2014-12-19 05:43:35
奈由坂 @nysk_ryona

やることが決まれば、各々が士気を高めながら既に準備を始めている。このフットワークの軽さは小規模部隊のいいところだ。 「…ブリーフィングは移動しながらでいいだろう。さあ、楽しい楽しい蛮族経済のお時間だ。狩るぞ。」 #傭兵鎮守府

2014-12-19 05:46:40