【第三部-十一】冬の海の上で #見つめる時雨

時雨 夕立 由良 夕張 五月雨 龍鳳 磯風 浜風 山城 扶桑
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誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

暗闇に包まれた海。その中で唯一の光源となっていたのは輸送船だけだった。僕と夕立、五月雨、夕張、そして旗艦の由良は日本への積み荷を乗せたこの輸送船の護衛に当たっている。僕らの任務は、この船を日本へ無事に到着させること。

2014-12-22 20:00:22
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輸送船を中心に輪形陣を組みながら夜の海を進む。僕は後方警戒に当たった。今のところ幸いにも深海棲艦には遭遇していない。とはいえまだ予定の航路の半分を過ぎた辺りで、まだまだ気は抜けない。このまま何事もなく終わればいいけれど…。

2014-12-22 20:05:10
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「五月雨ちゃん、大丈夫?」 「はい、ちゃんと暖かくして来ましたから」 夕張が五月雨を気遣う。冬の海は寒い。支給されたコートに身を包んでいても凍てつくような風は中々防ぎきれない。僕も山城から貰ったマフラーなどで防寒をしているけれど、それでも身体の震えは完全には消せなかった。

2014-12-22 20:10:08
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そういえば龍鳳達もこの近くの海域に遠征に出ていたはず。出会うことはないだろうけれど、もしかしたら、なんて考えてしまう。なんとなく、龍鳳の顔を見たい気がした。ただそれだけなんだけど。ふふ、この気持ちは何だろうね。

2014-12-22 20:15:09
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「水上電探に感あり!」 由良の声で皆の目に緊張の色が走る。電探が示す方角を見るが、しかし闇に包まれていて何も見えない。僕たちは兵装を構えた。 「見えました!駆逐艦クラスが二隻です!」 左舷にいる五月雨が報告する。

2014-12-22 20:20:10
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駆逐イ級と思われるそれは、僕らと一定の距離を保ちながら並走していた。すぐに襲ってくる気配はない。二隻の深海棲艦の赤い目が、不気味に光る。 「どうしよう…」 五月雨が不安そうな声を漏らす。 「…もう少し様子を見よう」

2014-12-22 20:25:09
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輸送船の船員に探照灯で合図を送る。ライトを最小限にし、暗闇に紛れさせる。 「ソナーに反応はなし…。今のところあの二隻だけだ」 駆逐艦二隻だけなら、このまま襲われたとしても左舷にいる五月雨と後方の僕で撃退可能だ。 「あれ…離れていく…?」

2014-12-22 20:30:12
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「対空電探に感あり!って、ええ…!?」 夕張の驚く声が響く。対空だって…!?そんな、だって、今は夜。深海棲艦の艦載機は夜間飛行することはまずないはず…。でも、それが可能な艦載機を飛ばすタイプもいた。まずい、こんな海域に出るなんて。

2014-12-22 20:35:09
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海の向こうにその光をもつ者が姿を現した。嫉妬に燃える黄の光、冷たく燃える青の光。その二つの色を目に宿した深海棲艦…『空母ヲ級改』。 「対空戦闘用意!!」 由良の号令で僕たちは空を見据えた。艦載機が四機、五機…八機! 「てー!!」 戦闘が、始まった。

2014-12-22 20:40:08
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急降下しながら突っ込んでくる艦爆を高角砲と機銃で迎撃する。僕の艤装が背負い式になっているのはこの時のため。よし、一機撃墜した。 「くっ!!」 至近距離に水柱が上がる。衝撃が体に飛んでくる。…でも大丈夫、被害はない。このまま落ち着いて対処すれば、凌げる筈。

2014-12-22 20:45:09
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「重巡リ級二隻確認!来ます!」 増援…!?空と水上からの攻撃なんて。 「夕立!!」 由良が叫ぶ。 「え!?はい!!」 「水上艦は任せます。出来るわね?」 由良の言葉を聞いて夕立の顔が引き締まる。夕立は連装砲を構え直し、そして。 「夕立、突撃するっぽい!!」

2014-12-22 20:50:09
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「これで、最後の一機!」 僕の機銃が艦載機を捉えた。空を飛んでいた八つの光が海へと消えていく。よし、次は夕立の援護を。そう思って夕立の方を見たとき、海の向こうで空母ヲ級改の頭上の大口が開かれている光景が目に入った。 「…第二次攻撃、来るよ!!」

2014-12-22 20:55:08
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ヲ級改の大口から艦載機が発艦していく。七機、八機…。 「時雨!!」 夕張の声で僕の注意が艦載機から別のものに切り替わった。僕としたことが、こんなに近づかせてしまうなんて。僕は脇から突っ込んでくる駆逐イ級に単装砲を向け、砲撃を開始した。

2014-12-22 21:00:13
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単装砲を放つと駆逐イ級はそれを躱し、同時に僕めがけて海面から飛びかかって来た。大きな口は、僕程度なら一飲みにしてしまうだろう。まぁ、そんなことはさせないけれど。それに、飛んでくれるなんてありがたい。…僕の高角砲を受けたイ級は断末魔の声をあげながら海へ散っていった。

2014-12-22 21:05:11
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駆逐艦を撃沈した僕は、周りの様子がおかしいことに気づいた。夕張を見ると、呆然と空を見上げている。そして、再び空を見上げた僕は…息を飲んだ。…何十機もの青い光が、夜空を覆い尽くそうとしている。…一体、何機いるんだ。

2014-12-22 21:10:08
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「何としても、輸送船を守り抜くわよ…」 夕張が震えた声で言う。…輸送船に乗っているのは民間人。僕たち艦娘を信じて日本に物資を届ける為に航海に出てくれた人たち。絶対に、守らなければならない。…何としても。

2014-12-22 21:15:09
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突然目の前に何かが飛んできた。水しぶきが僕にかかる。な、何…!? 「あ、ごめん、飛んじゃったっぽい」 見ると、それは深海棲艦の腕だった。これ、リ級の…? 「…わぁ、何あれ。プラネタリウムみたい」 夕立が丸い瞳で空を見上げる。僕はその様子を見て、何だか可笑しくなった。

2014-12-22 21:20:09
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「…夕立ってば。緊張感ないよ」 夕立が連装砲を握りしめる。そして機銃を空に向け、対空戦闘の体勢になった。 「…時雨」 「…うん。夕立、いくよ」 艦載機の光がこちらに向かってくる。僕たちは空を仰ぎ、輸送船を守る為、数十機の星を迎え撃った―

2014-12-22 21:25:08

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―夕立。夕立…?何処?あ…いた。夕立、そんなところで倒れていたら危ないよ。雷撃機が来てる。夕立…!!…ダメだ、返事がない。僕が行かなきゃ。…くっ、こっちにも爆撃機が…。どいてよ。どいてよ!夕立が…!

2014-12-22 22:30:10
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機銃で僕に向かってきた爆撃機を撃墜する。でも降って来た爆弾が僕の至近距離で爆発した。僕は衝撃に耐えきれず吹き飛ばされる。このままじゃ夕立が…!そう思ったとき夕立の前に一つの影が立ちはだかった。 「由良…!!」

2014-12-22 22:35:08
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由良の両腕の単装砲は既に破損し、とても撃てる状態ではなかった。あれでは迎撃できない。由良は両腕を広げて夕立を遮る。由良は自分が盾になるつもりだ。夕立の盾に。間に合え、間に合え!僕は祈るような気持ちで単装砲を撃った。それは…当たった。でも…。

2014-12-22 22:40:09
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雷撃機は既に魚雷を発射した後だった。そしてそれは由良に直撃する。衝撃で由良は後方まで吹き飛んだ。 「由良…!由良…!返事をして…!!」 由良の腕が動く。何とか身体を起こそうとしているようだった。よかった、致命傷は避けられたみたいだ。

2014-12-22 22:45:10
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あれだけいた艦載機はいなくなっていた。殆ど撃墜し、残っていたものも空母ヲ級改の元へ戻っていったようだ。…第二次攻撃は凌いだ。輸送船の被害は奇跡的にも軽微だった。皆のおかげだ。今のうちに、退避を…。その時、海の向こうに新たな光が見えた。…そんな。

2014-12-22 22:50:09
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黄色い炎を目に宿した重巡リ級。更に雷巡チ級が二隻。もう夕張も、五月雨も満身創痍だった。万全の状態ならば十分に戦える相手。でも今はまともに渡り合える状態ではなかった。このままじゃ護衛隊が壊滅どころか、輸送船も沈められてしまう。…僕の手は、探照灯に置かれていた。

2014-12-22 22:55:09
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