#完全ノープラン艦これ与太話 【メリークリスマス・デビルダム】#1~#2
年の変わり目も近付く師走の空は、帝国にもそれ以外にも平等に雪を降らす。列強諸国による天候制御システム過剰競争の副作用により、赤道直下にすら雪害を齎した第三諸国の寒冷化異常気象も、今日ばかりは天からの贈り物として喜ばれた。帝国南方、サメワニ沖の聖夜も白く彩られる。 #KZNPLN
2015-01-27 08:02:02帝国近海の貴重な中立漁場として知られたサメワニ沖海域は、海産資源を巡るヤクザ抗争やメガコーポ接触など幾多の危機を経て現在、根無し草の深海棲艦らを受け容れるヘイヴンとして安定を手に入れた。異常気象による漁獲量減少も、間接的に現地の勢力安定に貢献した。 #KZNPLN
2015-01-27 08:09:14「ワーッ!雪だ!雪だ!」かつて見慣れた銀世界とこの南国で再会し、深海棲艦の少女は寒さも跳ね除け家を飛び出した。12月24日、朝。いよいよ間近に迫る聖夜を心待ちにしながら、少女は黒ずんだ艦上戦闘機を片手に飛び跳ねる。少女は北方の出身だ。 #KZNPLN
2015-01-27 08:14:35「モルーッ!ピーチャン!雪だよ!雪!雪!」窓の外から呼ぶ少女へにこやかに笑いかけ、後で行く、のサインを送った黒ドレスの深海棲艦は再び、目の前に座る白く大柄な深海棲艦へと顔を向けた。彼女の顔は渋く、アトモスフィアは重い。「……どうにか、しねェとな……」 #KZNPLN
2015-01-27 08:19:29「今月に入ってから、既に4件だ」大柄な深海棲艦、港湾棲姫モルワイデはワークデスクに並んだ報告書に目を通した。「これ、結構ヤバイよモルワイデ=サン。自治会への信用も揺らぎかねない。なにより危険だ。早いとこ、供給源を絶たなきゃ」奥に座る半身艤装の深海棲艦が呟く。 #KZNPLN
2015-01-27 08:28:43「そういえば私、きのうテルビウム=サンに会ったんだけど」黒ドレスの深海棲艦、ブラックピーコックがおずおずと述べた。「テルビウム=サン?最近見かけないが」「うん。声かけたんだけど、すごく怯えた様子で逃げていった」「怪しいな」「そんな、テルビウム=サンが!?」 #KZNPLN
2015-01-27 08:33:24「それと、これが最新のデータだ」泊地棲姫ミルメコレオは下半身に接続された艤装を外し、床に降りた。艤装横のシールドをばかりと外し、先程とは別の資料が取り出される。「少々ヤバいデータだから、扱いには注意してよ」「ああ」モルワイデは資料を受け取り、目を見開いた。 #KZNPLN
2015-01-27 08:36:35「こいつは」「お察しの通り、オハギの市場価格の変動レートだよ」モルワイデは資料をデスクに置く。「よく手に入ったな、こんなもの」「まあね、昔のコネが多少あるのよ。流石に私も昔の艦だから、流通ルートまでは教えてくれないけどね。まあ、問題はそこじゃない」 #KZNPLN
2015-01-27 08:39:51ミルメコレオは資料の右端を指し示した。「……レート変動が、ない」「そ。流通価格が変わってない。これだけブラックマーケットで出回ってるのに、上がりも下がりもしてない。濫造で安く出回ってるわけでも、安いから広まってるわけでもない」「つまり?」モルワイデが問う。 #KZNPLN
2015-01-27 08:43:02「オハギとして出回っていない可能性が高い。何らかの脱法ドラッグに擬態して、全く別の流通ルートでサメワニを汚染している……そう考えられる」モルワイデの顔が、一層険しくなった。闇は根深い。芽が出た時点で摘み取れなかった、己の責任だ。 #KZNPLN
2015-01-27 08:46:44「わ、私、テルビウム=サンを探してくる!きっと何か知ってるよ!」アトモスフィアに耐えかねた離島棲鬼、ブラックピーコックが椅子から跳ね、慌てて立ち上がった。「お、おい。危ないぞ。何があるかわからん」「大丈夫だよ!私だって基地型の深海棲艦だよ!」 #KZNPLN
2015-01-27 08:49:06ブラックピーコックは半ば振り切るようにドアを蹴飛ばし、銀世界に飛び出した。そこで違和感に気付いた。「ア、レ……?」「おいおい、落ち着けって」モルワイデとミルメコレオもこれに続く。「……どうした?」「……ネエ、モル。メルチャン……どこ?」 #KZNPLN
2015-01-27 08:51:33モルワイデもはたと気付き、周囲を見回した。確かに、いない。先程まで走り回っていた少女、北方棲姫メルカトルが忽然と、姿を消していた。小さな足跡は雪除け舗装の施された脇道へ伸び、そこで積雪と共に途絶えていた。 #KZNPLN
2015-01-27 08:54:42世界大戦の空白地帯。根無し草達のヘイヴン、サメワニ沖自治区にも平等に雪は降る。白く儚い彼女らの姿を覆い隠すように。黒く濁った血を隠すように。だが、しかし雪に穿たれた赤黒い染みは、白色の世界をじわりと侵食していく。ここサメワニで脱法オハギが確認されたのは、秋ごろだ。 #KZNPLN
2015-02-05 01:01:10サメワニ沖自治会の幹部、港湾棲姫モルワイデは不可思議に感じていた。オハギは大日本帝国で出回る、極めて依存性の高い危険な甘味である。帝国は目下、鎖国体制。国内外の物流を精査するのはサセイボの『審判者』戦艦金剛。そう簡単に、オハギの違法輸出が出来るとも思えぬ情勢だ。 #KZNPLN
2015-02-04 08:09:33ともすれば流入元は、大陸方面からの粗製オハギか。彼女は迅速に中毒者に対処し、簡易な処罰と適切な治療を施した。そこに慢心があった事は、今となっては否定できまい。約1ヶ月の空白期間をおき、オハギは再び現れた。否、正確には、現れていた。彼女が実態を掴んだのは2ヶ月後だ。 #KZNPLN
2015-02-04 08:16:33自治会の1隻、泊地棲姫ミルメコレオの調査によると、今回の脱法オハギ流通は異例の速度だという。彼女はモルワイデと同じく裏社会の出身だ。兵器流通に詳しいモルワイデに対し、薬物系のブラックマーケットはミルメコレオの管轄である。 #KZNPLN
2015-02-04 08:20:40ミルメコレオによると、今回のオハギ流通にはドラッグ特有の躊躇と思い切りがない。抽象的だが的を射た表現だとモルワイデは感じた。オハギをはじめ、ドラッグ類への監視体制は1世紀前に比べ格段に増した。高価で、摘発のリスクを孕む甘い果実の誘惑。今回はそれが感じられない。 #KZNPLN
2015-02-04 08:25:31加えて、アンコの流通レートの不変。ミルメコレオの仮説は、限りなく真実に迫っていた。即ち、違法性のあるドラッグとしては出回っていない。水面下で、駄菓子のようにカジュアルに、ローリスクな嗜好品として流通している。厄介なケースだ、とミルメコレオは憂慮した。 #KZNPLN
2015-02-04 08:27:37この手のケースは根が深い。汚染者の特定ができても、正当な手段で摘発するにはかなりの時間を要する。その間イタチゴッコが続き、追いついた頃には手遅れになる。モルワイデは多少、ダーティな手段をも辞さない覚悟でいた。 #KZNPLN
2015-02-04 08:33:50