初恋の話。

ロジキト④
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イフ@東都へ行こう @2_tnm

いつもの待ち合わせ場所。派手なネオン看板の、真下。 その姿を見つける。 少女は俺を見て、軽く会釈をした。 「こんばんは、きとさん」

2015-01-30 18:15:20
イフ@東都へ行こう @2_tnm

流れるように手を繋ぎ、そのままホテルへ。 「……また、来たんだな」 溜息を吐くように、言葉を落とす。 「……よくないって、わかってるんだけど」 少女が苦笑したのが伝わった。 よくない。そうだ、俺も、十分にわかっている。 けれど、喜んでいる自分がいる。 また会えて嬉しい、と。

2015-01-30 18:37:28
イフ@東都へ行こう @2_tnm

部屋に入り、コートを脱ぐ。 「はあ、ぬくいな」 「今日、夜中から雪降るって言ってた」 「ふうん。どうりで寒かったわけだ」 スーツの上着も脱ぎ、ソファに投げる。 はあ、と息をついて、ベッドに腰掛けた。 「…………」 少女が、黙って俺の隣に座る。

2015-01-31 15:48:00
イフ@東都へ行こう @2_tnm

その横顔を見つめ、1秒で目を逸らす。 「お疲れさま、きとさん」 「……きとさんって呼ぶんじゃねえよ」 顔を隠すように立ち上がり、シャワールームに向かう。 何度目だ。 何度来ても戸惑う。これからもずっと、緊張する気がする。 ……いや、これからもこんなことを、続けるわけには。

2015-01-31 15:52:28
イフ@東都へ行こう @2_tnm

部屋に戻ると、空中をぼんやりみつめる少女の姿。 鼓動が早まる。 「……上がったぞ。お前も流してこい」 ばっちり目が合って、少女が立ち上がった。 「うん」 ゆっくりと、俺の横を通り過ぎる。 「きとさん、いい匂いだね」 笑った少女が、シャワールームに消えた。

2015-01-31 15:57:48
イフ@東都へ行こう @2_tnm

あまり喋らない。 あまり笑わない。 話しかければ答えるし、笑いかければ笑い返す。 けれど、独特な、静かな雰囲気。 それで何人の男を落としてきたんだか。 別に、過去に何人の男とやってようが構わねえけど。 構わねえけど。 俺も、他人のことは言えねえし。

2015-01-31 16:02:42
イフ@東都へ行こう @2_tnm

けれど今日は、違う。 いつもと同じように同じところに来て、けれど、違う。 目的があった。覚悟は決めてきた。 「上がった」 「……なんで髪洗ってんだよ……」 「なんとなく?」 笑った少女に、ドライヤーの用意をしてやる。 「すみませんねえ、お疲れのところ」

2015-01-31 16:09:30
イフ@東都へ行こう @2_tnm

「ほら」 少し下がって、ベッドに座らせてやる。 俺が開いた脚の、真ん中。 「……乾かしてくれるの?」 「おう」 「お前には世話をかけるねえ」 「……ばばあかよ。萎えること言うんじゃねえ」 ぶおーん、と、ドライヤーの音。

2015-01-31 16:11:46
イフ@東都へ行こう @2_tnm

時々揺れる少女の背中を見つめながら、その髪に手を通す。 「きとさんは、また来たのか、って言うけど」 「ああ?」 「……私はいつも、もうメール来ないかなあって思うよ」 ドライヤーのスイッチを切る。 「なんだって?」 「……ううん、いい」 「気になるだろうが」

2015-01-31 16:14:30
イフ@東都へ行こう @2_tnm

「…………」 言う気がないようなので、再びドライヤーを持ち上げる。 「…………」 「……へ、っくしゅん」 「ああ? ……お前なんで髪まで洗ったんだよ、まじで」 「えっと……お清め?」 「……意味わかんねえ……」

2015-01-31 16:17:26
イフ@東都へ行こう @2_tnm

「ほら、終わったぞ」 「んー。ありがとう。……なんか眠くなってきた」 欠伸をひとつ。 「はっ倒すぞ……」 溜め息をついて、ドライヤーを片付ける。 「きとさん、何かあったの?」 思わず手を止めた。 「……歳が半分以下の餓鬼に馬鹿にされた」 「はは、それ私?」

2015-01-31 16:21:05
イフ@東都へ行こう @2_tnm

お前以外に誰がいるんだよ、と顔を上げると、こちらを見つめる黒の瞳。 「今日、顔、怖いよ」 「……いっつもこんな顔だろうが」 そう返すと、首を傾げる少女。 変な汗が出てきた。 「やっぱり違う。……言いたくないなら、聞かないけど」 ふう、と息を吐いて、心を落ち着ける。 「話が、ある」

2015-01-31 16:24:30
イフ@東都へ行こう @2_tnm

少女がすうっと目を細めた。 「なにかな?」 その顔に、今更ながら、どう告げるものか悩む。 「…………」 「…………」 「……えっと」 「……うん」 少女も何か予感があるのか、強張った顔をして、俺の言葉を待っていた。 言わなければ。早く。

2015-01-31 16:27:14
イフ@東都へ行こう @2_tnm

「その、だな」 「うん」 「つまり……」 「うん?」 「……俺と付き合ってください」 ベッドの上に座ったまま、頭を下げる。 訪れた、沈黙。

2015-01-31 16:29:34
イフ@東都へ行こう @2_tnm

「……え」 最初に少女が発した言葉がそれだった。 「どういう、意味?」 顔を上げると、眉尻を下げた少女の姿。 「……そのままの、意味だが」 「…………。なんか、告白された、みたいだったんだけど」 「……告白したんですけど……」 はあ、と息を吐く。

2015-01-31 16:31:56
イフ@東都へ行こう @2_tnm

「……きとさん、私のこと、好きなの?」 「……好き、だが」 「…………」 「…………」 ふふ、と少女が笑った。 「……なんだよ」 「いや……。ふうん、そうなんだ」 「…………。返事は」 緊張で吐きそうになりながら問う。

2015-01-31 16:34:23
イフ@東都へ行こう @2_tnm

「よろこんで」 確かに、そう、答えた。 「え……は……」 「びっくりした。きとさん、全然そんな風に見えなかったよ。てっきり私の片想いかと」 「は……?」 呆然として少女を見つめると、少女がはにかむ。 初めて見る表情だった。 「きとさんのこと、好きだよ」

2015-01-31 16:36:37
イフ@東都へ行こう @2_tnm

「……ちょっと待ってくれ。いま理解する」 「うん」 眉間を抑え、少女の言葉を整理する。 それはつまり。 つまり? 「お前も俺のこと好きなのか」 「今そう言ったよ?」 「…………。きとさんじゃなくて。ちゃんと、名前で」

2015-01-31 16:38:11
イフ@東都へ行こう @2_tnm

「……好きだよ。貴人さん」 「…………」 恐る恐る伸ばした手で、抱きしめた。 「……いいんだな?」 「うん」 「……本当にいいんだな?」 「貴人さんが、いいの」 涙がにじむ声を悟られないよう、強く強く、腕に力を込める。 「わかった」

2015-01-31 16:45:35
イフ@東都へ行こう @2_tnm

「私に、恋を教えてくれて、ありがとう」 少女の声も、心なしか震えているようだった。 「……こちらこそ」 そう返すので、精一杯だった。

2015-01-31 16:48:08
イフ@東都へ行こう @2_tnm

やっと、一番欲しかったものを手に入れた。 俺のものだ。 俺だけのものだ。 ……絶対に、手放して、なるものか。 強く目を閉じる。 幸せはここにある、と思った。

2015-01-31 16:51:08