陸奥を亡くした長門の話

いろいろ考える矢矧bot（かわはぎ @Sakawalove_YHG

退屈そうね、提督。もうすぐ決戦海域も近いって言うのに。 それなら……こういうお話はどうかしら？ たるんだ貴方を引き締める、いい薬になるはずよ。

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※※※これはTogetter（togetter.com/li/700993）にあった陸奥のお話です※※※

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「なんだこの海藻みたいにぬめった布は」 「長門宛ですって」 「こんな嫌がらせしてくる輩に心当たりはないのだが……矢矧は差出人を知ってるか？」 「書いてあるじゃない、ほらここに…… 『陸奥』」　＃矢矧の手記_外伝

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「ああ、これは手紙なのか。陸奥なら直接話せばいいだろうに」 「深海？　の陸奥かららしいわよ。私もよくわからないけれど、木曾宛にも同じようなものが届いてたわ、と言うか流れ着いてたわ。目の前の海岸に」 「なんだと！？」 #矢矧の手記_外伝

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「いきなり大きな声ださないでよ」 「いや、すまない。でもこれは……！」 「おいどういうことだ矢矧！　お前が俺の布団の傍においてったこのぬるぬるするやつ！　これ陸奥のじゃねえか！　沈んだ方の！」 「木曾、貴方も五月蝿い」 #矢矧の手記_外伝

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「今朝ね、なんだか胸騒ぎがして海岸に出てみたら貴方達あてのこれが漂着してたのよ。でも深海の陸奥ってなに？　内容は祝会へのお誘いみたいだけど」 「そうか、矢矧は以前沈んで深海に居た時のことを覚えていないのか」 「酒匂に助けられた時の話？　それは……覚えていないわ」#矢矧の手記_外伝

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「無理もないな。矢矧はこっちにいたときのバックアップで復元したんだから」 「ああ。説明するとだな、私達は昔別の司令部にいたんだ。その時一緒だった陸奥がいた。今はもう沈んで深海棲艦になっている」 「深海棲艦って、敵艦じゃない！」 #矢矧の手記_外伝

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「慌てるな。貴様が戻ってこれたのは、陸奥のおかげなんだぞ？」 「――この手紙には良かったら矢矧も誘ってねとあるな」 「お、ほんとだ。多分、今朝矢矧を海によんだのも陸奥なんだろうな」 「私も？　罠じゃなくて？」#矢矧の手記_外伝

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「……どうしたのよ、ふたりとも。呆れたような目して」 「陸奥は皆の恩人なんだがなぁ」 「よし、わかった。俺が陸奥のはなしをしてやるよ」 「そうだな、そのほうが良いだろう。現地で砲雷撃戦初められても困る……」#矢矧の手記_外伝

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「――いや、待て」 「どうした長門？」 「私が話そう。木曾は少し脚色が過ぎる」 「ちぇっ」 「深海に沈んだ……陸奥のはなし？」#矢矧の手記_外伝

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「そうだ。俺達の知る限りもっとも強く、誇り高く、美しく、愛に生きﾌｶﾞｯ」 「だから貴様は脚色が過ぎるといった。神通にあることないこと吹き込んだの貴様だろう？」 「しゃーねえなあ。俺は部屋に帰るよ、後で感想きかせてくれ」#矢矧の手記_外伝

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「――それで？」 「うん。昔の友の、はなしだよ」#矢矧の手記_外伝

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と、いうわけで、ここから先は私が話そう。私の話は矢矧と酒匂のまとめ（togetter.com/li/700993）にも載っているぞ。私の話を聞く前に、是非そちらにも目を通しておいてくれ。

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とはいえ、何から話していいのか分からんものだな。酒匂には話すまでもなく、全てを見ぬかれてしまったようだが。そうだな。ふむ……。

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――その日は何の変哲もない海晴れの日だった。いつもの潮風が平年並みの気温を吹かせ、60年前と同じさざなみを運んでいた。私が目を覚ました場所は平凡な戦果をのこす普通の司令部のよくある工廠。きっと、たぶん、他の長門と同じように名乗りを上げた。#矢矧の手記_外伝

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私が戦艦長門だ。よろしく頼むぞ。敵戦艦との殴り合いなら任せておけ。そう言うとわっと声が上がった。妖精たちと既にいた艦娘たち。提督はちょっと離れて手を叩いていた。悪い気分じゃなかった。私は大抵望まれて生まれてくる。#矢矧の手記_外伝

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最近は大型建造なるもので私の出現頻度も上がったが……初期の私は本当に望まれて産まれることが多かったんだ。私が出ないあまり歌い出す提督もいると聞いた。

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私に一番に話しかけたのは提督の傍に立っていた陸奥だった。なるほど、既に陸奥が居るのかこの司令部は、運がいいなと思いつつも、まあ、当然かと思っていたよ。待っていたのよ、と話しかけられて、待たせたな、と返した気がする。#矢矧の手記_外伝

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陸奥と握手しようとしたとき、あいつは左手を差し出した。これは予想外だった。左手の握手は無礼と言われることもあるからな、私は右手を差し出していた。陸奥は首をかしげてから、あっと言って、右手を差し出した。#矢矧の手記_外伝

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手を握ったとき、初めて、得体のしれない怖気のようなものを感じたよ。第六感的なものかもしれない。が、手を握りしめたとき、ようやく理解した。この陸奥が恐ろしく高い練度であること、そして彼女には薬指がなかったこと。#矢矧の手記_外伝

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陸奥は恥ずかしそうに手袋の潰れた薬指の部分を引っ張って形を整えた。知らぬとはいえ、悪いことをしてしまったなと――うん、その時は思っていた。#矢矧の手記_外伝

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――話を続けようか。矢矧、その昼飯はなんだ？　……いや、軽巡洋艦にしては良く食べると思ってな。

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頷くばかりで一日を終えて、陸奥が鎮守府を案内してくれた次の日、私はやっと質問らしい質問をした。お前の練度はいかほどなのか、と。陸奥は「あらあら」と口癖をのたまってから、多分長門よりは上だと思うわ、と言った。#矢矧の手記_外伝