藤原帰一氏「イスラム国に向かい合う時、力の行使は避けられない」~その方法や理由は
- gryphonjapan
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「そう、ぼくたちの生きる時代は暗い・・・笑う人たちは、恐ろしい事態をまだ聞いていないだけだ」すでにナチが権力を握り、オーストリアも併合した1938年にブレヒトが書いた詩の一節です。
2015-02-07 10:33:43日本人の人質二人、さらにヨルダン人のパイロットが殺害されたいま、何を「恐ろしい」と捉えるのか、人によって異なるようです。ある人々には、交渉によって人質を救う機会を顧みなかった安倍政権が恐ろしい。ほかの人々には、人質を無残に殺したイスラム国が恐ろしい。
2015-02-07 10:38:15イスラム国が恐ろしいと考える人のなかには、憲法九条をなくし、集団的自衛権を認めれば人質を救出できた、それができない平和主義の日本が恐ろしいと考える人もいるようです。イスラム国の代わりにISISもしくはISILと呼ぶべきだという声もあります。
2015-02-07 10:41:32ISILとISISは英語の頭文字をとっており、どちらもIslamic State が入っていますから、言い換える意味はよくわかりません。ただ、相手は国家として認められた存在ではない、いや未承認国家とさえ呼べない暴力組織だという意味の指摘なのでしょう。
2015-02-07 10:44:24人質を救い出すことができなかった以上、政府の責任が問われるのは当然です。しかし、交渉と身代金提供による人質解放の可能性を確実とするような議論には賛成できません。他方国会での首相答弁は、集団的自衛権の承認や憲法改正に言及している。それでは力で人質を奪回できたのか。私は疑問です。
2015-02-07 10:49:22イスラム国に向かい合うとき、力の行使は避けられないと私は発言しました。いまでもそう考えます。同時に、それを口にすることで、自分の生きる意味がひとつ失われた索漠とした思いに襲われます。
2015-02-07 10:51:04武力を行使することなく平和を保たなければならない。これは、原則の問題ではない。どうすれば武力に訴えずに紛争を打開できるか、その具体的な選択を考えることが必要だからです。その裏には、力を用いなければ現実に多くの生命が失われる、ほかに選択がないという文字通り恐ろしい事態があります。
2015-02-07 10:54:22イスラム国ないしISILは、大量殺戮を行ないそうなのではなく、現に行なっている存在です。戦争と破綻国家のなかに生まれた急進的暴力組織であり、交渉の合理性も抑止の合理性もない。イラクのフセイン政権などのような独裁体制と異なる、現在の危機です。
2015-02-07 10:59:05ところが、力をどう行使すればよいのか。ここで新たなジレンマが生まれます。シリアでいえば、大量殺戮を繰り広げているのはイスラム国だけではない。むしろ、殺害した数でいえばアサド政権の方が酷いでしょう。また、地上軍を展開せずに空爆に頼るなら一般国民が巻き添えになってしまう。
2015-02-07 11:02:47さらに問題は、シリアとイラクにおける政府の構築、安定した統治の実現です。それがないからこそいまのような惨い暴力状態になったわけですが、では外から権力をつくればよいかといえば、そうではない。アフガニスタン・イラクへの介入は戦争よりも占領で失敗しました。そしてどの国もその意思がない。
2015-02-07 11:10:21この状況のなかで何ができるのか、何を優先するべきか。2013年にシリア内戦が激化してからずっと考えてきました。難民移動の安全を確保すること、そして難民キャンプの安全と結びつけて相対的に安全な区域を面として広げてゆくのが私の意見です。先週月曜のNEWS23でもそう申し上げました。
2015-02-07 11:13:12実は、オバマ政権の初期の空爆は、難民移動に重点を置いたものでした。ところがその後に人質惨殺が起こり、空爆の対象を拡大しています。そしてこれも予想されたことですが、成果が上がったのは相対的に安定しているクルド地域周辺での行動であり、それ以外の地域の攻撃は成果が不十分です。
2015-02-07 11:14:59力の行使が必要な状況は存在しますが、その状況が生まれてしまったこと自体、少なくとも国際関係を専門とするものにとっては、それだけでもう敗北なのです。そして、力の効果を過信すればそれが新たな災厄を招いてしまう。再びブレヒトを引用すれば、そう、ぼくたちの生きている時代は暗い。
2015-02-07 11:21:27参考として、ダーイシュではなく
アサド政権軍vs反アサド勢力の状況で
藤原氏が軍事力行使を提言した文章に
リンクを張っておきます。(2013年9月)
togetter用資料 「何よりもシリア国民の安全を、最小限度の軍事関与によってどう実現できるのかという点にある。」 シリア対応 ― 「攻撃より外交」の意味(藤原帰一教授)/コラム/東京大学政策ビジョン研究センター: pari.u-tokyo.ac.jp/column/column9…
2015-02-08 03:16:57