天叢雲剣譚【1-2】

天叢雲剣譚【1-2】です。敵艦隊の迎撃に乗り出した叢雲たち。そこで待ち受けるものとは――。
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天叢雲剣譚 @sio_murakumo

潮岬鎮守府の叢雲【1-2】

2015-02-26 00:29:50
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

鎮守府を飛び出した私たちは複縦陣を取って南進していた。報告を受け取った大淀によると、敵艦隊は重巡一、軽母一、軽巡一、駆逐二の艦隊らしい。軽巡一、駆逐三で構成されている第二艦隊には一筋縄ではいかない相手だった。 「どうするの叢雲ちゃん。このままだと第二艦隊が危ないわ」 「……」

2015-02-26 00:34:39
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

伊勢の問いかけに答えず、戦闘が行われているであろう方角を仰ぎ見る。報告の通りであるなら第二艦隊の被害は大きく、最悪轟沈もありうる。それだけはなんとしても避けなければならない。と、なると……あまり時間は掛けられないわね。 私は前を見据えたまま、自分の後ろにいる不知火に指示を出す。

2015-02-26 00:45:31
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「不知火、右魚雷戦用意! 相手の注意を引き付けるわよ。神通と初春は隙を見て第二艦隊と合流、即座に戦闘海域を離脱して鎮守府に帰還! ……見えてきたわ!」 艦隊がいる所から一時の方向に立ち昇る黒い煙。その中で時折、火花が散るのが見える。 「不知火!」 「……了解しました」

2015-02-26 00:52:11
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

不知火は隊列から少し離れ、艤装に取り付けられた二本のアームを伸ばす。その先には魚雷発射管。アームを伸ばし終えると同時に不知火は小さく呟いた。 「魚雷……発射!」 合図とともに六十一センチ四連装酸素魚雷八本が続々と発射されていく。その延長線上には敵艦隊の姿がはっきりと見てとれる。

2015-02-26 00:58:59
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「魚雷が到達次第、全艦砲戦用意。一気にカタをつけるわよ!」 速度を上げ敵に一気に接近する。すでに敵、味方ともに射程圏内だが、敵はまだこちらに気付いていない。この好機を逃すわけにはいかなかった。 「……! 今よッ!」 私がそう叫ぶと同時に敵艦隊の足元に魚雷が到達した。

2015-02-26 01:03:22
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

その中の一本が駆逐ロ級に直撃、盛大に爆発してその身体を吹き飛ばす。相手に反撃の隙を与えないために自分の12.7cm連装砲を構える。 「私の前を遮る愚か者め! 沈めッ!」 至近距離から発射される砲弾。姿勢を崩しているロ級が避けられるはずもなく、さらに大きな爆発を起こして四散した。

2015-02-26 01:11:37
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「やったわ!」 「叢雲ちゃん、危ない!」 伊勢の叫び声に私は即座に後ろへと跳ぶ。その瞬間、先ほどまで自分がいた地点に大きな水柱が上がる。水柱が治まってから砲弾が飛んできた方角を見ると、蒼く光る二つの目。 「重巡リ級!」 その虚ろな視線と左腕の主砲はしっかりと私を捉えている。

2015-02-26 01:19:49
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

次の砲弾が飛んでくる、そう感じた私は一旦リ級から離れることにした。すると、 「叢雲ちゃん、ここは私に任せて。あなたは他のをお願い」 私とリ級の間に伊勢が割って入る。伊勢ならリ級の相手は問題ないだろう。 「ありがとう。助かるわ」 「大丈夫よ。さあリ級、私が相手よ!」

2015-02-26 01:26:09
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

私は伊勢にリ級を任せてその場を離れる。すぐに背後から何発もの砲音が轟いたが、気にするわけにもいかない。急いでフリーになっている深海棲艦を捜す。 伊勢と別れてから数分、私は鎮守府へと向かう六隻の艦影を見つけた。遠くにいるため、はっきりとした姿はわからないがおそらく第二艦隊だろう。

2015-02-26 01:36:57
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

しかし、見つけたのはそれだけではなかった。撤退している第二艦隊を軽巡へ級が追っている。六隻でかかれば勝てない相手ではないが、第二艦隊には損傷している艦もある。万が一ということを考えると、今ここで叩いておいた方が賢明だろう。先ほど使ってしまった12.7cm連装砲に砲弾を再装填する。

2015-02-26 01:44:25
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

速度を上げてへ級に接近を試みる。私が追走しているのに気付いたのか、へ級が進路を反転させようとしていた。それならば、このまま狙いを私に変更させる! へ級はその右手、まるで人間の口のような6inch連装速射砲をこちらに向けている。口の中にある砲身は、黒く鈍い光を放っていた。

2015-02-26 01:50:57
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

その砲身から何発もの砲弾が放たれる。蛇行しながら弾幕を回避していくが、全て避けきれるものではない。私はその右手に持った槍で砲弾を弾き飛ばしながらへ級との距離を着実に縮めていく。……このままなら押し切れる! 私は槍を操る手を止めず、二つのアームを動かして主砲の狙いをへ級に定めた。

2015-02-26 01:55:06
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「沈みなさ……!」 しかし主砲に気を取られたせいか、槍を持つ手が僅かに狂う。砲弾の威力を殺し切れず、槍を持つ右手が外の方へと投げ出される。 「!」 そのせいで右半身ががら空きになる。敵はまるでそうなるのを見越していたかのように、次の砲弾を私の右肩、さらに主砲に直撃させてきた。

2015-02-26 02:03:12
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「きゃあっ!」 当たった勢いで私は吹き飛ばされ、海上を転がるように後退する。右の主砲につながるアームは半分ぐらいのところで折られており、右の肩から腕にかけて服も肌もボロボロになっていた。 「くっ……」 何とかして体勢を立て直そうとするが、右腕に力が入らない。このままじゃ……!

2015-02-26 02:08:28
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

幸い、私とへ級との間は主砲が吹き飛ばされた拍子にできた煙で遮られている。まだ立て直せる、そう思っていた刹那――私の目の前に敵の主砲がガシャリと差し出された。 その音はやけに鮮明で、耳にこびりつく。心臓がバクバクと高鳴るが、何故か身体は冷え切るような寒さを覚えていた。

2015-02-26 02:12:23
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

――このままだとやられる。

2015-02-26 02:13:14
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

ただ、諦めるわけにはいかない。この超至近距離で、被害を最小限に抑える。避けることなど不可能に近いのだから。どうする……! 一瞬の思考。今ここでとることができる、最善の手を考える。それを思いついた瞬間には、私の身体は動いていた。目の前に立ちふさがる敵を、困難を、吹き飛ばすために。

2015-02-26 02:14:44
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

潮岬鎮守府の叢雲【1-3】に続く

2015-02-26 02:15:07