140字小噺のようなもの

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「だから今日も飯がうまい」

🌿 @aju_sousaku

ある殺人事件の容疑者が捕まったらしい。「携帯触るかご飯食べるか、どっちかにして。それとも美味しくない?」眉根を寄せるのは、長年慕い続けた美しい女。愚問が過ぎるよ、と笑って見せた。殺人の動機は痴情の縺れ。容疑を否認しているが、ネットには彼の個人情報が溢れて、社会復帰は厳しいだろう。

2015-03-08 20:11:48

「寒いから」 @renyakira

🌿 @aju_sousaku

天気予報士が、明日からぐっと寒くなると言っている。二人で出かける予定があるのに、とため息を吐いた。奥から出てきた彼女は、ワンピースと厚手の上着とタイツ姿。「明日の? 手袋もしなきゃね」「いいよ」何がいいものか、と思っている手に、手が触れた。冷たかった。「ポケットのある服を着てね」

2015-03-07 20:30:34

浴槽 @anpgt

🌿 @aju_sousaku

「あれは何の火だろう」両脚の間で小さくなっている少女が、そう言って振り返った。けれど、小さなシャワールームは、彼女のリクエストで電気を消してある。光なんてと言ったけれど、期待に満ちた視線を向けるばかりだった。「…蠍の火」そう答えると、はにかんで見せた。ああ、銀河鉄道は何処までも。

2015-03-07 20:11:19

天下統一 @who_doll

🌿 @aju_sousaku

いつか見た満点の星空を、また見たいと彼女は言った。部屋の明かりを消して窓の向こうを見せたが、遠くに見える夜も朝も見失いそうな街は、星の光を奪うようにあちこち輝いて、命を燃やしている。「漁火みたい」寂しそうに笑う。あの漁火は何を目指すのか。笑いながらも奪われていく炎もその一部か。

2015-03-07 02:02:07

踊り場に深夜2時 @amo_c

🌿 @aju_sousaku

「段差がありますから」と彼は私に気障ったらしく手を差し伸べた。思わず笑ってからその手に触れるが体温は感じなかった。夢だ。転げ落ちたって痛みはない。でも彼は、にこりと目を三日月みたいに歪めてその手を軽く握って引き寄せる。いつの間にか着ていたスカートが、動きに合わせてふわりと踊った。

2015-03-07 01:35:24

鵺 @tensyou99

🌿 @aju_sousaku

ざわざわと、風が暗い葉を揺らしている。月の明かりも遮られて真っ暗で、何処から入っているのかわからない光をなんとなく、目が捉えている。葉の、枝の、そして私の、そしてあの人の影が含まれているこの夜闇。喪って空いた穴も、すべてを埋め尽くしてしまうような影が優しくて、私は静かに泣いた。

2015-03-07 00:58:34

言葉を有した獣 @rinxx24

🌿 @aju_sousaku

あまりにも暑くて、目が覚めた。ヒーターも電気もつけっぱなしにして眠っていたらしい。窓のない部屋。昼なのか夜なのかすらわからない。時計の短針は12を刺している。ああ、お腹がすいた。おなかがすいた。そう何度も呟きながら、フライパンで湯を沸かし、その中にインスタント麺を放り込んだ。

2015-03-07 00:24:02

コーヒーとほうき星 @Rgray06

🌿 @aju_sousaku

私の背中の向こう。大通りを見ながら、ふう、とコーヒーに息を吹きかける。湯気がこちら側に揺らいで、また彼のほうに傾く。遅れて香ばしい匂いがこちらに届いたけれど、また遠ざかる。「ねえ、聞いてる?」「うん」聞いているだけだ。触れさせて。けれど伸ばしかけた手を、伸ばすことはできなかった。

2015-03-06 23:59:11
🌿 @aju_sousaku

「この木は死んだのかしら」と、風に髪をなびかせながら言う。その背を一本の大樹に支えさせ、その樹皮に触れてる彼女は、悲しげに笑っていた。自分は何と言っていいのかわからず、「枝を切ればわかるよ。傷口が緑なら、まだ生きているんだ」と、きっと望んでいない答えを出した。 @rinxx24

2015-02-20 01:21:46
🌿 @aju_sousaku

群青色の首飾りは、先代の葬儀人である祖父に貰った品。「これを目印に、彼女は迎えに来るから」それは誰なのかを知る事はなく、今日も僕は流れてくる星を弔う。見上げると昔、絵本で見た宇宙飛行士。ヘルメットを取り、「探したよ」と微笑む彼女の首には、僕のそれによく似合う星型の首飾りがあった。

2015-02-13 22:16:34
🌿 @aju_sousaku

今日が始まって二時間が経過している。半分寝ながらアパートの鍵を開けると、中はまだ明かりがついたままであった。一人暮らし用の小さな部屋で、かなりのスペースを占める、折りたたみ式の机には、穴と焦げの目立つオムライスが二つ。…ただいま、と呟いてその前に突っ伏してる同居人の黒髪を撫でた。

2015-01-28 14:00:49
🌿 @aju_sousaku

よく待ち合わせに使っていた駅のホームで、たった一人、電車を待つ。五分前行動。もう、遅れて行ったら「何しとったん!」と怒ってくれる彼女はいないのだ。ズズッと、彼女がよく飲んでいた、果汁なんて殆ど入っていないであろうジュースが空になった音がする。僕は迷わずゴミ箱にそれを捨てに行った。

2015-01-27 00:02:37
🌿 @aju_sousaku

「もう此処にはお前が恐れるものなんて何もないんだよ」と、ノットはしゃがんで《歪み》の頭を撫でる。「本当に?」「本当だ」と繰り返すと、それは柔らかく微笑んで虚空に溶けて消えた。しばらくぼんやりとその様を見ていたが、ノットは立ち上がりこちらを振り返って行こうかと、その手を差し出した。

2015-01-26 23:50:24
🌿 @aju_sousaku

ガラスのティーポットに、ベラはお湯と丸い何かを落として蓋をする。しばらくすると、それは解けて中から色が現れた。ゆっくり開いていく花びら。まるで魔法みたいと見惚れていると、「花が開くのって待ちきれないんだぁ」とそれまで口を開かなかったクルトは言い、綺麗な目を三日月型に歪めて笑った。

2015-01-26 23:33:37
🌿 @aju_sousaku

エナトは玉子スープをスプーンで掬い、「鶏が先か、卵が先かを知っている?」と俺に問うた。何も言わずに居ると、彼女は微動だにしなくなったドリラの唇をスプーンで割り、歯を軽く押しのけ、スープを零さないように流し込んだ。「因果性の、ジレンマだよ。卵が存在しなければ、鶏は存在し得ないの」

2015-01-26 22:54:30
🌿 @aju_sousaku

レンジから牛乳を取り出し、彼女は粉末のココアの袋を開く。一杯だと少ない。二杯だと丁度いい。けど三杯入れるのが好きなのを彼女は知ってた。横着して冷ましてから入れるようになってから、一口飲むと、溶けきらない粉が喉に絡まり酷く不快だった。ああ、この愛に似てる。 #確かに好きだったのに

2015-01-13 23:03:33
🌿 @aju_sousaku

#煙草の匂いがする 。顔を上げると、ぱたりと溢れた雫が、畳にシミを作る。私とおじさんの二人きりの部屋。いや、死人は人数に入れていいのかな。死因は肺癌。本当に馬鹿だなと思う。口癖は「煙草を吸う奴とは付き合うなよ」だった。「もう、吸えないね」。振り返るとおじさんは困ったように笑った。

2015-01-13 02:10:36