【第四部-四】満潮と山雲と、扶桑の進水日 #見つめる時雨

満潮 山雲
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満潮視点

とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

綺麗に包装された長方形の箱。リボンに包まれ、誰が見てもプレゼントだとわかる。私はそんな箱との睨めっこを続けていた。この箱の中身は知っている。ちょっといいボールペン。私が買った。何の為に?…プレゼントする為に。

2015-03-28 22:25:35
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

プレゼントする理由。…私の時にお祝いして貰ったから。そう、そのお礼がしたい。普段からお世話になってるし。そう、そうなのよ。だから、変な下心とか、そんなものはないんだ。扶桑は、きっと自然に受け取ってくれる。変に勘繰る事なんてしない。私も自然に渡せばいい。そう。

2015-03-28 22:30:38
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…ああもう、本人は目の前にいないっていうのに、何だってこんなに緊張してるのよ。どんな地獄が待っていたって、覚悟は決まってるはずなのに。…いや、でもこんなことは想定してなかった。…待って、いやいや、違う。私が扶桑に惚れてるとか、そういう話じゃなくって…。

2015-03-28 22:35:35
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…さっきから何ひとりでぶつぶつ言ってるの~?」 「うわぁぁ!!?」 …山雲が私を覗き込むように見ていた。嘘…私、声に出てた…!? 「扶桑さんが、どうって…」 私は素早く山雲の口を抑えた。 「…聞かなかったことにして」

2015-03-28 22:40:35
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「へ~。進水日のプレゼント」 「ちょっと!大きな声出さないでよ!!」 山雲が妙に嬉しそうに微笑んでくる。何よ、何がそんなに楽しいのよ。私はこんなに悩んでるっていうのに…。 「扶桑さん、多分もう少しで帰ってくると思うわ~」 「ふーん…」 「ふーん、って…渡さないの?」

2015-03-28 22:45:37
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「もしかして、緊張してる?」 山雲に図星を突かれ、身体が少し跳ねた。すると山雲は両手を自分の頬に当て、まるで誰かのように「あら~、あら~」なんて言い始めた。何よ、馬鹿にしてるの!? 「満潮姉、可愛い~」 …私は拳を握りしめ、大きな声を出したい気持ちを必死に抑えた。

2015-03-28 22:50:36
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「私で、練習してみない?」 「…え」 山雲が「どうぞ~」と言いながら両手を広げる。…あんたを扶桑だと思って練習しろってこと?そんな無茶な…。 「あんたと扶桑なんて、似ても似つかないわよ」 「想像力、想像力~」

2015-03-28 22:55:36
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

山雲を見る。ふわふわで色素の薄い髪は何だか羊を連想させる。川のように流れる扶桑の黒髪とは真逆。山雲は山雲だ。…でも、一回はやらないとこのコは逃がしてくれそうにない。山雲は見かけによらず強情な部分がある。…仕方ない。さっさと終わらせて、その後にどうするか考えよう…。

2015-03-28 23:00:58
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…山雲」 「は~い」 「…一回だけよ。一回だけでいいからね」 「うんうん」 …私は箱を手に持ち、溜息をついた。えーと…何て言おうかしら。まぁ、「進水日おめでとう」が無難かしらね。 「…扶桑」 「はい?」 …ん?あれ、変なところから声が聞こえたような…。

2015-03-28 23:05:35
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

目の前にいる山雲の視線が、私を通り越して後ろを見ていた。 「呼んだかしら?」 …私は声の方向にゆっくりと顔を向けた。そこには…。 「ふ…扶桑…」 「はい、扶桑です。何かしら?」

2015-03-28 23:10:37
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

慌てて手に持っているものを後ろに隠す。…すると背中から山雲が耳打ちしてきた。 「どうしたの?丁度良かったじゃない」 あーもう!!そういう問題じゃないのよ!! …扶桑が首を傾げる。扶桑ははらりと揺れた自身の前髪を指ですくい、そのまま耳まで流した。

2015-03-28 23:15:35
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…特に呼んだわけではなかったかしら?」 「あ…」 …どうしよう。このまま肯定したら、きっと扶桑は行ってしまう。…私は何の為にこれを買ったのよ。扶桑をお祝いする為でしょ。そうよ。いつまで逃げてるのよ、私!!

2015-03-28 23:20:36
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…扶桑!」 「うん?」 「あ、あの…」 背中で山雲の「頑張って」と囁く声が聞こえる。…私は大きく息を吸い、そして真っ直ぐ扶桑を見た。扶桑は目を丸くして私を見ている。…ああ、本当に綺麗な目。 「これ…!」

2015-03-28 23:25:34
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…これは?」 「進水日でしょ、今日。その…おめでとう」 やだ…私、手が震えてる。止まれ、止まりなさいよ…!扶桑に変に思われるじゃない…!! 「…満潮」 …扶桑が、箱を受け取ってくれた。そして、それを大切なもののように両手で包む。 「ありがとう、とっても嬉しいわ」

2015-03-28 23:30:37
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

扶桑が柔らかく微笑む。私は直視できずに、堪らず視線を下げた。…すると、私の頭に手が置かれた。扶桑の手。私…撫でられてる…。 「ふふ…」 あああ…山雲が見てるのに…。でも私は振り払うことなんてできず、ただされるがままになった…。

2015-03-28 23:35:35
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…扶桑が廊下の向こうで手を振る。私も小さく手を振り、そして扶桑は角へと消えていった。…私の肩に、山雲の重みがのしかかった。 「満潮姉、よかったね~。うふふ~」 「…まったく、どうなるかと思ったわ…」 私は盛大にため息をついた。…体に力が入らないわ。

2015-03-28 23:40:35
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…私は肩の後ろに手を伸ばし、そこにあるふわふわの髪を撫でた。 「…山雲、ありがとね」 「わ~、満潮姉が素直だわ~」 「…失礼ね」 「満潮姉、扶桑さんに撫でられてるとき、すごい可愛かっ…痛っ!?痛~い…」 変な一言を言いそうになったやつのおでこに、平手制裁。

2015-03-28 23:45:35
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…誰にも言わないでよ。勿論、朝雲にもね…」 「は~い」 …もうこんな時間か。今頃扶桑は山城と…。…駄目、こんなこと考えちゃ。扶桑は喜んでくれた。それでいいじゃない。…うん。 「…満潮姉?」 「…大丈夫よ。さ、そろそろ部屋に戻りましょう」 進水日、おめでとう、扶桑――

2015-03-28 23:50:36