刀剣男子の鶏と卵のお話

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詠憧🐇 @eido_0604

@toukenTL 刀剣男子とその刀剣はセットで普段過ごす。自分だというその刀を不思議に思うこともある、本体はどちらかわからない。感覚も意識も刀剣男子の方にある気がするけれど。これまでたくさんの仲間が砕けてきたとき、刀剣とともに砕けた。

2015-03-25 21:29:27
詠憧🐇 @eido_0604

@toukenTL 戦いの時も寝食の時も手放さなかった自分の刀。敵の攻撃を受けきれず砕ける鋼、切られる骨肉。それがセットだった。ある時一人の刀剣男子が、出撃中に新たな刀を見つける。自分に似た銘。兄弟だろうか。審神者に託そうと持ち帰る。

2015-03-25 21:32:23
詠憧🐇 @eido_0604

@toukenTL 審神者は首を振る。これは名のある刀ではない、どこかの素人が打った贋作だろう。そうかと思いながらも初めて自分の拾った、似た銘の刀。捨てるように言った審神者に、それは自分がやると言い切った。強い語尾に驚く審神者。うなずいて託された贋作。

2015-03-25 21:34:06
詠憧🐇 @eido_0604

@toukenTL 自分の刀と見比べてみる。確かに作りも見た目も違う。しかし刀だ、切れれば良い。誰かの言葉を思い出す。切れれば刀だ、美しさは関係がない。

2015-03-25 21:39:18
詠憧🐇 @eido_0604

@toukenTL これは切れる刀だろうか。気になり、まだ戦い慣れない刀剣男子とともに戦いに出る時に、それを持っていくことにした。大したことはない戦場だ。自分は強く、仲間はまだ弱く、敵も弱い。この刀の切れ味を試すだけだ。自分の刀ではないこの刀。

2015-03-25 21:42:49
詠憧🐇 @eido_0604

@toukenTL 自分の刀は部屋に置いてある。もう一人の自分はいつもの部屋にある。落ち着かなさと不安が珍しく刀剣男子を襲う。それは自分の刀と離れているからだと言い聞かせる。この刀は自分ではない、自分はいつもの部屋にある、だから戦っても大丈夫なのだ。

2015-03-25 21:44:46
詠憧🐇 @eido_0604

@toukenTL 万が一切れぬ刀で、敵に競り負け折れてしまったとしても問題はない。自分はあの部屋にあるのだから。大丈夫だ。そして隊の先陣を切る刀剣男子が声を上げる。戦が始まる。

2015-03-25 21:46:30
詠憧🐇 @eido_0604

@toukenTL 悪態が口を突いて出ていた。検非違使。審神者も自分も抜かりがあった。何を考えていたのか。

2015-03-25 21:47:40
詠憧🐇 @eido_0604

@toukenTL これが自分の刀だったらば。歯を噛み締めながら後悔するが遅い。他の刀剣男子を逃しつつの戦いは当然負け戦である。それでも構わない、逃げ切れるのならばどんな怪我でも構わない、こちらには審神者がいるのだから。命さえ繋げば。刀さえーー己の刀さえ折らなければ

2015-03-25 21:49:42
詠憧🐇 @eido_0604

@toukenTL この刀は切れる刀だろ。思いを込めて検非違使の重い一撃を受ける。鈍い、そして脆い音がする。光を跳ね返すことのない濁った色の鋼が飛び散る。光は検非違使の刃にやどる。その奇跡がはっきりと見える。他の刀剣男子の叫び声が聞こえる。早く逃げろと必死に喉を震わす。

2015-03-25 21:51:47

終わり方1

詠憧🐇 @eido_0604

@toukenTL 音を立てて部屋に置かれた一振りの刀が折れる。

2015-03-25 21:52:15

終わり方2

詠憧🐇 @eido_0604

@toukenTL 本陣に出陣していた部隊が戻ってくる。一番出陣経験の足らぬ刀剣男子がまぶたを晴らし、見慣れぬ鍔を審神者に差し出す。うけとった審神者は首をかしげる。この鍔は知らぬものだ。隊の刀剣男子は自身の手当てなど忘れたようで、重傷を負っている者もみな急いで一つの部屋に急ぐ。

2015-03-30 21:39:42
詠憧🐇 @eido_0604

@toukenTL だれもいない部屋の中央、刀掛けに一振りの刀がある。刀剣男子が駆け込み、その姿を見てすこし目頭を熱くする。一人がそっと刀を手に取り、抜刀する。美しく反射する光、傷のない鋼の輝き。傷を負った刀剣男子たちはみな顔に希望を宿し、審神者の元へ再び戻る。

2015-03-30 21:44:06
詠憧🐇 @eido_0604

@toukenTL 彼ですと恭しく一振りの刀剣を差し出し、額から血を流したままの刀剣男子が審神者に頭を下げる。彼がわれらを守ってくれた、彼自身は検非違使の刀に倒れたが、彼の本体たる刀剣はこうして無傷のままだ。審神者よ、同か再びこの刀剣の魂を蘇らせてくれ

2015-03-30 21:46:09
詠憧🐇 @eido_0604

@toukenTL 審神者は黙って差し出された刀剣を受け取る。確かにその刀剣は審神者の知っているものだった、一度は近侍として愛用していたこともあった。確かに今回の出陣を命じた刀剣男子のものだ。そうか、あの男は散ったのかと知らずつぶやいている。

2015-03-30 21:49:07
詠憧🐇 @eido_0604

@toukenTL どうか、となおも血を流す刀剣男子たちは懇願をやめない。止まらぬ血が着物をぬらし畳を汚そうとも頭を上げない。彼はわれらを守ってくれたのだと震える声が告げる。しかし刀剣が無事であったのだ、コレは何かの奇跡に違いない。我らは人ではない、刀剣に宿る付喪神である

2015-03-30 21:51:10
詠憧🐇 @eido_0604

@toukenTL ならばこの刀剣より再び彼を蘇らせる、それは審神者たるあなたにしかできぬ業。めったに感情を出さぬ刀剣男子が声を振るわせている。審神者はただ首を振る。額からの血を拭いもせず刀剣男子は呆然と顔を上げる。震える唇からは何も言葉が出ない。

2015-03-30 21:59:37
詠憧🐇 @eido_0604

@toukenTL 審神者は静かに渡された刀剣を畳におく。この刀剣にはもはや魂は宿っていない、なにもない、ただの刀剣である。お前たち刀剣男子は古来から愛用された刀剣に宿る魂、宿る神々。いくら刀剣本体が無傷であっても核というべき魂が散ってしまっては私にはどうすることもできぬのだ。

2015-03-30 22:02:16
詠憧🐇 @eido_0604

@toukenTL 刀剣男子は青ざめた顔で自身の刀剣に眼をやる。つねにそばにある刀剣。もともと宿っていた刀剣。審神者に再び視線が向く。私は神の宿る刀剣から刀剣男子を迎えることができるだけ、神の失われた刀剣ではそうもいかぬ。一人の刀剣男子が、それでは、と叫ぶ。

2015-03-30 22:06:45
詠憧🐇 @eido_0604

@toukenTL 以前われらが手に入れた、彼と同じ型の刀剣ではいかがか、あの刀剣には神が宿っていると審神者はおっしゃっていたはずと。審神者は頷く。それは可能だ、しかしそれは新たな付喪、別の付喪。先ほど出陣した刀剣男子とは姿の同じ刀剣男子ながら、別の刀剣男子となる。

2015-03-30 22:08:51