「カルヴァート・キャリーズ・オン・ザ・デス」――『ニンジャスレイヤー』二次創作小説

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忍殺深夜の真剣創作一本勝負 @njheads_bot

本日のお題は『サツバツナイト ブラックヘイズ デスドレイン』ドスエ。 尚、お題以外のニンジャでの参加も普通に可能です。 shindanmaker.com/525403 #忍殺深夜の真剣創作一本勝負

2015-03-31 21:00:02
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

キョート、アンダーガイオン五層。平安時代から続く呪術的都市構造プロトコルに則った区画整理の結果、世界商品と形容しても過言ではない美しさを誇るキョート・アッパーガイオンが捨て去った闇がここにある。 1

2015-03-31 21:04:32
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

その闇とは?……人間である。正確には、生命体としての人間の姿。人が生きる過程で生み出す衣服、食料、芸術……そのような成果のみが地上、アッパーガイオンへと煙めいて立ち上り、その過程で流された血と汗と、命の火花は暗く地の底に封じられた。 2

2015-03-31 21:09:46
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

そうして……文化という精髄を奪われた抜け殻の人々が、自分たちのためでないものを、自分たちに還ってこない歪な搾取サイクルのために、生み出し、送り出し、自分たちだけは墓場のシデムシめいて棲む街……それがキョート・アンダーガイオンである。 3

2015-03-31 21:11:55
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「カルヴァート・キャリーズ・オン・ザ・デス」

2015-03-31 21:13:18
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

ガコンプシュー、ガゴンプシュー、ガコンプシュー、ガゴンプシュー……轟音とともに蒸気を吐き出す、巨大なモノリスめいたセミオートマチック機械群。その一基の前に座る男が、ちらと腕の時計を見た。午後七時十五分前。工場の就業時間が近づいていた。 4

2015-03-31 21:17:26
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

男は再び機械に向かう。顔全体を覆う透明ポリカーボネイトフェイスプレートに、織機の織り上げるニシジンオリが映る。図案はキョート・アッパーガイオンの街路を模したミニマルパターン。ここ、モチモリ・ワークショップの主力商品であり、アッパー層の観光客向けショップでの売れ行きも好調だ。 5

2015-03-31 21:22:04
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

そして、その主力商品の出力を任されている、彼はモチモリ・ワークショップの主任職人、タケヒト・オリーベ。ワークショップが抱える十人の職人集団の長であり、同時に二人の子供を養う良き父である。「そろそろ時間だぞ」織機の駆動音に負けぬ大声で彼が告げれば、残りの職人たちが一斉に頷く。 6

2015-03-31 21:24:42
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

……三十分後。機械を一斉に停止したタケヒトたちは、半ば開放されて、半ば心残りを引きずりながら、ぞろぞろとロッカー室へ向かう。モチモリ・ワークショップは健全営業を歌っており、実際残業は許されていない。しかし、その代わりに作業中の休憩は許されない。 7

2015-03-31 21:27:09
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

さらに、どんなに仕事が残っていても、たとえそれが一分一秒を追加すれば完成するものだとしても、残業は許されない。職人の仕事は集中を要し、「温まった椀を急に冷やすと割れる」というミヤモト・マサシの格言のごとく、この不自由な業務形態に精神を疲弊させるものも少なくない。 8

2015-03-31 21:30:29
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

だが、それに異を唱えるものはいない。タケヒトのハンドリングがワザマエであり、彼の人間性が尊敬を得ている証拠である。実際彼は先代社長の頃からの生き残りであり、その技と地位は祖父の代から続く。まだ三十代半ばという若さだが、今やワークショップ内の地位は社長に続く高さであった。 9

2015-03-31 21:33:54
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「みんな、オツカレサマ」ロッカー室で、タケヒトはいつものように職人全員を労った。疲れ果てた職人たちの顔に安堵の表情が浮かび、それは自分も同じだとタケヒトは感じる。「明日もまたよろしく頼む」「「「「「「「「「「アリガトゴザイマシター」」」」」」」」」」職人たちが一斉にイジギ。 10

2015-03-31 21:35:53
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「主任、今日はどうします?」主任補佐のボギジが声をかけてきた。タケヒトは自分のロッカーにヘルメットをしまいながら、「今日はお前にまかせる」と答えた。色あせたジーンズと袖の擦り切れたレザージャケットを身につける彼に、「来られないんで?」とボギジ。 11

2015-03-31 21:38:08
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「ボギジ=サン、だめですよ。今日は主任、アレじゃないですか」若手職人の筆頭であるミウラが言った。「アレ……しまった、そうでしたね主任」ボギジもすぐに気づいたようだった。「野暮はいけねえや、俺達は俺達で打ち上げときますから」「そうしてくれ、すまんな」タケヒトは丁寧に詫びた。 12

2015-03-31 21:40:21
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

手早く着替えを終えたタケヒトは、ロッカーから取り出した紙包を抱えて工場を出た。ゲートの守衛が読んでいた新聞をたたみ、「オリーベ=サン、なんかのお祝いかい?」「ええ……結婚記念日なんです」「そうかい、そりゃあ結構なこった。奥さんによろしくな」笑いかけた。 13

2015-03-31 21:43:11
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「ハイ、アリガトゴザイマス」タケヒトがオジギすると、「早く帰んな。奥さん待ってるぜ」守衛は言って、新聞を再び広げた。その一面に『凶悪犯刑務所を脱獄』とあるのを目に止め、しかしタケヒトは足早にゲートを出た。 14

2015-03-31 21:44:53
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

……十分後。タケヒトは地下鉄駅のホームで、電話をかけた。相手はもちろん妻のホダヨである。『あら、どうしたの?』「仕事が終わった。これから帰る」『うん。早く帰ってきてね』「ああ。子どもたちは?」『パパを待ってるわ』「そうか」 15

2015-03-31 21:48:15
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

そう答え、電話を切ろうとした時、タケヒトの耳にその音は飛び込んできた。……ゴボゴボ。「どうした?」『え?』「変な音がするぞ」『何かしら……ああ、また下水が詰まってるんだわ』「そうか、じゃあそのうち修理を呼ばないとな」『そうね。うちは川に近いから、こういう時困るのよね』 16

2015-03-31 21:50:00
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

……改めて電話を切り、地下鉄に乗り込んでから、タケヒトは家庭のことを考えていた。主任職人となっても、生産量が調整されているため、賃金は増えない。もう少し月給が上がればいいところに引っ越せるのだが……。オリーベ家が棲むのは、キョート・アンダーガイオンを流れる暗渠の側であった。 17

2015-03-31 21:52:01
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

アンダーガイオン五層までの住民の下水と、アッパーガイオンの下水が、さらに下層へと流れる下水の側は、賃料の安い家が多く、その一つにオリーベ家はある。自分と妻、そしてハルコとタケシの二人の子供が棲むのにちょうどいい部屋は、工場の近くだと五割ほど高くなる。仕方のない選択であった。 18

2015-03-31 21:54:36
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

しかし……((これまでなんとかやってこれた))と思うタケヒトである。地下鉄を降り、繁華街を足早に抜けると、下水の臭いが近づくと、その感慨もいや増した。この臭いの側で、今日まで五年、二人の子供を育ててきた。長女のハナコは来年小学校に上がる。その金はなんとか工面できそうだ。 19

2015-03-31 21:57:07
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

やがて暗渠が見えてきた。暗渠と行っても、それはキョート全体からしての見え方であり、彼にとってはただの川だ。排水が流れてきて、また去っていく中で、臭いばかりを振りまく川。しかし自分たちの工場から流れる排水もまたここに流れこむ。そう考えると、そんなに悪いものでもないと思う。 20

2015-03-31 21:59:31
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「オット」物思いにふけっていたタケヒトは、誰かにぶつかりそうになった。「ア、スイマセン」タケヒトは奥ゆかしく謝辞を述べた。「ン?」その人物が立ち止まり、二人は顔を合わせた。 21

2015-03-31 22:00:55
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「あンたさァ」その人物が言った。フードを目深に被った、妙に痩せた男だった。フードと、鼻先まで引き上げたジッパーによって、顔はよくわからなかったが、タケヒトの知らない男だった。「どっかで嗅いだ臭いがすンなァ」「なんですか?」彼は訝しんだ。「ヘヘヘ、ゴメンしてくれ」男は去った。 22

2015-03-31 22:03:29