日露戦争と安重根 正当防衛と過剰防衛

 本にするための文章を一部投下。何度か書いたことだが、落ち着いて手をいれたので、読みやすくなっているはずだ。  ※その後、没にしました。
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イヌノオー@ @inunohibi

周知の通り、日本は江戸時代に鎖国していたが、黒舟来航によって開国に大きく舵を切り、明治維新を迎えた。現在の研究では、江戸時代に本当に国を閉じていたのか、という指摘もあるし、日本の近代化を可能にしたのは、江戸時代に成熟した経済や文化が基盤にあったことが明らかになっている。

2015-04-01 17:32:56
イヌノオー@ @inunohibi

それでも黒舟来航がなければ日本の大きな転換はなかったし、それが「日本の近代化は西洋列強に強いられた」という意識を持たせた。

2015-04-01 17:33:06
イヌノオー@ @inunohibi

そして日本近代の対外侵略、海外膨張の歴史もまた、「西洋列強が原因だ」「防衛のためやむを得ず行った」という意識を残すことになる。満州事変の首謀者・石原莞爾は、「ペリーこそが真のA級戦犯だ」と主張したらしい(秦郁彦「陰謀史観」)。

2015-04-01 17:33:20
イヌノオー@ @inunohibi

ロシア帝国が、ユーラシア大陸を横断するシベリア鉄道の建設に着手し、極東に進出してきたことに早くから危機感を持った山県有朋は、1890年に第一回帝国議会の施政方針演説で、「国家の主権線を守るためには、利益線を守る必要がある」と主張する。

2015-04-01 17:33:57
イヌノオー@ @inunohibi

主権線とは日本の領土の範囲であり、利益線とは日本が利益を持つ隣接地域のことである。そして山県によれば、日本の利益線は朝鮮と台湾であるとされた(加藤陽子「戦争の日本近現代史」)。

2015-04-01 17:34:11
イヌノオー@ @inunohibi

そしてこれが現在も、日清・日露戦争を正当化する言説のパターンになった。「ロシアに朝鮮を取られそうだ。朝鮮を取られれば、日本の独立も脅かされる。その前にロシアと戦った」と、今でもよく擁護される。しかし「そう思った」ことと、「そうである」ことは全く別物だ。

2015-04-01 17:34:24
イヌノオー@ @inunohibi

「ロシアに朝鮮を取られれば、日本の独立も脅かされる」ということは、はっきり証明されたわけではない。現在まで、十分に証明されたといえる説得力ある議論はない。

2015-04-01 17:35:10
イヌノオー@ @inunohibi

山県有朋たちの認識があった一方で、衆議院議員の谷干城は「日本は海外遠征できる軍事力をもっていない」として、日清戦争などに反対し、日本本土の防衛に徹することを主張した(長い海岸線に堤防を築き、迅速に兵力を集中できる鉄道網の整備などを訴えた)。

2015-04-01 17:35:26
イヌノオー@ @inunohibi

山県の主張にそった政策が実行され、谷の主張がしりぞけられたのは、当時の政治的力関係なども絡んでおり、山県が正しくて、谷が間違っているからと決まったわけではない(岩井忠熊「大陸侵略は避け難い道だったのか」)。

2015-04-01 17:35:35
イヌノオー@ @inunohibi

1905年に日露戦争に勝利したあと、1910年に大韓帝国(朝鮮)が日本に併合される。諸外国から巧みに承認を取り付け、朝鮮を緩衝地帯として支配下に置くという地政学的戦略に、当時ドイツの駐在武官として日本に赴任していたカール・ハウスホーファーは感銘を受けた。

2015-04-01 17:35:51
イヌノオー@ @inunohibi

これをヒントに、母国に帰って地政学者になると、ドイツ民族の「生存圏」(レーベンスラウム)という考えを提唱する。

2015-04-01 17:36:04
イヌノオー@ @inunohibi

この思想はヒトラーに影響を与え、ドイツ民族の「生存圏」確保のため、ポーランドおよびソ連からなる東方地域を、ドイツ民族の植民地にするという発想にヒトラーが至った。(曽村保信「地政学入門」)

2015-04-01 17:36:17
イヌノオー@ @inunohibi

昭和になると、中国におけるナショナリズムの高揚で、国権回収運動が巻き起こる。日本が日露戦争の勝利で得た満州の鉄道、租借地といった権益が脅かされそうになると、そこで「満蒙は日本の生命線」と唱えられ、関東軍が満州事変を起こし、中国東北部に日本の傀儡「満州国」ができあがる。

2015-04-01 17:37:40
イヌノオー@ @inunohibi

日本の敗戦後、戦争指導者は裁判(極東国際軍事裁判、いわゆる東京裁判)で、一連の戦争は「自存自衛のためだった」と主張した。曖昧であやふやな「独立が脅かされる可能性」よりも、事実と結果は明白で、重大である。

2015-04-01 17:37:51
イヌノオー@ @inunohibi

日本が戦争を仕掛け、およそ千万人から2千万人と見られる、たくさんの犠牲者が出た(もっともフィリピンでは、米軍の艦砲射撃にフィリピンの民間人が巻き込まれて死亡していたりする。これは全てが日本の責任ではないだろう)。

2015-04-01 17:38:04
イヌノオー@ @inunohibi

朝鮮の独立運動家・安重根が伊藤博文を射殺したのは、伊藤が朝鮮の独立を脅かしている、と「思った」からだ。実際伊藤は、韓国の外交権を剥奪する第二次日韓協約、 軍事権を剥奪する第三次日韓協約を、韓国に押し付けた。

2015-04-01 17:38:55
イヌノオー@ @inunohibi

伊藤は、韓国を併合することに反対していたとも、暗殺される直前になって、賛成していたとも言われる。しかしこの際それは無視する。日露戦争前のロシアや、太平洋戦争前のアメリカに、「日本征服計画」のようなものはなかったのだから、相手がどう思っているかではない。

2015-04-01 17:39:08
イヌノオー@ @inunohibi

日露戦争や、満州事変を正当化する論理で言えば、「自国の独立が脅かされる」と思った安重根の行為も、全く正しい。

2015-04-01 17:39:19
イヌノオー@ @inunohibi

私達の社会では正当防衛を認めており、たとえば頭に拳銃を突きつけられたとき、助かる為に暴力を使うのは、大体無罪になる。しかし一方で「過剰防衛」という罪状もあり、「自分が助かるためだ」という弁明が、全て通るわけではない。

2015-04-01 17:39:31
イヌノオー@ @inunohibi

日本本土が外国の船に攻撃されそうなとき、武器を取って戦うだけならば、非難するものはいないだろう。しかし離れた中国東北の地の戦争で、「自存自衛だ」といえばどうだろうか。

2015-04-01 17:39:45