スパイスを探しに#4(終)
(前回までのあらすじ:暴走したスパイス工場へ潜入した赤錆鎧の騎士ミェルヒと画家のエンジェ。二人は草の生える坑道の奥で、謎の老人と出会う。通行料を払い老人と共に深層へと辿りつく。そこは芋虫の巣だった。芋虫の攻撃で、じつは老人が死亡していたことを知る)
2015-04-17 21:12:07ミェルヒとエンジェはドームの入口のゲートへと辿りつく。振り返ると、老人の墓は見えなかった。あの墓は幻想だろう。老人は追ってこなかった。ドーム内部の雑草は風もないのに揺れていた。「このドームに芋虫はおらず、さっきのドームに大量にいた。つまりそこにおじいさんはいる」 100
2015-04-17 21:14:55「おじいちゃんの遺体を弔えば、工場は元に戻るかな」 エンジェが重機を退かしながら言う。しかしミェルヒは首を横に振った。「大量生産はできないだろう。そのための工場の設備なんだ。それがおじいさんの魔力の消滅と共に一斉に機能を停止する」 坑道の向こうに、芋虫の巨体が覗く。 101
2015-04-17 21:17:49「失われた動力源を再建するには多くのお金と時間が必要だろう……なに、それは村が抱える問題だ。僕たちのサービス残業の目的は違う」 ミェルヒは麻痺の呪文の残量を確認する。まだ10回は使える。「芋虫を一掃して、工場をおじいちゃんに返してあげないとね」 ミェルヒは笑った。 102
2015-04-17 21:20:29二人は先程脱出したドームに飛び込んだ。坑道から飛び出した重機がでたらめにスパイスを刈り取っていた。芋虫たちはそれを邪魔そうにしている。糸で重機を絡め取ったり、クレーンによじ登って逃げている芋虫もいる。20匹ほどだろうか。ミェルヒは生命探知の呪文で改めて情報を確認した。 103
2015-04-17 21:23:16「10発の麻痺の呪文、20匹の芋虫……困ったな、算数は苦手なんだ」 ミェルヒは苦笑した。生命反応で、ドームの奥に動かないものがいた。特殊なタイプかもしれない。ミェルヒはそれを頭に入れておいた。「エンジェ、援護を頼む、注意をひきつけてくれ」 「イヒヒ、了解よ~」 104
2015-04-17 21:25:46エンジェは先程戦ったように、ゲートの陰から破片の魔法を飛ばす。大きな音を立てて横倒しになる重機。知能の低い芋虫は恐慌状態になり、倒れた重機に釘付けになる。ミェルヒは背をかがめて、背の高いスパイスの草の陰に隠れながら一気に芋虫に肉薄する。芋虫が気付いた頃にはもう遅い。 105
2015-04-17 21:28:46至近距離から兜のギミック、火炎放射を浴びせる。しかし、丸太のような巨体を持つ芋虫はそう簡単に絶命しない。激しく身をよじり火を消そうとする! ミェルヒは剣に仕込まれた魔法を起動させる。剣が赤熱し、殺傷性を高める。鋭い突き! 赤熱した刀身が芋虫の装甲の隙間に突き立てられた。 106
2015-04-17 21:31:04芋虫はそのまま息絶えた。「一匹!」 しかし、ミェルヒに襲いかかる白い糸! 火炎で焼き払い、軽くステップを踏んで攻撃の出所を探る。向かってくる芋虫二匹。ガントレットを操作し、麻痺の呪文を起動させる。「痺れろ!」 動きの止まる一匹。襲いかかる一匹! 107
2015-04-17 21:33:17「もう一匹!」 ミェルヒは猛然と突進し、動けない芋虫に火炎を浴びせかけた。燃える芋虫は、そのまま何の抵抗も出来ずに焼け死ぬ。糸を吐く健在のもう一匹。赤熱した刀身で糸を切り払い、逆に火炎を浴びせかける。糸を伝って火炎が伝播し、芋虫は悲鳴を上げる。剣が突き刺さる! 108
2015-04-17 21:35:53「3匹目!」 芋虫が現れる。火炎を浴びせる。剣を突き刺す。「4匹目!」 芋虫が現れる。麻痺させる。燃やす。「5匹目!」 芋虫が群れる。エンジェが魔法でクレーンを叩き落とす。芋虫が巻き込まれる。「たくさん!」 そうして、二人は連携して芋虫を殺していった。 109
2015-04-17 21:38:02「ようやく20匹目かよ……」 ミェルヒとエンジェはドームの奥へと足を運んでいた。残すはこの一匹となっていた。麻痺の呪文はもうない。破片の呪文も使いはたした。「大きいね……」 ドームの奥に巣くう最後の一匹……その巨体は工場の陰に隠れ、天井まで届こうとしていた。 110
2015-04-17 21:40:49その芋虫は巨大だった。いや、芋虫部分はそいつの膨れ上がった腹だけしか残されておらず、上半身は脱皮した甲虫のようになっている。短い昆虫の脚が6本伸びていた。顔は醜悪な蜂のような顔で、不快な毛がびっしりと生えている。ミェルヒもエンジェもその大きさに攻めあぐねていた。 111
2015-04-18 19:55:05「とりあえず、火をつけてみるか」 火炎放射の射程まで近寄ろうとするミェルヒ。しかし、丸太のような腹の先を器用に動かしたかと思うと、そこから勢いよく白い糸を噴出したのだ! 必死に身を屈めてかわすミェルヒ。糸は背後のクレーンを切断し、投げられたテープのように落ちていった。 112
2015-04-18 20:00:23ミェルヒは凍った笑顔のまま這うようにして後ずさり、糸の射程から逃れる。「こりゃ近づけないね」 「私の魔法もないし、引き返す?」 「万全の用意が無いと、ここは突破できないね……」 そのとき、巨大な芋虫がギチギチと関節を鳴らした。すると、ドームのゲートが閉じ始めたのだ。 113
2015-04-18 20:03:08エンジェは悲鳴のような声を上げる。「あいつ、この工場をコントロールしてる!」 「まずい、もう間にあわないぞ」 二人が見ている目の前で、ゲートは完全に閉じてしまった。「万事休すか」 芋虫の親玉に操られたと思われる重機が、ゆっくりと二人に近寄る。後ずさる二人。 114
2015-04-18 20:05:16「ワシを無くして逃げ回ってきたのに、かっこつけて何でも解決しようとするからそうなるんじゃ」 老人の声。ミェルヒとエンジェは重機が老人の支配下であることに気付いた。老人は、全てを芋虫に奪われたわけではなかったのだ。「おじいさん、夢を取り戻したんですね!」 115
2015-04-18 20:08:09歓声を上げるミェルヒ。その脇を、重機が猛スピードで走り抜けていく。無秩序に生えたスパイスを蹴散らし、重機が芋虫に向かって猛然と突撃する。「ワシが攻撃する。お前は火炎だ!」 「了解!」 ミェルヒは重機の陰に隠れて巨大芋虫へ肉薄する。高圧の糸で重機を蹴散らす芋虫。 116
2015-04-18 20:11:27しかし、重機の数が多い。半分を吹き飛ばしても、まだ5台も残っていた。それらが全て抉り込むように芋虫に突き刺さった。ノイズのような悲鳴を上げる巨大芋虫。紫色の体液が噴出する。「いまだ!」 ミェルヒは兜のギミックを起動させる。高速火炎放射が射出される! 117
2015-04-18 20:14:45重機ごと火炎に包まれる巨大芋虫。火の勢いは強く、またたく間に巨体を覆い尽くした。火は、勢いを増していく。「まずい! おじいさんの死体を見つけないと」 「いや、いいんじゃ」 老人の静かな声。エンジェは先にゲートに辿りつき、なんとか手動で扉を開けようとしている。 118
2015-04-18 20:17:47「この工場自体が、ワシの骸だったんじゃ。やがて全て炎に包まれ、灰になるだろう。ワシの夢が、完全に潰えるのだ。夢に齧りつき、肥えていたのは……ワシ自身だったのじゃ」 ミェルヒは老人の声を聞きながら、エンジェの助けに行く。動力は停止していた。エンジェはハンドルを回している。 119
2015-04-18 20:20:56