たどり着いたその先は、けれど人の気配もあやかしの気配もなく。遊灯華は、手水場の傍らに腰を下ろしてぼうとすることにした。そのうち、気配が戻ることを、何の根拠もなく、ただ信じて。
2015-04-14 22:23:14「…おはよう、とうかちゃん」 夕奈が奥の方から歩きながら、躊躇いがちに声を掛ける。 声をかけたは良いものの、何と話しかければ良いのかはわからなかったが。 それでも何となく、声をかけてみたかった。
2015-04-15 15:34:55僕は本堂から外へと出る。彼と話していたはずなのに、気付いたら朝になっていた。不思議と眠気はない。 もう3度と見たこの場所は見間違うはずもなかった。見慣れた門と寺をそれぞれ目配せした。 「……あ、夕奈さん、遊と灯華さん」 そうして声をかけるのは、まず見つけた2人だった。
2015-04-15 17:29:08半ばまどろんでいたところに、声が聞こえた。 「おはよう」 見上げれば、人間の少女が近づいてきたところだった。 「おはよう、ひの、ゆうな」 息災で何より、と安堵した理由はよくわからなかった。着物の左前を押さえて立ち上がり、自分からも少し近づいてみた。
2015-04-15 19:16:42さて次の言葉をなんとしよう、と考えあぐねたその時に、また、人間の声が響く。 本堂から、少年が一人、歩いてくるところだった。 「……おはよう」 会釈をして、左手の傘を所在なさげにもてあそぶ。紡ごうとしていた言葉を、忘れてしまったもので。
2015-04-15 19:19:45「おはようございます」 僕は遊灯華さんに会釈し返す。それからどうしたものか、彼女はまごついていて、悩んでいるように見えた。首を傾げる。 「……大丈夫でしょうか」 彼女の心の内は知らないから、そう問う他になかった。
2015-04-15 19:37:15ついでに、自分の性別が間違われていることにも、当人が言わないことには気付く事もない。 僕は霊能力者であってエスパーではないのだから。 そうして沈黙するのもどうかと思ったので、 「……昨日は大丈夫でしたか、お2人とも」 そう問いかけてみた。
2015-04-15 19:40:06カラカラカラッ 「よぉ、お嬢ちゃんたち!おはようさん」 本堂の引き戸を引いて現れる、ひょろ長い男。 昨晩はずいぶんと話し込んでしまったため、少し、喉が渇いている。 ヒョイと踏み出し、手水舎へと向かう。
2015-04-15 22:28:52その道すがら、蓮の横を通りながら。 「昨晩はごめんなぁ、嬢ちゃん。寝かせてやれなくて。疲れちまってねぇか?」 その少女の頭に、ポンと軽く手を乗せる。 ……どうやら、柔らかな髪を撫でる感触が、お気に入りのようだ。
2015-04-15 22:32:56「おはようございます、ねぶるさん」 いつもの調子でやってきたあやかしの男を見上げて挨拶を。 「……いえ、楽しかったですから。体調もいいですし」 くしゃりと笑んで、僕の頭に手が乗せられる。目をうとりと細めた。撫でられる事は悪い気はしない。嫌いじゃあない。
2015-04-15 22:54:56最初の昼の時のように。 彼女はくたびれながら階段をのぼりきる。 汗に張り付く髪をかき分け。 ふわりと、髪についていた桜の花弁が地に落ちる。 「おはよう、ございます。」 それなりに揃ってきている面々を見渡し。
2015-04-15 23:03:53続ける言葉を考えようとして、声をかけられ蓮の方を見遣る。 「あ、不老さん。おはようございます。昨日は……何かあったんですか? 私と水藤さんは、大丈夫、ですけど」 彼女達の方は何かあったのだろうかと不安そうな顔を浮かべる。
2015-04-16 00:18:55続いて現れたねぶるに、おはようございますと挨拶はするも、心配からか表情は明るくない。 水を飲もうとするねぶるに道を開けて、二人の会話を耳にする。 …やはり昨晩、何かあったのだろうか?
2015-04-16 00:20:29どうしても気になり、ねぶるへ尋ねようとした丁度その時。おはようございます、という声が階段の方から聞こえてきた。 見てみれば、疲れた様子の染井の姿。 彼女の挨拶に「おはようございます」と返してから、その勢いで。 「昨夜、何かありましたか?」 そう、問うた。
2015-04-16 00:22:06「おーおー、皆さんお揃いで」 そんな事をの賜りつつ、ずるりずぅるりと現れるのは蟒蛇。 どうやらこの空間内では丑三つ時でも眠くなってしまうらしい。 昨夜あの人間と話すだけ話し、その後空気も冷えたこともあり中へと入り床についた。 …それでも朝は弱いのは変わらない。 あふ、と欠伸。
2015-04-16 10:00:48ちら、と見遣るは人間三つ。 黒いのとは一緒にいることはなかったが、あの歌を知ってるなら分かってはいるだろう。 各々答えを出したのだろうか。 最後の刻、三つ目の朝。 気になるところでも口出し聞くことではない。 それよりも『何かあったのか』という話題を邪魔せぬよう口を噤んだ。
2015-04-16 10:04:45「いえ、特には……」 昨日は神隠しについて語ったくらいだ。神隠しに会ってから一定時間を過ぎると帰れなくなる。セオリー通りなら昨日が山場だったのだけど。 特に違和感もないのなら、『無事』でいるのかもしれない。火野の変わらん様子に安堵して頬を緩ませた。 「何もないなら良かったです」
2015-04-16 12:18:07あとはでかかった答えから、どう選別するか、どう選ぶかだ。 答えはおおよそ見つけてきた。 ……それとは別に、黒いのさんが相変わらずなのか、イレギュラーが起きたのか把握しきれない状態にあったのに目を開かせる。 「おはよう、ございます?」 いや、彼女こそ、何かあったのでは。
2015-04-16 12:20:02何かあったのかと問われる声に、ヘラヘラと舌を揺らして笑って応え 「あぁ、安心しろよ。俺ぁ、いくらお嬢ちゃんらが若くって可愛くって柔らかそうだからって、取って食いやしねぇから」 彼らが何を心配しているのかはわからないが、とりあえずそんな台詞でおどけてみせる。
2015-04-16 17:25:11そして、手水舎にて喉を潤し、満足すると、さりげない歩調で、眠そうに欠伸をする白蛇のもとへ。 「おはようごぜぇます、水藤の姐さんっ!」 おそらくは、彼女も気づいているだろう。 この朝が、『六人』にとっての、最後の朝になるということ。 そして、その意味に。
2015-04-16 17:53:54「……ところで姐さんは、今宵はどのお嬢ちゃんと、過ごすんで?」 少々、気の早い話かもしれない。 しかし、ねぶるは振り向き、今度は傘を弄ぶ遊び火の少女へ 「遊び火のお嬢ちゃんも。……気の合う『あにさん』ぁ、見つかったかい?」 異なる言葉で、同じ意味の問いかけを。
2015-04-16 17:53:56「……」 問いかけに、ため息を返して、遊灯華は、舌の長いあやかしを見た。 「あなたは?」 雨が降れば消えてしまう残り火のようなもの、風の向くままどこまでも流れ流れて、
2015-04-16 19:16:05