知的・発達障害のあるお子さんへのアナログゲーム療育

ご好評いただいた「知的・発達障害のあるお子さんに「カタン」で療育したケース」http://togetter.com/li/815740の続編。 アナログゲーム療育とは「盤上で繰り広げられる子ども同士の相互交渉を通じて明らかになるお子さんのコミュニケーション上の課題を、本人と指導者が一緒になって理解し、乗り越えようとする試み」であると考えています。 そのことを、前回登場したS君のその後を通じて説明します。
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松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

先日まとめた 「知的・発達障害のあるお子さんに「カタン」で療育したケース」 togetter.com/li/815740 は8万viewに迫る勢いで読まれました。 アナログゲームを将来の自立を意識した実践的な療育に応用可能であることに興味を持たれた方が多くいたようです。

2015-05-10 12:55:40
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

このまとめに対し、コメント欄やこのアカウントへのリプライでいただいたご意見の中には、「ゲームを通じて実社会にでたときのシミュレーションができるのはおもしろい」という肯定的な感想があった一方、

2015-05-10 12:56:35
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

「実社会はゲームに比べてはるかに複雑多様であり、たかだがボードゲームを数回プレイした程度で実社会で通用するような訓練にはならない」という否定的なご意見もいただきました。 「知的・発達障害のあるお子さんに「カタン」で療育したケース」 togetter.com/li/815740

2015-05-10 12:57:06
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

さて、双方の反応に共通しているのはアナログゲームを「実社会のシミュレーション」として捉えておられるということです。しかし、私の考えでは、子ども同士がアナログゲームをプレイしあうことは、「実社会のシミュレーション」ではなく、「実社会」そのものです。

2015-05-10 12:58:03
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

「カタン」のケースでは、交渉で相手の言いなりになってしまうS君に、私は将来悪意ある相手から詐欺や強要を受ける可能性を感じたことをきっかけに書きましたので、それを読んだ方が「ゲームを通じて実社会のシミュレーションをおこなっている」と捉えられたのは当然です。

2015-05-10 12:58:39
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

しかし、本質的には、子ども同士がカタンをプレイする過程で不利な交渉を断ることも、将来大人になったとき笑顔で近づいてくる詐欺師の意図を見抜くことも、子どもの社会と大人の社会の違いこそあれ、どちらも実際の人間同士の関わりであるという点において「実社会」の交渉であろうと私は考えます。

2015-05-10 12:59:34
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

さらに踏み込んでいえば、教育的にアナログゲームをプレイさせることを「実社会のシミュレーション」と捉えている限り、それは無謀な教育というものだろうと思います。

2015-05-10 12:59:59
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

「実社会はゲームに比べてはるかに複雑多様であり、たかだがボードゲームを数回プレイした程度で実社会で通用するような訓練にはならない」それはそうだろうと思います。

2015-05-10 13:00:33
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

子どもたちにアナログゲームをプレイさせることで何らかの成長を促したいということであれば、「実社会のシミュレーション」というところからもう一段階高い視点でその行為を捉え直さねばなりません。そのことを、再びSくんのケースを通じてご説明したいと思います。

2015-05-10 13:00:48
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

改めて、Sくん(仮名)を紹介すると、中学二年生で軽度の知的障害があり、特別支援学級にかよっています。やや大人しすぎる感はあるもの、素直な優しい子で、宮沢賢治の「雨ニモマケズ、風にもマケズ・・・イツモシズカニワラッテイル」を地で行くようなタイプ。

2015-05-10 13:01:25
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

人の好いSくんは、カタンでは、自分に不利な交渉でもニコニコ応じてしまっていましたが、数度のプレイを通じて、だんだん交渉の内容を吟味し断れるようになってきました。

2015-05-10 13:01:27
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

※念のため再掲しますが、今回紹介するエピソードは実際の体験を元にしていますが、個人の特定をさけるために細部を改変してあります。

2015-05-10 13:01:36
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

Sくんにカタンの次にプレイしてもらったのが「ワンナイト人狼」。プレイヤーは「村人」または「人狼」の役を割り当てられ、フリートークで「村人」は誰が「人狼」なのか突き止め、「人狼」は自分の正体を隠し通すゲームです。ブログ紹介記事はこちら。ameblo.jp/houkagotouday/…

2015-05-10 13:02:06
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

初回プレイ時、フリートークの時間が終わり、「さあ、人狼だと思う人を指さしてください!」と言われてSくんが指さしたのは・・・自分自身。カードをめくってみると実際彼は人狼でした。自分で自分の正体をバラしたのではゲームになりません。

2015-05-10 13:02:40
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

改めて「人狼は自分の正体を隠し通すのが目的」と説明した上で、2,3回プレイを重ねると、カタンのときと同じようにSくんもゲームの意図がわかってきて、初回に見せたようなミスはなくなりました。

2015-05-10 13:06:05
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

余談にはなりますが、ルールを理解したSくんの正体隠蔽力は中々のものでした。なぜかというと、「Sくんが人狼じゃない?」と疑われた際、彼は自分が村人だろうが狼だろうが常に全力で「違うよ!」と否定するからです。

2015-05-10 13:06:39
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

常に同じ反応なので、他のプレイヤーはS君の態度や言動から情報を得られないのです。S君の素直さが生きたある意味で究極の戦略(笑)。

2015-05-10 13:06:41
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

それはさておき、Sには他にもウィーウィルロックユーをやってもらっている。これは注意力が問われるゲームで、彼はやはり最初は一歩遅れるけれども、だんだん慣れてくると、まあまあの成績を残せるようになった。ブログ紹介記事:ameblo.jp/houkagotouday/…

2015-05-10 13:21:32
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

複数のゲームをプレイしてもらう過程でわかってくるのは、「Sくんという子は、最初の説明を聞いただけですぐ理解して上手にプレイすることは難しいが、実際にプレイを通じて体験的にゲームの構造を理解できる力があり、結果的に同年代の健常児とも遊べるくらいのレベルまでいける」ということです。

2015-05-10 13:29:14
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

Sくんも複数のゲームをプレイする過程で「俺という人間は最初はよくわからないことが多いけれども、頑張って何回かプレイすると勝てる時もある」ということがわかってきており、だからこそルールが複雑なゲームでも、失敗にめげず意欲的に取り組んでいる。

2015-05-10 13:36:12
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

そんな折、親御さんとの面談で、SくんのWisc‐Ⅳ(知能検査)の結果を見せて頂く機会があった。検査項目の中で"ワーキングメモリー”という項目が大きく落ち込んでいた。

2015-05-10 13:40:34
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

ワーキングメモリーは聴覚からの情報記憶に関連しており、例えば検査者が発する「390581」といったランダムな数字を順番に、あるいは逆順で復唱する検査で確認される知能である。

2015-05-10 13:45:57
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

ワーキングメモリーすなわち聴覚記憶が弱いという知能検査の結果は、アナログゲームをプレイするS君の「最初のプレイでは勘違いが多いが、何回かやるとやり方がわかって結構いいところまで行く」という性質をよく説明するものである。

2015-05-10 13:52:07
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

つまり彼は、インストを耳で聞いただけでルールと目的を理解してプレイするのが、彼の知能の性質として特異的に困難だったと考えられる。

2015-05-10 13:53:11
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

逆にいえば、検査で現れた彼の知的能力の特性を、アナログゲームをプレイを通じて、子ども同士の関わりの中で現れる問題として、保護者や学校の先生に報告することができる。これがアナログゲーム療育の極めて大きなメリットの一つである。

2015-05-10 13:58:33