「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」 #2

B・ボンド&P・モーゼズ作。ネオサイタマを舞台としたサイバーパンク・ニンジャ活劇「ニンジャスレイヤー」の私家翻訳物 詳細はこちら http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」#2

2010-12-15 12:34:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アガタはため息をつき、ドアノブに手をかけた。疲れていたのが判断を鈍らせたのかもしれない。それとも、何かの避けがたい巡り合わせだったのかもしれない。先程の唐突なフラッシュバックも、なにかの報せだったのかもしれない。……この二分後、アガタは、そんなとりとめのない後悔をする事になる。

2010-12-15 12:36:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハイハイ、ドーモ……」アガタはドアを引き開けた。「ドーモ!」途端に、差し込まれる毛むくじゃらの腕!「待たせやがって!!!とっとと開けろよ、マリアァァァ!」「アイエエエエ!」

2010-12-15 12:40:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

室内に押し入るなり、男は空っぽのダンボール箱をアガタに投げつけた。そして作業帽も。酷薄な三白眼と薄い唇が露わになる。ナムアミダブツ!アガタはこの男を知っている!「ダイゴ=サン!?どうしてここが……」

2010-12-15 12:45:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「テメェ、表札の名前がどうしてゴトーじゃなくてアガタなんだ!?探させやがってどういうつもりだぁ!」「ア、アイエエエ……」ダイゴは後ろ手にドアのカギをかけ、アガタの肩をどやすと、土足でズカズカと入り込む!

2010-12-15 12:59:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「や、やめてよ!」抵抗するアガタの頬を、ダイゴはいきなり拳で殴りつけた。「ザッケンナコラー!」滑らかなヤクザ・スラングだ。コワイ!「アイエエエエ!」アガタは床にくずおれた。口の中が切れ、血の味が広がる。ダイゴは作業着を乱雑に脱ぎ捨てた。タンクトップと屈強な肩の筋肉が現れる。

2010-12-15 13:04:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そういうワケだからな、マリアァァァ!今から俺はここに住むんだから、丁重にもてなせよ?さっさとサケとスシをデリバリーしろ」「アイエエエ……」「ザッケンナコラー!返事は『ハイ』だろうがぁ!」ダイゴは籠の成形ジャガイモをぶちまけ、手近のチャワンを窓ガラスに投げつけ、叩き割った。

2010-12-15 13:08:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アガタが震えていると、ダイゴは今度は目に涙をため、涙声になる、「お、おれはお前がいなきゃ、ダメなんだよ、どうしてあんな……帰ったら、お前がいなくて、部屋が……畜生、畜生……さびしかった……よかった、見つかって……」毛むくじゃらの腕で目をゴシゴシやりながら、号泣する。

2010-12-15 13:21:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アガタは恐ろしいダイゴの号泣を見て、胸の奥が苦しくなる。不思議と憐れみの気持ちが湧いてくるのだ。だがそれは危険な条件反射、偽りの共感にすぎない。この偽りの共感が、かつてのアガタを縛り続けたのだ。アガタは自分の感情に抗おうとした。

2010-12-15 13:28:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

茶の間の調度はチャブ台と写真立て、ノートPC、ジャンク屋から手配したファイアーウォール装置のみである。生活の匂いが微塵も無い、実にサップーケイな室内であった。それはフジキド・ケンジのサツバツとした心情風景の反映でもあろうか。

2010-12-15 14:26:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

自らの手で負傷の応急処置を済ませ、鎮痛剤のアンプルを注射し終えたニンジャスレイヤーことフジキドは、壁に「平常心」とショドーされた半紙を貼り付け、アグラ・メディテーションの姿勢を取っていた。

2010-12-15 14:47:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

肋骨に受けたダメージは、二人目のニンジャのアンブッシュ攻撃だ。ブラックバードと名乗ったそのニンジャは、攻撃を成功させてから、わずか15秒しか生きられなかったのであるが……。

2010-12-15 14:57:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

目当てのものは既にナンシーへ送信してある。いずれ解析の結果が届くだろう。明日か。明後日か。そのときをラオモトの命日とする。今は一切の無駄な動きを廃し、体細胞を一つでも多く回復する事だ。

2010-12-15 15:01:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドは己の中の邪悪なニンジャソウルの意思力を常に知覚している。かつてはそのニンジャソウルの為すがままであった。ドラゴン・ゲンドーソー=センセイのファイナル・インストラクションを経たフジキドは、徐々に、ニンジャソウルの力を引き出し己のコントロール下に置く術を身につけていった。

2010-12-15 15:11:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それはしかし不安と不快を伴う成長であった。正体不明の邪悪なニンジャソウルを己の支配下に置くほどに、フジキドは人から離れ、ニンジャスレイヤーという別個の生き物になりつつあるのかもしれない。獣に堕すれば復讐ならず。高潔な精神を保つのだ。フジキドは「平常心」のショドーを凝視する。

2010-12-15 15:17:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドのニンジャ聴覚は、当然、壁を隔てた807号室で今まさに行われているマッポーの暴力の行使を、余すことなく聞き取っている。しかし、フジキド--ニンジャスレイヤーには、そこへ関わっていく理由など何一つ存在しないのだ。

2010-12-15 15:23:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

情にサスマタを突き刺せば、メイルストロームへ流される。平安時代の武人にして哲学者、ミヤモト・マサシのコトワザが、ニンジャスレイヤーの胸中に去来した。

2010-12-15 15:36:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アガタが宅配チェーン「奉公・良い」にスシとサケを震え声で注文するのを、ダイゴは三白眼で口を開けて睨みつけていた。「今度から、命令されたらさっさとやれよ、な?」「ハイ……」アガタは呻いた。背中を蹴られ、顔も何度か殴られた。ひどい顔をしているに違いない。

2010-12-15 19:08:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なんだよ、文句あンのか?」「イ、イイエ、ありません」アガタは力いっぱい否定した。「じゃあ、今から俺たちが暮らすうえでのルールを作るからな。お前が家から出ずにスムーズに仕事ができるようにな。ここだ、ここに、紙に書いて貼って置こうな、ルールを。早く筆を持ってこい」

2010-12-15 19:13:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アガタは足をすくませた。震えてしまって力が入らない。「ザッケンナコラー!」ダイゴが即座に激昂した。平手で頬をはたかれ、アガタは倒れこんだ。髪をつかまれる。「筆を持ってこい!筆を!」「アイエエエエ、や、ヤメテ……」ダイゴは笑い出した。

2010-12-15 19:17:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「早く筆とインク……そうだ、おい、インクでお前の額にイレズミしてやる、そうすりゃ二度と逃げる気も起こらねえだろうな!インクを持ってこい!」「アイエエエエ!」ナムアミダブツ!

2010-12-15 19:20:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ブザーが鳴った。ダイゴは舌打ちし、アガタの背中を突き飛ばした。「宅配か?早いじゃねえか、エエッ?」ブザーが繰り返し鳴らされる。「どちらさんで!」ダイゴは怒鳴った。

2010-12-15 19:25:54