~妖怪ウォッチSS~くれは舞う風××話・果たされぬ約束【後編】

前編→http://togetter.com/li/819041//本日定休日のため一気に書き上げました。ここまで読んでくれた方の中で「この話の万尾獅子行動力ありすぎじゃね?」と思う人はいるでしょうがキニシナイデネ!(途中に挟んだ動画はイメージBGM
0
みなみ @minarudhia

斜陽が窓から差し込む。沈黙の後、齋藤はサイドテーブルへと身体を動かそうとした。「待った、ひいじいちゃん。俺が開ける」進が引き受け、引き出しを開ける。「包みがあるだろ。写真の下に…」「あった、これだろ」「そうだ。―――秋奈ちゃんや」齋藤は秋奈を近くに呼び、進から受け取った包みを渡す

2015-05-25 14:11:03
みなみ @minarudhia

「・・・?」「お前さんのためになるかわからんが、稲荷様のお守りだ。この町の小さなお稲荷様にあった、おキツネ様のお守り」秋奈は包みを開ける。中には、素朴な造りのお守り袋で、かすかに稲荷と書かれた文字の刺繍が見てとれた。「もうお稲荷様はなくなってしまったが、おキツネ様は今もいる」

2015-05-25 14:15:02
みなみ @minarudhia

「おキツネ様、ね…」メラメライオンは腕を組みながら何かを思いふけっている。「お前ならきっと、おキツネ様も守ってくれるはずだ」「ありがとうございます」面会時間の終わりを知らせに看護師が来たところで、その日の会話はお開きとなった。病室を出て階段を下りた先、秋奈達は進に引き止められた。

2015-05-25 14:19:16
みなみ @minarudhia

「ええと……ひいじいちゃんのこと、だけどさ」進は物言いたげにした。「ああ見えて結構周りの親戚から変わり者扱いされてんだ。うちのおやじとかなかなか見舞いに行かなくてさ、ちょっと安心したよ」「それは良かった」万尾獅子が頷くと、進が彼の方を向いた。「それにしても、あんたが獅子まるか…」

2015-05-25 14:22:02
みなみ @minarudhia

「ああ」「俺、ひいじいちゃんから話聞いて、そんなに頼りげない妖怪なのかと思ってたんだ。けど初めて会ってみて、結構カッコいいんだなってさ」進の声に万尾獅子は苦笑した。「万尾獅子さん、進君、私たちはこれで」「ああ」「ありがとう!…でさ、」進は秋奈達の後ろ姿に手を振り続けた。

2015-05-25 14:25:50
みなみ @minarudhia

「ひいじいちゃんがあんたとの約束を守るの無理そうだって、わかっちまったのはどうするんだ?」「ふむ…」「俺、今剣道部入ってるんだ。ひいじいちゃんの居合とはちょっと違うけど、強くなりたくて」万尾獅子は進の小さな背中を見た。「ひいじいちゃんの代わりに俺じゃ、だめか?」「君が?」「うん」

2015-05-25 14:32:08
みなみ @minarudhia

万尾獅子は進の目を見る。進もその目を見返す。二人の間にしばし時が流れたが、やがて万尾獅子は頷いた。「ほんとに!?」「ああ、時に俺がインストラクションを授けてやっていい。君が彼に近づくその時まで、満を持して」「よし!!」ガッツポーズをする進を見て、万尾獅子は一人思う。

2015-05-25 14:37:20
みなみ @minarudhia

妖怪にも寿命はあるが、人間に比べればはるかに長い。そして、人間の一生など、あっという間だから。

2015-05-25 14:38:26
みなみ @minarudhia

トゥルルルルルル……ピルルルルルル……… 「坂口さん、社長がお呼びです」「えっ?」面会から一週間後、勤務中の秋奈に声をかけてきたのは専務だった。「私に…ですか?」「至急、社長室へおいで下さい」「わかりました」秋奈がメラメライオンに目配せする。メラメライオンはコーヒーを飲みほした。

2015-05-25 14:46:20
みなみ @minarudhia

「社長が私に用って……こないだの発注ミスのことかしら…」「あれは確か部長さんのチェック漏れだとか言ってなかったカ?」「そうだけど」メラメライオンと共に一つ上の階へ来た秋奈を秘書が出迎える。妙齢のにこやかな女性だ。「坂口さん、社長がお待ちです」「…はい」秘書がドアをノックした。

2015-05-25 14:49:59
みなみ @minarudhia

「社長、坂口さんがお見えになりました」「通すんじゃ」「通したまえ」間に入った声に秋奈とメラメライオンは顔を見合す。中に入ると、60代の緩んだ身体にスーツを纏った社長と、しきるん蛇がいた。「しきるん蛇さん!?」「まあ、待ちなさい坂口さん」しきるん蛇が言い、社長へ向き直る。

2015-05-25 14:54:03
みなみ @minarudhia

「社長、電話はまだ繋がっておるんじゃな?」「もちろんですよ」「社長、しきるん蛇さんが見えるのですか?」驚く秋奈にしきるん蛇が答えた。「この男はわしの姿と声がおぼろげに聞こえる程度じゃ。じゃが、そうでもなければ、会社内の妖怪への対応がしづらいのでな」電話の子機が秋奈に渡された。

2015-05-25 14:56:32
みなみ @minarudhia

「……もしもし?」『俺だ、秋奈さん』「万尾獅子さん!?」受話器から声を聞くや秋奈が声を張り上げた。「知り合いの妖怪じゃったか」「ああ。…って、まさかそのためにわざわざ社長室まで呼んだのか?」メラメライオンとしきるん蛇のやりとりと一人デスクに戻る社長を前に、秋奈は会話を続けた。

2015-05-25 15:00:26
みなみ @minarudhia

「一体、どうしたんです?」『聞いてほしい。……サイトウさんが……』亡くなられた。そう告げた万尾獅子の声がワントーン低くなった。「……そうですか……」『今朝、俺が様子を見に病室へ入った時にはもう、息をしていなかった』万尾獅子の溜息が聞こえた。「これからご家族はいらっしゃるの?」

2015-05-25 15:03:33
みなみ @minarudhia

『先程、進君と彼のご両親、それとサイトウさんの次男が来た』万尾獅子は続けた。『しばらく話は葬式や墓地、遺産の相談になるだろうから、通夜や告別式の詳細を聞き次第連絡しよう。実は、この連絡先もさむガリ君にかけてもらったのだ』「今、うちに?」『少しの間世話になる』「わかりました」

2015-05-25 15:08:09
みなみ @minarudhia

Ninja Slayer - 21. Swansong - OST youtu.be/OsOI-aIA9uo @YouTubeさんから

2015-05-25 15:25:52
拡大
みなみ @minarudhia

告別式――― さくらニュータウンから一つ離れた街にある斎場で式は行われた。読経の間は共に来ていた万尾獅子とメラメライオンに式場から離れて待機してもらった。久々に袖を通した礼服姿で、秋奈は一般用の席に腰を下ろしていた。読経の間から、かすかな啜り泣きや親族の小さな子の泣き声が聞こえる

2015-05-25 15:28:14
みなみ @minarudhia

…思えば、葬式に参じたのはこれで三度目だ。一度目は母が亡くなった時だ。まだ幼稚園に入る前のことであまり記憶にない。禅納和尚の時は、出る選択肢すら浮かばなかった。親族の席に目をやると、皆一様に黙して正面を見ていた。ただ、正面を見ていた。進だけが静かに頭を垂れている。

2015-05-25 15:32:51
みなみ @minarudhia

読経からの流れで形だけのスピーチと弔電が終わり、今一度棺が開けられる。いよいよ出棺の時だ。秋奈は一度するりと抜けだし、万尾獅子を呼んで戻る。棺の中に写真・花束・ぬいぐるみが入れられる中、万尾獅子は己の懐に腕を差し入れたと思うと、取り出したものを齋藤の頭の脇へ置いた。

2015-05-25 15:37:38
みなみ @minarudhia

「万尾獅子さん、今の…」秋奈が小声で呼びかける。「最後の別れだ。彼の元に届くなら、それでいい」万尾獅子は言いながら、棺が閉じられるのを見やる。斎場にはワンフロア離れた所に火葬用の焼却炉がある。棺がそこへ運ばれていく間、ついに大声でむせび泣く者が出た。万尾獅子はただ黙するだけだ。

2015-05-25 15:41:15
みなみ @minarudhia

棺の中へ万尾獅子が入れたもの―――それは、獅子まるだった頃の妖怪メダルだった。それだと燃え残ると思うのだが…そう思う秋奈の心配をよそに、火葬の準備は最終段階へ入る。棺が厳かに焼却炉の扉の向こうへ消える。老師が読経を行う間、参加者は一様に黙祷、そして秋奈は扉の向こうから音を聞いた。

2015-05-25 15:45:21
みなみ @minarudhia

ゴー……という音。それが別れを告げる音なのだなと、秋奈はぼんやり考えていた。セレモニーの司会を担う女性が、予定として昼食の旨を告げ、再び斎場内を移動した。

2015-05-25 15:49:03
みなみ @minarudhia

まもなく一人待機していたメラメライオンも斎場内に入って来た。一瞬、老師がメラメライオンを怪訝そうな表情で振り返るものの、秋奈のそばへ行く彼を見て肩をすくめた。「トカクレの時といい、どうも坊さんがいると落ち着かないナ」「仕方ないわよ…それに、お呼びした老師様、信頼できる方だし…」

2015-05-25 15:54:16