【第四部-十】その先にあるものを夢見て #見つめる時雨

時雨×龍鳳
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龍鳳視点

とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

彼女の部屋の前に立つ。消灯を迎えた寮の廊下は月明かりのみが光源となり、薄暗い。先程まで駆逐艦のコ達がとたとたと可愛らしい足音を立てながら其々の部屋へと入っていく姿が見られたが、今は静まりかえっていた。

2015-05-24 00:35:29
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

指で自分の髪を弄る。シャンプーのおかげか、我ながらサラサラ。その場でくるくると指を回すと、私の髪は柔らかく巻き付いてきて、そして滑るように落ちた。…ああ、落ち着かない。でも、この気持ちが、どこか心地いい。

2015-05-24 00:37:08
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

軽く拳をつくり、こん、と小さく扉を叩く。中のひとには伝わるように。でも周りには気づかれないように。…少しして、ドアノブがゆっくりと回転し、扉が開いた。 「…こんばんは、龍鳳」 息を潜めた時雨の声に、少し色気を感じた。

2015-05-24 00:38:50
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

夕立ちゃんはいない。彼女は日を跨いでの遠征に出ていた。私は部屋の中へと招かれると、中央にあった小さなテーブルの傍に腰を下ろした。その上にはマグカップがひとつ。私は持ってきた鞄の中から同じくマグカップを取り出し、テーブルの上に置いた。今夜は、私と時雨の寝る前のプチお茶会。

2015-05-24 00:41:27
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私は水筒の蓋を空け、時雨のマグカップに中身を注いだ。入っていたのは、温かい紅茶。たちまち、部屋の中に良い香りが広がっていく。時雨はお気に召したのか、目を瞑り大きく息を吸い込み、その優しい香りに浸っていた。

2015-05-24 00:42:55
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「いい香りだね」 「でしょ? 私のお気に入りなの」 「柔らかくて、優しい香り。まるで、龍鳳みたい」 …その言葉は私に向けられたにしては小さく、その後の私の反応を伺う様子もない。ただ、彼女から零れただけの言葉に見えた。だから尚更、私の顔は熱くなっていった。

2015-05-24 00:44:12
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

努めて自然に時雨の隣へと移動する。…うん、自然に、自然に…。時雨の方へこっそり視線を向けると、彼女はくすくすと小さく笑っていた。…失敗。 「もっと近くにおいでよ」 時雨が手で優しく床を叩く。

2015-05-24 00:45:32
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

時雨と肩が触れる。華奢な、でも柔らかい時雨の肩。彼女の息遣いが、そこから伝わってきた。…穏やかに微笑む彼女は、もう私の心の内を知っている。その上で、優しく傍に置いてくれる。穏やかな笑顔をくれる。私は彼女の優しさに甘える形で、彼女の隣にいる。

2015-05-24 00:46:58
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「私、応援するよ。時雨の、山城さんへの気持ち」 それを言葉にしたのは少し前。時雨はその時まで山城さんにどこか遠慮気味だった。大好きなひとのはずなのに、自分から近づこうとしなかった。…でも、それは違った。遠慮していたのは山城さんにじゃない。私にだった。

2015-05-24 00:48:52
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

時雨はとても優しいコ。優しすぎて、私に気を遣うあまり、また自分の気持ちを脇に置いてしまっていた。私は時雨にこんな風になって欲しかったのだろうか。ううん、きっと…違う。時雨には、自分の気持ちに素直になって欲しい。そして、笑顔でいて欲しい。心からの、笑顔に。

2015-05-24 00:50:07
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私が出来ること。それは今度こそ彼女の枷を外してあげること。でもね、諦めるってことじゃないよ。私は、この海の戦いはいつか終わると信じてる。その先の世界で、きっと山城さんは扶桑さんに付いていく。時雨は追うことはないと思う。納得して、山城さんを見送る。そこで私は、時雨の手を取るの。

2015-05-24 00:51:53
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

その時が訪れたら時雨が私の手を握り返してくれるように、私は時雨を求め続ける。でも、今は時雨が山城さんに素直になれるように、背中を押してあげたい。時々寂しそうにしていたら、私が癒してあげたい。こうして傍にいることで。言葉で。料理で。

2015-05-24 00:53:34
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

こういうの、親友以上、恋人未満っていうのかな。ううん、それとも違うような。私達の間にある空気は、親愛のそれとは少し違う気がした。…それは私の願望なのかもしれないけれど。でも、多分、私が求めたら、時雨はまた受け止めてくれる、そんな…。

2015-05-24 00:58:08
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私よりも少し小柄な時雨。私が少し伏せた視線を向ければ、少し肌蹴た寝間着から、時雨の綺麗な鎖骨が目に映る。私はあの感触を知っている。…味も。…ああ、変な事考えちゃ駄目です。駄目ですってば…私…。

2015-05-24 01:01:33
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…って、あれ? 私の肩に、ほんの少しの体重がかかってきた。 「時雨…?」 僅かに船を漕いでいる、彼女の頭。その瞳は、とても眠たそうだった。 「…あら。…ふふ、お疲れさま、時雨」 私はまだ彼女の手に握られていたマグカップをそっと取り、テーブルの上に置いた。

2015-05-24 01:04:53
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…こんなに無防備でいいのかな? 私が時雨をそういう目で見てるって、貴女はもう十分に知ってるはずなのに。この前だって、私、時雨のこと襲っちゃったんだよ? もう…。…でも、それだけ安心してもらえてるんだよね。それは、とても嬉しいこと。

2015-05-24 01:06:51
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

時雨の頬を撫でる。…山城さんへのことは応援するって言ったけれど、それは時雨の瞳が開いている時だけ、っていう自分ルール。…時雨は知ってる? 今日ね、キスの日だったんだよ。私は心の中で時雨に言う。夢の世界へと進みかけている、彼女を起こさないように。

2015-05-24 01:09:03
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…ふ」 …時雨と唇を重ねることに躊躇いはあまりなかった。もう私の全ては時雨に知られているから。でも、時雨が目を閉じている時にしたのは、これからは気兼ねなく山城さんに向き合って欲しかったからだった。

2015-05-24 01:11:25
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…唇を離す。紅茶の味と、時雨自身の味が、私の舌を満たしてくれた。…私は何食わぬ顔で時雨の肩を擦り、向こうの世界から連れ戻す。時雨の瞳に私が映った。 「…龍鳳」 「寝る前に歯を磨かないと、ね」 …私はキスをしている間に時雨の呼吸が一瞬乱れたことに、そのまま気づかない振りをした――

2015-05-24 01:21:41

***

誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

僕が抱いたこの想いの花はこれから先も決して実を結ぶことはない。それがわかっていても、僕は彼女が本当に結ばれるその時まで、きっとこのままなんだろう。…ねぇ、龍鳳。キミはその時が来るまで、僕の隣にいてくれるのかな。

2015-06-06 19:43:03
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私が抱いたこの想いは、彼女があのひとを見つめてる限り交わることはない。でも、いつか彼女は私の方を振り向いてくれると信じてる。彼女はとても優しくて、あのひとの幸せを誰よりも願っているから。だから私は貴女の隣にいます。いさせてください。その時が来るまで。そして、それから先も、ずっと。

2015-06-06 19:54:52
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私、龍鳳は時雨が今までどんな女性関係を結んできたか、これから結んでいくのか、そんなことは気にしません。きっとその時々に理由があって、彼女は優しさ故にそれを受け入れてしまうこともあるでしょうから。ただ、最後に私の手の届くところにいてくれれば…それだけは、わがまま言わせてください。

2015-06-07 21:24:27
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

時雨ってね、すごい気持ちいいんです。柔らかくて、温かく包んでくれて。命をかけて戦う私達艦娘には、そんな優しさが必要なんです。彼女を必要とするコは、これからも出てくると思います。彼女には、それを包み込める優しさがあるから。だから、自分だけだなんて願いは、私はもってはいけないんです

2015-06-07 21:53:21