ある狗のぼやき

#銀チェス のプライベートリアクションです。 作者:バルバロッサ・ソネンベルク
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クリフ @bottikurihu

1、 残存艦艇を纏めてオーディンへ向かう途上。 ソネンベルクは無感情に艦橋から宇宙の深遠を見つめていた。 「兄貴、どうしたんで?」 「提督って呼べっつってるだろうが」 #銀チェスプラリア

2015-05-13 23:54:16
クリフ @bottikurihu

2、 海賊時代からの弟分である副官を叱る。 艦橋の人員は全て昔からの部下ばかりだが、その様はまるで宇宙海賊だ。 帝国軍の風紀などあったものではない。 #銀チェスプラリア

2015-05-13 23:54:27
クリフ @bottikurihu

3、 副官を下がらせると、ソネンベルクは黙って右手を見下ろした。 ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ。 かつての上官を撃ち殺した手は、未だ僅かに震えていた。 #銀チェスプラリア

2015-05-13 23:54:58
クリフ @bottikurihu

4、 「童貞のガキじゃあるまいし」 ソネンベルクは吐き捨てるように言う。 彼が11歳の頃、初めて人を刺した時も、こうして震えが止まらなかった。 #銀チェスプラリア

2015-05-13 23:55:50
クリフ @bottikurihu

5、 その時以来、無数の人間を直接、あるいは間接的に殺してきた。 女子供、平民に貴族、ありとあらゆる人種を。 いつの間にか震えは消えていたはずだった。 あの老提督を撃ち抜くまでは。 #銀チェスプラリア

2015-05-13 23:56:18
クリフ @bottikurihu

6、 震えの原因は―― 帝国最高の宿将。それをこの手で殺った事か。 汚名と栄光。恐怖と怨嗟。 路地裏の狗に過ぎない彼に、いまや全帝国のあらゆる負の感情がぶつけられている。 #銀チェスプラリア

2015-05-13 23:56:54
クリフ @bottikurihu

7、 一夜にしてソネンベルクは、歴史の舞台に踊り出た。 名も無き端役が、海賊あがりの走狗が、ついに血塗れの栄光を掴み取った。 その興奮が、彼の右手を震わせるのか―― ――否。 #銀チェスプラリア

2015-05-13 23:57:32
クリフ @bottikurihu

8、 違う。 何かが違う。 オフレッサーの下で生死の境を走りぬけた結果、研ぎ澄まされた生存本能が告げる。 これは恐怖だ、と。 #銀チェスプラリア

2015-05-13 23:58:16
クリフ @bottikurihu

9、 「兄貴、モニターを!」 副官を叱るのも忘れ、ソネンベルクはモニターに目を奪われる。 そこに居たのは、彼がこの世に解き放った怪物。 グレゴール・フォン・シュライヒャー。 #銀チェスプラリア

2015-05-13 23:59:49
クリフ @bottikurihu

10、 「世に理を取り戻さんとするものは続け!」 かつてリヒテンラーデ候から見せられた資料に、彼、シュライヒャーの姿もあった。 違う。まるで違う。 悪鬼だ。銀河の全てをその才能で飲み干さんとする悪鬼が、彼を仇と付け狙っているのだ。 #銀チェスプラリア

2015-05-14 00:01:01
クリフ @bottikurihu

11、 「――つくづく運が巡ってこねぇな、俺は」 ソネンベルクは自嘲する。 栄光の代償は高くついた。 彼は歴史の表舞台で、あの悪鬼と対峙する事になるだろう。 #銀チェスプラリア

2015-05-14 00:01:49
クリフ @bottikurihu

12、 「――やってやるよ、もう戻る道なんざねぇ」 もとより迷う事すら許されない。 狗には狗としての生しか許されていないのだから。 ――右手の震えは、いつの間にかおさまっていた。 #銀チェスプラリア

2015-05-14 00:03:02