『"夢の果てに" ~赤き守護戦士の場合~』
「嗚呼…ライナスさま。お逢いしとう御座いました…」 「……フランソワ。私も…逢いたかった」 あまりに醜い、その場限りの嘘。 この老婦人は今、俺越しに死に別れた夫の幻影を見ていた。 老いて痩せ細った躯を抱き寄せる。 ―――たとえ泡沫でも、その願いにはきっと意味がある筈だから。
2015-02-08 22:00:46フランソワ女史が逝去したと聞かされたのはそれからしばらく後のことだった。 元々長くはないと宣告されてはいたが……最期の瞬間はとても安らかな死に顔だったという。 広場のベンチに腰掛け、空を仰ぐ。 正直に言えば、やりきれない気持ちは確かにあった。 俺の選択は果たして正しかったのか。
2015-02-08 22:13:57件の依頼を一緒にこなした召喚術師が隣に腰掛けてくる。 「……ザインか」 「なんだ、君らしくないじゃないか。伊達くん」 「るせえ」 俺だってナーバスになる時くらいある。 今は、この胸に去来した複雑な感情を飲み下すのに、少しでも時間が欲しかったのだ。
2015-02-08 22:21:37@Dateryu 「大地人・・・いや 人が死ぬのは そしてそれを悲しむことができる本来自然なことだと私は思う その上で言うよ 君の選択は誇らしものであったと」
2015-02-08 22:25:41「……」 ザインの言葉に再び、空を仰ぐ。 気がつけばアキバの街の茜色に染まっており、気の早い術者たちがマジックライトの明かりを灯しはじめていた。 冒険から戻って休む者、こぞって屋台を出す者、家族とともに帰路を急ぐ者。 街の風景はいつもと変わらない。
2015-02-08 22:35:09「…ありがとな。少し楽になった」 「おや残念だ。君を元気づけようと新薬を持ってきたのだが無駄になってしまったようだ。いや、これがなかなかの自信作でね?」 「いや、それは全力で遠慮しとく」 重かった腰を持ち上げる。 街の雑踏に歩みだした俺の頬を一陣の風が撫でていく。
2015-02-08 22:48:01「夢の果てに……か」 「どうしたのだね?まさかまだ調子が……」 「いや、なんでもねぇよ」 試験管を片手に詰め寄るザインをよそに歩いてゆく。 たとえ夢幻だったとしても、彼女の嬉しそうな顔は本物だった。 そう信じて進むしかない。 ―――アキバの風はいつもより少しだけ、優しかった。
2015-02-08 23:03:48