あきつ天龍帝都奇譚 第一幕 その三

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あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

【前回までのあらすじ】 吹雪より依頼された"猫探し"の為、あきと天龍一行は日比谷公園へと向かった。 そこでなんとも呆気なく猫を保護した二人に、謎の人物が襲いかかる。 銃を突きつけられ、一巻の終わりかと思われた矢先、もう一人の人物が現れ……。

2015-04-10 22:05:20
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

……。 「はぁ、なるほどな。それはすまないことをした」 「御無礼申し上げる……」 「いえ、こちらもであります」 「まさか目的が同じだったなんてなぁ」 一触即発の雰囲気より数分後、あきと天龍は青年と男を隣に、噴水近くのベンチに腰を下ろしていた。

2015-04-10 22:11:09
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「いきなり銃を抜いたのは早計であった。 重ねて謝罪する」 「クレッセンを保護してくれていたとは。 感謝いたす」 「おっさんの方は早とちりだな。 俺たちが相手じゃなきゃ、今頃酷いことになってるぜ」 「天龍殿、やる気満々でありましたよね?」 「ははは」

2015-04-10 22:15:17
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

……さて、事のあらましと、青年と男の人相について述べるとしよう。 少し古風な喋り方、目の細い和装姿の青年の名は"眉月(まゆづき)"。 職業は不明だが、その服装や立ち振る舞いを見るに、どこか上流階級の人物めいたものを感じ取れる。 飼い猫と男とともに、この公園を訪れたとのこと。

2015-04-10 22:19:34
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

固い口調、三つ揃いの男の名は"山田"。 退役軍人とのことだ。 彼は眉月青年に付き添ってこの公園を訪れていたが、急にいなくなった猫を青年の要請で探していた。 そこで、あきと天龍を見かけて凶行に走りかけたようだが……いささか、必死になりすぎだと自戒しているようだ。

2015-04-10 22:25:15
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

そして、今回の依頼対象でもある猫。 特徴は吹雪の言っていた通り、全身が真っ黒な体毛で覆われており、左目の周りだけ白い。 この猫で間違いない、ないのだが……。 少し、事情が込み入ってきていた。

2015-04-10 22:27:57
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「大事に至らず良かった。 クレッセン……あぁ、こやつの名だ。 見つかって助かった。 ははは」 「眉月さんって言ったか。 その猫、そんなに随分と大事なのか?」 「もちろん。 我が愛猫だよ」 「だとさ、あきつ丸」 「むぅ……」 「(入る隙が、無い……)」

2015-04-10 22:33:08
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

眉月青年は猫、クレッセンを撫でつつ答えた。 その手つきは優しく、普段より丁重に扱っているのが容易に想像できた。 対してあきの方は、苦い表情を浮かばせていた。 猫の飼い主たる吹雪の依頼かと思いきや、この眉月と名乗る青年がそうだと言っているからだ。

2015-04-10 22:35:45
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

(どうしたものでありますかね……) あきは迷っている。 吹雪の名を出して猫をなんとか引き取る。 無理だ。 このまま青年らと別れ、後日、吹雪に今回の件について話す。 依頼を引き受けている以上、それもままならない。

2015-04-10 22:41:08
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「……天龍殿」 「どうした、あきつ丸」 「伝えた方がいいのでありましょうか。 その、自分たちも猫を探していたと」 「さぁね。 任せるよ」 「天龍殿っ!」 「お二方、どうされたのかな。 クレッセンに興味がお有りか?」 「その事なのでありますが……」 考えた後、話すことにした。

2015-04-10 22:48:58
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

話したのはもちろん依頼のことだ。 ただし、吹雪の名は伏せて。 「ふむ、つまりクレッセンを探すように頼まれたと」 「で、あります」 「参った、これはオレの飼っている猫だ。 人に渡す訳にはいかないのだ」 「そこをどうにか……無理でありますね」 「うむ」

2015-04-10 22:55:16
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

場に嫌な空気が流れ、途端に無言になってしまった。 あきは八方塞がり、眉月青年にとっては急にたかられたようなもの。 当然である。 ……そんな空気を破ったのは、両者でも、先ほどから黙っている退役軍人の山田でもなく、やはりと言うべきか天龍だった。 「今日は帰ろうぜ、あきつ丸」

2015-04-10 23:00:37
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「天龍殿、いくらなんでもそれは……!」 どうにもならないと踏んだ天龍の提案だったが、あきもそう安々とは受け入れられない。 彼女にも誇りはある。当然、反発した。 「今日はこの辺りで帰ろう。 眉月さんも、そっちのおっさんにも悪い」 「しかし依頼は!」 「今日は、駄目だ」

2015-04-10 23:04:55
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「すまねぇな、眉月さん。 あと、おっさん。 迷惑かけた」 「いや、気にせずとも」 「天龍殿っ!」 「じゃあ今日はこれで。 今度は、はぐれたりすんなよ」 「心得た。 またいつか会おう」 「あいよ。 ほら、帰るぞあき」 不満げなあきを引きずりつつ、天龍たちはその場を後にした。

2015-04-10 23:10:06
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

そして、眉月青年とおっさん……退役軍人の山田が取り残された。 「さて、愉快なお嬢さん方だったな」 「お嬢さん方……? 片方は男子では?」 「いや、両方ともおなごだよ。 詰襟の彼女は、随分上手く男装をしていた」 「気付きませんでした……」 「うっかり屋だな、貴方は。 ははは」

2015-04-10 23:13:18
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「しかし、奇妙なこともあるものだ。 オレの飼い猫を探す他人がいるとは」 「どうなされますか?」 「いや、今は大丈夫であろう。 恐らく、彼女らとはまた会うことになる」 「はぁ……?」 「もしや、探していたのはあの娘かもしれぬ」 「娘?」 「さて、名前は何と言ったか……ああ、確か」

2015-04-10 23:15:46
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「吹雪。 確か、そう名乗っていた気がするよ」

2015-04-10 23:16:28
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

日比谷公園を後にしたあきと天龍は、近くの停留所で帰りの市電を待っていた。 先ほど無理やり引き剥がされたせいか、あきは立腹している。 「天龍殿、もう少しやり方というものが……」 「あれ以上話して何になる?」 「しかし……!」 一方、天龍はやけに落ち着いてた。

2015-04-10 23:20:17
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

話を切り上げたものの、彼女も少し引っかかることがあるようだ。 近くを通る酔っぱらいも避けて通るほど、天龍は唸っていた。 そんな姿を見たせいか、あきも少し落ち着きを取り戻していた。 「……天龍殿も、やはり腑に落ちない事があるのでありますか?」 「まぁ、な」

2015-04-10 23:24:23
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「しかし、何やら一段と難しい話になってきているであります。 吹雪殿にどう話せばいいのか……」 「……それだ、あきつ丸」 「と、言いますと?」 「明日、神田の小川町……神保町に行こう。 吹雪ちゃんに聞きたいことが山ほどある」 「報告ではなく、聞く……確かに、おかしな点はありますが」

2015-04-10 23:27:18
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「それに、あそこには優秀な情報屋がいるしな」 「ああ、もしやあの人でありますか?」 「何だ、嫌なのか?」 「少し苦手であります……」 「安心しろ、俺もだ」 「天龍殿もでありますか?」 「まぁ、あの手の輩はだいたいあんな性格だぜ? あんまり気にすんな」 「はぁ……」

2015-04-10 23:29:49
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「お、汽車が来たぜ。 早いとこ帰って、明日に備えねぇとな」 「うぅ、揺れる乗り物は苦手であります……」 「なんならおぶってやろうか?」 「そ、それは幾ら何でも恥ずかしいであります!」 「じゃ、素直に乗れ」 「……ぐっ」 「ようは慣れだ、慣れ」

2015-04-10 23:33:31
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「……うわ、満員だな」 「天龍殿、歩いて帰るであります!」 「おいおい、こっから日本橋までか? 夜中になっちまうぜ?」 「そっちの方がまだマシであります!」 「よし分かった。 じゃ帰りにタイ焼き奢ってくれ」 「……もちろんであります」 「へへっ、やりぃ」

2015-04-10 23:36:25