- akitsutenryu
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【前回までのあらすじ】 猫探しの依頼人である吹雪に会う為、神田神保町にある惣菜屋へと赴いたあきと天龍。 しかし、肝心の店は閉まっていた。 このまま帰る訳にも行かぬ二人は、同町に住む情報屋である書店の主"平沼青葉"の元を訪れた。 が、何とその場へ吹雪も現れ……。
2015-05-03 22:05:03「……まさかこんな所でお二人に会うなんて、思いもしませんでした」 「自分もであります」 「偶然ってのはあるもんなんだな」 「まさか貴方たちが吹雪ちゃんと知り合いだったとは」
2015-05-03 22:11:01今日は無理だと思っていた吹雪に会えたあきと天龍は幸運だったと言えよう。 なぜ吹雪は書店の沼屋を訪れたのか? それは青葉から弁当を届けるようにあらかじめ頼まれていたからだ。 吹雪の実家である惣菜屋は、常連向けにこうして弁当の配達も時々行っているのである。
2015-05-03 22:16:12「実はちょうど吹雪殿の家に伺おうとしていた所なのであります」 「閉まってて駄目だったけどな」 「あぁ、ごめんなさい。 今日は少しお休みしてて」 「なんだ、休業日だったのか?」 「昨日母が風邪を引いて、それで……」 「それは……」 「おいおい、一人にして大丈夫なのか?」
2015-05-03 22:28:20「いえ、熱はもうすっかり治まってます。 今日は大事を取ってお休みにしてるんですよ」 「でしたら、大丈夫そうでありますね」 「あの人は無茶しがちですから心配ですねぇ……むしゃむしゃ」 「青葉殿、のんきに弁当を食べながらだと、あまり心配してそうに見えないであります」
2015-05-03 22:31:15「お腹空いてるんです、仕方ないでしょう? むぐむぐ」 「お、そのコロッケ美味そうだな……。 俺にも一口寄越せ」 「ちょっと、これは青葉の頼んだやつで……あ、勝手に取るなぁ!」 「うん、美味い」 「二人とも、騒がしいでありますよ」 「あはは……」
2015-05-03 22:39:01青葉と天龍のくだらない争いを見ながら、またかとあきは思った。 この二人は会う度に何かしら喧嘩をしている。 大体は天龍が原因だが、仲裁に入ったせいで自分も巻き込まれた経験があるので、あきは無視することにした。 そして、そういえば吹雪に聞きたいことがあったのだと思い出した。
2015-05-03 22:44:14「吹雪殿、まだお時間はあるでありますか? 話をしたいのです」 「はい、大丈夫です」 「先日の依頼の件で少々。 進展があったのであります」 「あ……えっと、ど、どうなりましたか?」 「猫は無事に見つかったであります」 「……良かった」
2015-05-03 22:52:14吹雪はあきの報告を聞き、胸を撫で下ろして安堵の表情を浮かべた。 探していた者が見つかったからだろう。 しかし、あきの表情は吹雪とは反対にいぶかしげで、考え込むような仕草も合わさっている。 あきはズレていた帽子を直しながら続ける。
2015-05-03 22:58:03「見つかりはしたのですが……少し混み入った事情が発生したのであります」 「と、言うと?」 「猫の飼い主を名乗る人物がもう一人現れたのであります」 「……どのようなお方でしたか?」 「眉目秀麗、という言葉が相応しい流し目の似合う和装の男性であります。 名は眉月と名乗っておりました」
2015-05-03 23:07:42「眉月さん……」 「そして、彼こそが間違いなく真の飼い主だとのことでありました」 「……」 「これは一体、どういうことなのでありましょうな」
2015-05-03 23:09:42眉月の名前が出た途端、吹雪は急に押し黙ってしまった。 視線を合わせようとしたあきから、目を逸らす。 その姿をあきはじっと見つめた。 それでも吹雪からの返答は無い。
2015-05-03 23:14:07「……吹雪殿、もしや自分たちに何か隠し事をしているのではありませんか?」 「……」 「教えて欲しいであります」 「……」 「吹雪殿」 「……」 「……吹雪殿っ!」 「ちょ、ちょっとあきつ丸さん?」 「青葉殿は黙っておいて頂きたい」 「う、えっと……はい」
2015-05-03 23:20:41あきは黙っている吹雪に問い続ける。 僅かだが次第に強くなっていく語気に嫌な気配を感じ、流石の青葉も止めようとしたが、凄みに負けて引っ込んでしまった。 あきの眼光は、鉄をも貫かんとする銃弾そのものだ。 対する天龍はというと、あきの方を窺いつつ弁当のつまみ食いを続けていた。
2015-05-03 23:26:11「吹雪殿、どうなのでありますか?」 「……いつか、お話しなくてはならないと思っていました」 「なるほど、やはり嘘でありましたか」 「それは……」 「おいあきつ丸、いい加減にしろ」 「天龍殿」
2015-05-03 23:32:07「吹雪ちゃんにも何か事情があって、それでずっと隠していたんじゃないのか?」 「しかし、この後に及んで何を隠すのでありますか?」 「知らん。 でも、それを言うか言わないかは吹雪ちゃんが決めることだ。 俺たちが決めることじゃない」 「……そうでありますね」
2015-05-03 23:41:01「しかしだ、俺も聞きたいことはある。 なぁ吹雪ちゃん、良かったらでいい。 話してくれないか?」 「その……」 「無理にとは言わないさ」 「……分かりました、お話します」 「ありがとう。 さて、その前に弁当の残りを食わねぇとな」 「だから! それは! 青葉のやつですっ!」
2015-05-03 23:50:00「ほい、ごっそさん。 さて、話を聞こうか」 「半分も食べましたね貴方!? どうしてくれるんですか!」 「まぁいいじゃねぇか」 「ちょっと天龍さん!?」 「えっと……」 「……お話、伺ってもよろしいでしょうか?」 「は、はい」
2015-05-03 23:54:38「……では、今日はこれにて失礼するであります」 「邪魔したな。 弁当、美味かったぜ」 「今度来る時は天龍さん抜きでお願いしますね」 「お二人とも、今日は本当にありがとうございました。 そして、ご迷惑をおかけしました……」
2015-05-04 00:06:00吹雪より事情を聞いたあきと天龍は帰宅の途につかんとしていた。 陽はいつの間にやら傾き始めており、通りの人だかりもまばらになってきていた。
2015-05-04 00:07:48