あきつ天龍帝都奇譚 第一幕 その六(終)

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あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

【前回までのあらすじ】 ついに吹雪の依頼の真相を知ったあきと天龍。 それは、青年眉月にもう一度会いたいというものだった。 しかし、吹雪は諦め、自分の代わりにハンカチを返して欲しいとあきに告げ、此度の騒動は幕を閉じた、かに見えた。 それでもあきの方は、まだ諦めていなかったのだ

2015-05-27 21:09:15
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

その日の帝都は冬の寒さを忘れる程に暖かい日だった。 各地で桜が見頃になったのも重なり、花見に行く人々がとても多く見受けられた。 そして、それはこの日比谷公園も例外ではなかった。

2015-05-27 21:16:51
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「見事に満開といったところか。 いや、満開にはまだもう少しかかるか?」

2015-05-27 21:20:30
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

帝都市民の例に洩れず、和装姿の青年眉月宗近もまた、この日比谷公園を訪れていた。 しかし花見の宴会をしに来たという風には見られず、桜が舞い散る中で一人物思いに耽っていた。

2015-05-27 21:22:30
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「桜は良いな。 ……さて、そこにおるのは誰かな?」 「……バレていたでありますか」

2015-05-27 21:25:38
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

はたり振り返り、眉月青年は木陰の方へと声を掛けた。 そこから現れたのは、いつもの服装に身を包んだ津洲あきであった。 そして、バツが悪そうな顔をして挨拶を交わす。

2015-05-27 21:37:41
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「お久しぶりであります」 「やぁ、君は確か……」 「津洲あき、であります」 「うむ、確かそのような名であったな。 再び会えるとは、偶然もあったものだ」 「偶然などではありませんよ」 「ふむ?」 「この一週間、貴方に会おうと通い詰めていたでありますから」

2015-05-27 21:45:36
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「それは……ご苦労であった。 しかしそれ程までに会いたかったとあれば、やはりオレに何か用があるのであろう?」 「その通りであります」

2015-05-27 21:47:08
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

あきは見上げるようにして眉月青年の瞳と顔を覗き込んだ。 曇り一つない切れ目、柔和な笑みを携え表情をしている。 何を聞かれても構わないといった余裕さも見受けられる。 そして宴会で盛り上がる周囲をよそに、異様なまでにここは静まり返っている。 聞くとすれば絶好の場所だろう。

2015-05-27 21:57:21
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「幾つか聞きたいことがありますが、まずはこれを返しておくであります」 「これは?」 「覚えておいででは無いようでありますね? 吹雪という名に聞き覚えは?」 「覚えているぞ。 今月の頭に神田の小川町であった少女のことだな」 「その子にハンケチーフを貸した覚えは?」 「それもある」

2015-05-27 22:03:32
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「その時に貸したはずのハンケチーフがこれであります」 「ふむ、綺麗な純白だな。 これをオレが?」 「ええ。 吹雪殿より返して欲しいと頼まれたのであります」 「……本当にこれを、オレが?」 「貴方以外に誰がいるというのでありますか」 「いや、しかし……」

2015-05-27 22:05:43
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「とぼける気でありますか」 「一つ聞きたい、このハンケチーフに何か模様は描かれていなかったか?」 「模様? いえ、自分が手渡された時からそのようなものは全く」 「ふむ、そうか……」 「眉月殿の物でよろしいでありますね?」 「……うむ、間違いない。 では預かろう。 感謝する」

2015-05-27 22:12:11
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

少しの逡巡の後ハンケチーフを受け取った眉月であったが、まだ何かを疑っているようにも見える。 しかし、まだ聞き残していることのあるあきは御構いなしに話を続けた。

2015-05-27 22:14:47
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「さて、本題に入るであります。 よろしいでありますか」 「あ、ああ、大丈夫だ」 「単刀直入に言うであります。 もう一度、吹雪殿に会って欲しいのであります」 「その少女にか? 何故だ」 「どうしてもであります。 それが、彼女の為なのであります」 「うぅむ……」

2015-05-27 22:24:07
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

あきがこの一週間もの間、日本橋から日比谷へと通い詰めた理由は眉月青年にこのことを伝える、その一点のみにあった。 しかし、自分も吹雪も彼と面識はあっても会ったのはただ一度きり。 そう簡単に承諾されるはずもないとあきは確信していた。 それでも、あきはどうしても伝えたかったのだ。

2015-05-27 22:29:55
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「よし、承知した」 「……え?」

2015-05-27 22:30:38
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

だからこそ、すぐに返事が、それも快諾されたとあってはさしものあきも驚かずにはいられなかったのだ。 きっと渋い顔をする、そう考えていたからだ。

2015-05-27 22:33:11
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「会うのは一度だけで良いのか?」 「いえ、それは任せるでありますが……本当に良いのでありますか」 「何をかな」 「吹雪殿に会うことを、であります」 「少し事情が変わってな。 一刻も早く会わねばならない」

2015-05-27 22:44:32
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

眉月青年はどこか焦っているようにあきには見えた。 先ほどの困惑した表情から打って変わり、今は喜びを隠せないといった表情となっているからだ。 その理由はあきには分からない。 しかし、これで一応目的は果たしたといえる。 あとは神保町に向かっている天龍が上手くやっているかだ。

2015-05-27 22:49:01
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「しかし、今すぐにともいかないな……。 3日後に赴くと伝えておいてはくれぬか?」 「了解であります」 「助かる」

2015-05-27 22:52:50
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

ひとまず、あきは落ち着くことにした。 少なくとも自分の目的は果たせたのだ、あとは吹雪がどう反応するかだが、それは上手くいくのを願うしかない。 既に終わった依頼を勝手に進めているのだ。 文句を幾ら言われようと、反論など出来はしない。 それでも、あきはこうするのを選んだのだ。

2015-05-27 22:58:22
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「さて、では自分はこれで失礼するであります」 「ああ、達者で。 出来れば今度は、もう一人の……お龍と言ったか。彼女も合わせてゆっくりと話をしてみたいものだな」 「またの機会があれば、よろしくお願いするであります」

2015-05-27 23:01:57
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

そしてあきはその場を後にした。 天龍は本当に上手くやっているだろうか、彼女のことだからしくじってはいないだろうが……。 そう考えながら歩き始めたあきを呼び止める者がいた。

2015-05-27 23:06:38
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「少し待ってくれぬか」 「なんでありましょうか」

2015-05-27 23:09:39