浜風、初めの一歩
はじめに
#落ちぬい二次 、始まります。本作は #不知火に落ち度はない の二次創作であり、オフィシャルではありません。指摘・意見などは #落ちぬい タグにお願いします
2015-05-27 16:03:30本編
――磯風はこういうのは最初が肝心だ、舐められちゃいけないって言ってた。 別れ際の言葉を思い出す。 ――まずはお前の全力を見せてやれ。 その言葉を胸に、浜風は砲を握る。 ――大丈夫。私の対空能力は磯風たちも認めてくれていたんだから。#落ちぬい二次
2015-05-27 16:04:48異動初日。実力を見せつけるんだと意気軒高な浜風は見学の艦娘たちのざわめきを背に、鎮守府から少し離れた演習海面まで進出する。 演習海面で待ち構えていた支援艦からオレンジ色の標的機が立て続けに三機発射される。しばらくして浜風に演習開始の合図が出された。#落ちぬい二次
2015-05-27 16:06:52今回の実射訓練は着任時の能力測定を目的としたものだ。単独で実施可能な訓練のうち、最初に浜風が得意とする対空戦が行われている。#落ちぬい二次
2015-05-27 16:08:03水面を走りながら対空電探の反応を頼りに砲を動かす。波の動揺は腕の動きで相殺する。風の影響までは観測できないから、最初の数発を外すのは織り込み済みだ。 肉眼でもかすかに視認できた標的にぴたりと砲口が向いた瞬間、浜風はほとんど無意識に引金を引いていた。#落ちぬい二次
2015-05-27 16:09:38外れ。風を判断材料に加えて補正。外れ。更に補正。命中。反応が一つ消える。 どうだ、と自慢したい気持ちを胸にちらりと鎮守府の方を見る。離れているのでさすがに表情は読み取れないけれど、きっと自分の腕を認めてくれるだろう。#落ちぬい二次
2015-05-27 16:11:44残る二機は回避起動を取り始めるが、風を把握した浜風は逃さず手早く撃墜する。やった、と胸に達成感が満ちる。この鎮守府の艦娘たちもこれを見れば浜風を軽んじはしないはずだ。#落ちぬい二次
2015-05-27 16:13:16『浜風ちゃんストップ、もういいよ……ってもう墜としちゃった?』 判定をしている那珂から通信が入る。浜風が肯定すると、残念そうな響きが声に混じった。#落ちぬい二次
2015-05-27 16:14:50『遅かったか……じゃ、訓練は終わりだから帰ってきて』 一機目で実力が分かったから止めようとしたのかな、と思いつつ、浜風は基地に戻っていった。#落ちぬい二次
2015-05-27 16:16:08上陸した浜風を迎えたのは歓声ではなく沈黙だった。見学の艦娘たちもみな圧し黙っている。 よもやこの鎮守府のレベルがとんでもなく高くて自分の実力では平均以下、なんていう事はないと思うが…… やや戸惑っていると、統裁官役の那珂が近付いてきた。手には採点表を持っている。#落ちぬい二次
2015-05-27 16:18:01「ねえ浜風ちゃん。とーっても言いにくいんだけどぉ……」 那珂がにこにこと笑顔を作りながら話しかける。 「はい、何でしょう?」#落ちぬい二次
2015-05-27 16:19:13「あの標的機、一機いくらすると思ってるの?」 那珂の笑顔が引きつっている。 「えっ? だってあれ、標的機、ですよね?」 「標的機だよ?」 「撃ち落とすものですよね?」 「撃ち落とさないよ?」 「でも、標的機って……」 「これは撃ち落とさないやつなの!」#落ちぬい二次
2015-05-27 16:20:56那珂は笑顔のまま怒声を発するという高等技術を見せつけた。 浜風が前にいた鎮守府ではチャカⅡをベースに開発された標的機を使っていた。これはそれ自体が標的となり、撃墜されるものだ。#落ちぬい二次
2015-05-27 16:22:12だがこの鎮守府ではより旧式のファイアビーを改修した物を使っている。これは本体が曳航する標的を撃つもので、本体は再利用する。 旧式とはいえ決して安い物ではない。というよりも補充が効かないだけにより問題が大きいとさえ言える。今後の実射訓練に大きな影響を与える事態だった。#落ちぬい二次
2015-05-27 16:24:41「す、すみません!前の鎮守府では撃ち落としていたので……」 「言い訳しない!」 笑顔を引っ込めた那珂の大喝に、浜風は反射的に直立不動の体勢になる。#落ちぬい二次
2015-05-27 16:26:11鬼教官として名高い神通の陰に隠れがちだが、那珂も訓練にかけては熱心であり、アイドルを意識した立居振舞とは裏腹の厳しい指導教官でもあった。#落ちぬい二次
2015-05-27 16:27:40訓練前に渡された資料と同じものを提示されると、そこにははっきりと使用機材はファイアビーである、狙うのは曳航標的であると記載されていた。しっかり確認しておけば誤って撃墜する事はなかっただろう。 完全に浜風の落ち度であった。#落ちぬい二次
2015-05-27 16:30:39「まず言う事があるでしょ?」 「……私が確認を怠ったせいで備品を壊してしまいました。すみません、でした……」 がっくりと肩を落とし、力なく謝る。#落ちぬい二次
2015-05-27 16:33:00「うん、それでよし。まあ目標を間違ったのは大きいマイナスだけど、命中率はとっても高かったから。今度からちゃんと気を付けてね?」 「はい……」 笑顔を取り戻した那珂に励まされても、打ちのめされた気分は消えなかった。#落ちぬい二次
2015-05-27 16:34:10その夜、浜風は自室に引きこもっていた。この部屋は流し台があるからという理由で選んだのだが、もとが倉庫なだけにじめじめするし昼間は暑く夜は一気に冷える。浜風はそんな部屋に据え付けられたベッドの上で、布団にくるまって芋虫の様に丸まっている。#落ちぬい二次
2015-05-27 16:35:50――やっちゃった…… もぞもぞと懊悩する。 新しい仲間たちに舐められないように実力を見せつける事だけに気を取られて使用機材の確認をすっかり忘れてしまい、その結果、大切なファイアビー標的機を三機も壊してしまった。#落ちぬい二次
2015-05-27 16:37:24――私っていつもこう。何度も言われていたのに。 お前は何かに必死になると視野が極端に狭くなる傾向がある、と前の指揮官に度々指摘されていた。 それが問題にならなかったのは、きっと第十七駆逐隊の仲間たちがそれとなく補ってくれていたからだろう。#落ちぬい二次
2015-05-27 16:38:47――仲間、か…… 磯風、浦風、谷風の三人はばらばらに転属になった。もう、いつでも隣にいてくれる仲間たちはいない。 新しい仲間になるはずだったこの鎮守府の艦娘たちを思い出す。#落ちぬい二次
2015-05-27 16:41:09