自己啓本は自分に合う所だけ取り入れられ、「そうだよね感」を得るためだけの「確認メディア」

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浅山太一 @girugamera

本屋になってはじめて気づいたけど、学問が言及する本って、大量に流通する書籍のなかのほんの一部なのだよね。だから「小説が売れなくなったので批評も死んだ」的な言葉に触れるたび、それは理解もできるけど、でもやっぱりその認識には賛同できないなって思う。本って、もっとたくさんあるのだ。

2015-07-05 23:08:51
浅山太一 @girugamera

そんな中、牧野先生『日常に侵入する自己啓発』が対象とするのは自己啓発書。もう声を大にして言いたいけど、本書は時代に刻まれるクラスの良書。歌謡曲や漫画やドラマが知の対象に取り入れられてきたように、千田琢也や本田健、上大岡トメやDr.コパが、学問のテーブルに乗せられる日がついにきた。

2015-07-05 23:10:49
浅山太一 @girugamera

テクスト外の要素に言及することについてきわめて抑制的だった前作『自己啓発の時代』に比べ、本作では社会構造への言及(清貧の思想とポストバブルの関係等)から、自己啓発書の著者や読者へのインタビューまで行ってて、これ元ビジネス書売り場にいた人間として、仕事的にも超参考なる。

2015-07-05 23:14:09
浅山太一 @girugamera

読み物としてもオススメ。もちろん論述は実証的なのだけど、記述のあいまに自己啓本からの引用がふんだんに挟まれていて、油断してるとサブリミナル的に啓発されてしまう。(千田2010b:26)や(渡邊2005:19)までは我慢できたけど、(兄貴2012:60-62)には耐えられんかった。

2015-07-05 23:16:03
浅山太一 @girugamera

一番興奮したのは、信者とも言われる熱心な読者に支えられているかに見えた自己啓本が、意外なほどに「選択的」に読まれていた点。自分に合う所だけ取り入れられ、あとは忘れられる。つまりは「そうだよね感」を得るためだけの「確認メディア」なのだという。(これはスピリチュアル本との違いか。)

2015-07-05 23:18:00
浅山太一 @girugamera

こうした読書行為のあり方を捉えるために持ち出されるのが「薄い文化」概念。これはリクターマンの用語で、本の言葉は、確固とした信念なしに「部分的な自己定義の資源として」緩やかに取り入れられるという曖昧な読みの形式。これ、ヘイト本の読まれ方を「サプリ的」と呼んだ與那覇先生とすごく近い。

2015-07-05 23:23:38
浅山太一 @girugamera

重要なのは、こうした浅い消費行動は「それチャラいよ」と批判しても意味がないという点。あらゆる価値観が選択可能(無根拠)になった時代において、応急処置的でパッチ的なそれらは「再帰性の打ち止まり地点」をインスタントに供給してくれる点で、むしろ本質的な消費のあり方かもしれんという。

2015-07-05 23:25:19