ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ10101711:フェアウェル・マイ・シャドウ #8後半(個別版)

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ 連載アカウント @NJSLYR (今回は並行重点につき @the_v_njslyr
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音楽とナンシーの声が重なった。次の瞬間、敵も味方も区別無く、戦場にいる者たちは一斉に空を仰ぎ見た。ミサイルの着弾を。断末魔の悲鳴とともに恐るべき怪物の名を叫びながら傾く、黒いマグロツェッペリンを。 27

2015-07-12 14:43:47
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「Wasshoi!」禍々しくも躍動感のあるシャウトが響き渡った。「噫!奴は…!」シャドウウィーヴは歯噛みし、影のフードの下から忌々しげな表情でその男を睨め上げ、クナイを握る手に血を滲ませて震わせた。殺伐たる夜の訪れを背に、死神はアイサツした。「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」28

2015-07-12 14:49:27
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「イヨオーッ!」突如、ノイズ混じりの小気味のよいシャウトが発せられた。トントトントトントントントントン!小太鼓の音!「ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!」ニチョームの語り部、盲目の翁の声!それはニチョーム自治会の街頭スピーカーに混線し、KMCレディオの届ける音楽と即興でビートを重ねた!29

2015-07-12 14:56:05
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「ホロウ!ホロウ!ホロウ!ナッシン!ホロウ!ナッシン!エンター!サツバツ!」翁はトランス状態めいて、一心不乱に原始シャーマニックなリズムを刻む!それは爆発的なゼンを生んだ!ヤモト、ショーゴー、ユンコ、レイジらは荒々しく踊るようなカラテを振るい、押し寄せるシステムの尖兵に抗う!30

2015-07-12 15:09:24
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「古池や/蛙飛び込む/水の音」かつて松尾芭蕉は戦乱の最中、大ガエルを操る敵ニンジャ将軍が滅ぼされた事実をハイクに詠み、味方を鼓舞し、敵軍には絶望を刻んだ。レイジは苦悶し、己の力が未だそこに至らぬ事を悟った!今はただカラテを振るいこの壮絶なる生と死を目に焼き付けるのみと悟った!31

2015-07-12 15:25:41
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ナムアミダブツ!いまや局所的に、エド戦争にも匹敵する壮絶なイクサが現出したのだ!遠く月面に身を置くアルゴスには、否、完全無欠なる人工知能である彼には、憎悪のカラテを振るい跋扈する怨霊の姿を、道理を超えた筆舌に尽くし難い恐怖を楽によって増幅されるアクシスの心理を、理解できぬ! 32

2015-07-12 15:39:36
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『攻撃せよ。攻撃せよ。攻撃せよ。アマクダリの支配体制には、些かの揺らぎも無し』アルゴスは冷酷かつ的確なる命令を下し続けた。誰もがドラゴンベインや十二人の如く気高く秩序だって整然と邪悪に、あるいはシデムシやハイデッカーの如く無思考に盲目的に振る舞えれば、事態は違っていただろう。33

2015-07-12 15:49:12
010100111 @the_v_njslyr

盗まれた機密情報は致命的ではない。無敵のスパルタカスが出撃した。アガメムノンは儀式を終えた。セクトは人類の誰もが為しえなかった偉業を為すのだ。究極の秩序。セクトは勝利する。人類を幸福のうちに統治する。ニチョームの戦力差は依然セクト優勢。…だが何故、アクシスは撤退を開始する? 34

2015-07-12 16:02:10
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戦場では、アマクダリアクシスが、ヨロシサン製薬が、ニチョーム勢が、サヴァイヴァー・ドージョーが、サークル・シマナガシが、そしてシャドウウィーヴとユンコが……熾烈なカラテを打ち合いながら、ニンジャスレイヤーとキュアの死闘を見守っていた。そしてキュアが、爆発四散した。 35

2015-07-12 16:59:29
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バイタルサイン消失。キュア。『戦闘継続せよ』英雄と機械は従う。勝利は目前。だが末端は潰走を止めぬ。この瞬間、アルゴスの知性に歪な感情が生まれた。『……愚かなり』それはネコチャンの自我を破壊吸収したことで予想外に組み込まれたエゴか。あるいはニンジャソウルがもたらした怒りか。 36

2015-07-12 17:04:41
010100111 @the_v_njslyr

「これにて敗北!作戦は失敗!総員撤退!」チバは立ち上がり、コマンド・グンバイを掲げ、なおも戦闘継続を行おうとするアルゴスに命じた。「替えの効くカス札はいくら死んでもいいが、骨のある連中を犬死にさせてはならん!」若き暴君の声が、暗く広大なワンハンドレッド・タタミ部屋に響いた。 37

2015-07-12 17:14:03
010100111 @the_v_njslyr

アルゴスは演算を行った。アガメムノンは未だIRCに復帰できていない。最終決定権は依然、総帥ラオモト・チバにある。「撤退させろ!カス札に足を引っ張られて、使える奴らが犬死にするぞ!」『総員撤退せよ』アルゴスの命令がIRCに下った。 38

2015-07-12 17:17:02
010100111 @the_v_njslyr

『キュア=サン!スターゲイザー=サン!見事な散りざまであった!だが敗北は敗北!下らん色気を見せずに退け!』チバはアクシスIRCを繋ぐ。基盤と権力を何としても守るため、必死であった。彼にはその権限がある。無論アルゴスは全てを承認する。『ドラゴンベイン=サン!撤退戦を指揮せよ!』39

2015-07-12 17:27:35
010100111 @the_v_njslyr

もはやモータルの身では限界だった。凄まじい汗でヤクザスーツ上下はしとどに濡れていた。チバは蹌踉めき、ネヴァーモアが彼を支え椅子に座らせた。チバは肘掛けに身を預けながら葉巻を吹かし、苛立たしげに空撮映像を見た。ヤグラから空を睨むシャドウウィーヴを見つけ、舌打ちした。「ガキめ」 40

2015-07-12 17:43:53
010100111 @the_v_njslyr

アルゴスはハイデッカーとオナタカミ無人兵器群を指揮してヤグラへと群がり、アクシスの撤退を支援していた。チバはそのIRCログを見ながら、苦しげに両脚を投げ出し、紫色のネクタイを緩めた。未だ己独りの力では、何も為せぬ。「……アルゴス、アガメムノン、あとはお前たちでどうにかしろよ」41

2015-07-12 17:49:11
010100111 @the_v_njslyr

空撮映像の中、シャドウウィーヴもまた、糸の切れたジョルリめいて傾き、ヤグラから落下していった。オイランドロイドが駆け寄った。「さらば、我が影よ」チバはつい2時間ほど前に裏切者が飛び立った高い天井を仰ぎ、葉巻の煙を吹かした。そして疲弊のあまり目を閉じ、無防備に寝息を立て始めた。42

2015-07-12 17:54:57
010100111 @the_v_njslyr

……「リンゴリンゴ、リンゴランゴ、ランゴリンゴ……」陽気でどこか物悲しい兵士たちの行進歌が、焚火の炎に揺れている。生き残った者たちが祝杯をあげ、互いの幸運と奮闘を讃えている。 44

2015-07-12 18:39:02
010100111 @the_v_njslyr

その暖かみのある光と安らぎに背を向け、遠ざかってゆく男がいた。シャドウウィーヴ。野戦病院めいて作られた雑居ビルバラックの中、救護フートンから身を起こした彼は、この場に留まらぬ事を決めていた。彼は影のフードを目深に被り、痛む身体を引きずりながらガレキの道を歩いた。 45

2015-07-12 18:44:21
010100111 @the_v_njslyr

傷は重く満足に歩くこともできぬ有様。ユンコが追いついた。ニンジャソウル反応を追ったのだ。「行くの?」「俺にはまだやる事が残っている」影は苦しげに言った。無論ユンコには、これ以上彼を引き留める道理は無い。彼はシャドウドラゴン時代の非道を清算したからだ。少なくとも己に対しては。 46

2015-07-12 18:53:10
010100111 @the_v_njslyr

「それに」シャドウウィーヴは暗いフードの下で小さく笑った。「ああいうのは苦手だ」「ああ、私もだけど」ユンコも屈託なく笑った。「また会えるといいね」「そうだな」「また会うときのために」ユンコは黒いLANケーブルを伸ばした。シャドウウィーヴはそれを受け取り、ごく短い直結を行った。47

2015-07-12 18:59:17
010100111 @the_v_njslyr

2人はLAN直結を解除した。「噫、俺はようやく、また独りになれたか」シャドウウィーヴはバイクを起こし、跨がった。アイアンオトメがモーターの唸りを上げた。それに乗るシャドウウィーヴが電脳メガロシティの闇の中へと消えてゆくのを、ユンコはガレキ山の上から見守り、影に別れを告げた。 48

2015-07-12 19:07:42
010100111 @the_v_njslyr

【ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ フェアウエル・マイ・シャドウ】終わり

2015-07-12 19:11:15