ヒトラーは選挙によって権力を握ったのか

ナチスドイツが民主主義によって成立したという説について
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こなたま(CV:渡辺久美子) @MyoyoShinnyo

首相の権力が、立法機関としてのドイツ国会によって裏打ちされていないからこそ、「大統領内閣」という半独裁制が登場してしまったわけでね。国会でいくら議席を取っても政権獲得には直接的には関係がなかった、というのはもうこれは動かせない事実なんですわ

2015-07-19 15:09:43
こなたま(CV:渡辺久美子) @MyoyoShinnyo

ヒトラーが首相になる直前のドイツ政界がいかにデタラメで、立法機関たる国会の地位が低かったかというエピソードをひとつ紹介しよう。1932年9月12日、共産党の動議によりパーペン首相への不信任案が提出、賛成512・反対42の圧倒的多数で可決される

2015-07-19 15:26:14
こなたま(CV:渡辺久美子) @MyoyoShinnyo

これに対し、パーペン首相とヒンデンブルク大統領は国会を解散して対抗。そして、「国会の解散命令は、不信任案が可決される前に出された」として、パーペンは辞職しなかったのである

2015-07-19 15:27:47
こなたま(CV:渡辺久美子) @MyoyoShinnyo

首相を選ぶこともできなければ、辞めさせることすらできない、それが当時のドイツ国会だったんですよ

2015-07-19 15:28:14
こなたま(CV:渡辺久美子) @MyoyoShinnyo

歴史をツッコんで調べるとき、年月日や定量的なデータのみから因果関係を導き出そうとするのは誤りで、特に政治史では「慣習」という記録に残りにくい意思決定プロセスがあったりする

2015-07-19 16:44:53
こなたま(CV:渡辺久美子) @MyoyoShinnyo

例として、ドイツ国会で全権委任法が審議された時、中央党はヒトラーに対して全権委任法に賛成する代わりに、「重要な法律に関しては必ずヒンデンブルク大統領と相談して決める」という署名入りの証文を求めた。

2015-07-19 16:47:03
こなたま(CV:渡辺久美子) @MyoyoShinnyo

これは、当時のドイツではそういったものが重要で、横紙破りをすれば信用の失墜などそれなりのペナルティがあるという「慣習」が存在したからこそ、中央党はヒトラーに「署名入りでその旨誓ってくれ」と迫ったのだ。

2015-07-19 16:49:10
こなたま(CV:渡辺久美子) @MyoyoShinnyo

そしてヒトラーとNSDAPはどうしたかというと、審議と票決の間に理由をつけて(証文はあるけどここにはないとか、忙しくてまだサインしてないとか)引き伸ばし、結局ウヤムヤのうちに証文を渡さず議決へ持ち込んでしまった。NSDAPもそれが効力があると認識していた証拠である。

2015-07-19 16:50:50
こなたま(CV:渡辺久美子) @MyoyoShinnyo

「大統領内閣」も慣習の産物だったと言える。まず、フリードリヒ・エーベルト内閣時代には首相を選ぶにしても立法機関たる国会の議席配分に配慮して、国会運営に支障が出ないように首相を選ぶ「慣習」が、エーベルト一人の元で行われ、初期のヒンデンブルクもそれを踏襲していた

2015-07-19 16:56:01
こなたま(CV:渡辺久美子) @MyoyoShinnyo

大統領緊急令は、内乱の勃発といった緊急時に使われる非常時の立法手段であるというのも「慣習」だった。大統領内閣という半独裁制は、それらの慣習を無視するところから始まっている。

2015-07-19 16:57:28
こなたま(CV:渡辺久美子) @MyoyoShinnyo

さっき「フリードリヒ・エーベルト内閣」って書いたけど正確には「フリードリヒ・エーベルト大統領」だ。

2015-07-19 17:08:59

ヒトラー暗殺未遂事件に関して

こなたま(CV:渡辺久美子) @MyoyoShinnyo

今日はヒトラー暗殺未遂事件が起こった日、そして明日は実行犯のクラウス・フォン・シュタウフェンベルクが軍法会議で裁かれて死刑になった日なわけだが、現在のドイツでは英雄扱いのシュタウフェンベルクではあるが、本人は別に民主主義のためにヒトラーを爆殺しようとしたわけではないのがミソだ

2015-07-20 22:02:02
こなたま(CV:渡辺久美子) @MyoyoShinnyo

冷静に評価すると、7月20日のヒトラー暗殺未遂事件は「極右が別の極右を理想の違いから爆弾テロで暗殺しようとした」というろくでもない事件なのは否めない。

2015-07-20 22:05:02
こなたま(CV:渡辺久美子) @MyoyoShinnyo

シュタウフェンベルクは、突撃隊のような「伝統を汚す成り上がりのならず者集団」が長いナイフの夜で排除された時には単純に喜んでいた。ヒトラーという独裁者の方針がドイツのためにならないと確信して暗殺によって排除しようとはしたが、独裁が登場した時には何の疑問も持たなかった。

2015-07-20 22:20:24
こなたま(CV:渡辺久美子) @MyoyoShinnyo

……と、いうのは後世だから言える評価。 別の視点では、そもそもがシュタウフェンベルクたち当時のドイツ人にとっては、帝政という非民主主義政体こそが生まれ育ったなじみ深い政体であり、共和制や民主主義というのは帝政崩壊で棚ボタ的に現れた異邦人でござった

2015-07-20 22:27:09
こなたま(CV:渡辺久美子) @MyoyoShinnyo

だからシュタウフェンベルクがヒトラーを暗殺しようとした動機が「民主主義、共和制のため」でなかったからといって評価を減じるというのはややアンフェアである。しかし、現在の「戦う民主主義」を掲げるドイツ連邦共和国が彼を英雄視する理由も、若干の違和感を残す。

2015-07-20 22:29:29
こなたま(CV:渡辺久美子) @MyoyoShinnyo

ああそうそう、「ヒトラーが登場した当時のドイツ人の有権者の大半は、帝政という非民主主義政体で生まれ育った人々」というのはあの時代を考察・評価する上で欠かせない要素です。これよく忘れられて、他の時代の他の国と安易に比べられる。

2015-07-20 22:34:15
こなたま(CV:渡辺久美子) @MyoyoShinnyo

「世界でもっとも民主主義的で先進的だったワイマール憲法」の下でヒトラーは登場した……とはよく言われるが、国家を構成するドイツ人たちもまたそれに比例して民主主義的で先進的だったかというと別にそんなことなかった。この点よくスルーされて「民主主義がヒトラーを生んだ」論に使われる。

2015-07-20 22:38:39

追記

こなたま(CV:渡辺久美子) @MyoyoShinnyo

私は軽々しく前提条件の違う日本の状況と1930年代のドイツを重ね合わせないでほしいと言いたいだけなのに、たまたま批判対象が民主党だと「民主党こそヒトラー、ナチスだな」という声が挙がるの非常にもにょる。

2015-07-22 22:15:55

9/12 追記

リンク Yahoo!ニュース 安保法案 民主・枝野氏 「ナチスと同じ立憲主義の破壊だ」と安倍政権批判(産経新聞) - Yahoo!ニュース 民主党の枝野幸男幹事長は9日の記者会見で、政府・与党が安全保障関連法案を16日に - Yahoo!ニュース(産経新聞)

安保法案 民主・枝野氏 「ナチスと同じ立憲主義の破壊だ」と安倍政権批判 産経新聞 9月9日(水)20時48分配信

 民主党の枝野幸男幹事長は9日の記者会見で、政府・与党が安全保障関連法案を16日に採決する方針を示したことについて、戦前ドイツのナチス政権の例を持ち出して厳しく批判した。

 枝野氏は「ナチスの場合は民主的な手法で権力を掌握した後、立憲主義を破壊する全権委任法を成立させて暴走、独裁を始めた」とした上で、「この法案を成立させようというプロセスを考えると、まさに立憲主義の破壊だ。ある学者が言っていたが、憲法秩序を破壊する一種のクーデターだ。これと断固戦うことは、国会の議席を得ている者として歴史への責任だ」と強調した。

 また、麻生太郎副総理が平成25年7月の講演で、憲法改正に関連してナチス政権を引き合いに「手口を学べばどうか」と発言したことを例に挙げ、「(安倍政権は)まさにそういう状況に入ってきている」とも指摘した。

2016.03.20追記