アーセナル

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あ阿々。 @rainbow_solara

1 「来い」 突然そんな一言で呼び出される日。 仕事を終えて慌てて駆け付ける。 人気のない店内を通り抜けて彼の部屋へ。 薄暗く煙草の煙の充満する部屋、テーブルの上には大量の吸殻と酒瓶が銃が無造作に転がってる。 そんな中ソファに天を仰ぐように身を沈める彼の姿。

2015-07-24 23:40:48
あ阿々。 @rainbow_solara

2 近づく私を冷めた目で一瞥すると、何も言わず腕を引いてベッドへ放り投げて覆いかぶさってくる。 あとは乱暴に彼の気の赴くまま抱かれるだけ。 いつもなら。

2015-07-24 23:40:54
あ阿々。 @rainbow_solara

3 『…あれ?』 いつもと違う、賑わう店内。 部屋におるで…ってジャッキーが奥を指す。 遠くに聞こえる喧騒を背にドアノブを回した。 『…あれ?』 明るく電気のついた部屋。 でも中は静まり返って、煙の代わりにたくさんの紙が散らばってる。

2015-07-24 23:41:01
あ阿々。 @rainbow_solara

4 よく見ると、ラグの上に彼の姿が。 静かに近づいてみると、小さく寝息を立てていた。 隣には…1歳半くらいかな…男の子。 前に拾ったって言ってた…子、かな…エイト君だっけ…? 依頼を受けて行ってみたら拾ったって…仕方ないから皆で交代で見てるって…。

2015-07-24 23:41:07
あ阿々。 @rainbow_solara

5 行為の後、凄く不機嫌そうな顔で煙草をくわえて言ってたのを覚えてる。 何か…遠く昔を思い出してるような、そんな顔だった。 でも今ここにいる彼は…険のなくて優しくて子供のような…初めて見る顔。 額を突き合わせて同じポーズで二人眠る姿はまるで父子のようで。

2015-07-24 23:41:16
あ阿々。 @rainbow_solara

6 いつも転がってるリボルバーはどこかへ片づけられていた。 代わりに二人の手に握られてるのは…水鉄砲? 散らばった紙には色とりどりのでたらめな線。 遊び疲れて眠ってしまったんだろうか。 床に落ちてた紙を一枚手に取った。

2015-07-24 23:41:26
あ阿々。 @rainbow_solara

7 それには8人の似顔絵。 下手で誰が誰かわからないけど…わかる…。 8uppersの皆と…エイト君だね。 どんな顔して何話しながら描いたんだろう。 想像して頬が緩んだ。 シンクロして上下する二人の背中。 エイト君にブランケットをかけて、彼の髪の毛に触れた。

2015-07-24 23:41:36
あ阿々。 @rainbow_solara

8 「…ん?」 起こしちゃった? 「…エイトは?」 目を擦りながら舌ったらずに呟く彼。 こんな姿も初めて。 『寝てるよ』 「…ん」 むくりと起き上ってベッドの上へ。 伸ばしてきた手を取ったら引っ張られて私も転がった。 そのままぎゅうって抱き締められる。

2015-07-24 23:41:45
あ阿々。 @rainbow_solara

9 「…どんだけ元気やねんアイツ…」 『エイト君?』 「触るな言うても触るし何で泣いてるかわからんし髪引っ張るな言うても引っ張るし…」 不機嫌そうに言うけど全然怒ってない…優しい声。 「笑いごとちゃうでホンマに…」 はあ…って吐く、溜息すら優しい。

2015-07-24 23:41:56
あ阿々。 @rainbow_solara

10 多分、彼自身も知らない彼の姿。 愛おしくて抱き締めた。 『何で今日来いって?』 「手伝って貰お思て」 私でよかったの? 他の人でもよかったんじゃ? そんな疑問が出そうになって、口を噤んだ。 「母親代わりでもいた方がええやろ」

2015-07-24 23:42:03
あ阿々。 @rainbow_solara

11 数多いる女の人の1人だと思ってた。 都合のいい相手をその時その時見繕って、呼び出してるだけ…って。 それでよかった。 側にいれるなら、それでもよかった。 でも…そんなこと言われたら私…。 するっと、服の裾から手が入って来る。

2015-07-24 23:42:15
あ阿々。 @rainbow_solara

12 『っ…エイト君、いるのに…』 「声出さんかったらええねん」 『そんな…』 「我慢せえ」 抗議の声は唇ひとつで塞がれて。 絡まる舌は今日は苦くない。 煙草の味もしない。 纏わりつく血と火薬の臭いもない。 鼻孔をくすぐるのは甘く切ないミルクの匂い。

2015-07-24 23:42:25
あ阿々。 @rainbow_solara

13 背中に回した手に力を入れた。 『アーセナル…』 「…ん?」 それっきり言葉もなく何度も唇を啄む。 愛してる 何度も心の中で呟く。 彼の声が、聞こえた気がした。 目を閉じて深く舌を絡め合う。 彼の手がブラのホックを外す。 その時。

2015-07-24 23:42:30
あ阿々。 @rainbow_solara

14 (あーん!あー!) 「『…あ』」 二人同時に声を上げて、顔を見合わせてぷっと吹き出した。 するっと離れてひょいって抱き上げて、少しぎこちない手つきであやす。 溶けそうに甘くて…見惚れるくらい優しい顔。 そんな顔させるエイト君にちょっとだけ嫉妬したのは…内緒、ね。

2015-07-24 23:42:35
あ阿々。 @rainbow_solara

1 『…ふぅ』 大きなヤマを越えて漸く訪れた金曜日。 明日明後日は久しぶりに何もない連休。 疲れたし暑いし…今日のとこは取りあえず早く家に帰ってお風呂入ってビール飲んで寝たい。 人気のない横道。 暗いけど家に帰るのに近道だからよく使う。 コンビニの袋をぶら下げて足早に歩く。

2015-07-25 16:56:18
あ阿々。 @rainbow_solara

2 珍しく前方にふたつ人影が見えた。 …なんか…変な雰囲気? 引き返そう、かな…。 嫌な予感がして背を向ける。 その時、背後からプシュッって変な音が聞こえて。 思わず振り向くと、黒い影がひとつ、ゆっくり倒れ込んでいくのが見えた。

2015-07-25 16:56:30
あ阿々。 @rainbow_solara

3 『…ぇ?』 何?何が起こったの? もう一人、前方に伸びていた手がゆっくり降りて、こっちを見た。 『っ…!』 本能が危険を告げる。 ゆっくり近づいてくる影。 手には…拳銃のようなものが握られてる。

2015-07-25 16:56:42
あ阿々。 @rainbow_solara

4 逃げなきゃ…叫ばなきゃ…! でも喉は貼りついたように乾いて声が出ないし、足も竦んで動かない。 目の前で止まった影。 少し遠くの街頭に照らされて人の形になる。 黒い、闇に溶けるようなスーツ姿。 見下す目は鋭く刺すように冷たい。 青白い頬から真っ赤な血が滑り落ちる。

2015-07-25 16:56:56
あ阿々。 @rainbow_solara

5 ガチガチ歯の根が合わず、体がガクガク震える。 「…」 煙草をくわえた唇が歪んだ。 殺される…! 目を閉じた瞬間、体に受けた衝撃。 手から袋が滑り落ちて缶が音を立てる。 それを最後に意識を手放した。

2015-07-25 16:57:07
あ阿々。 @rainbow_solara

6 『…っ?』 見覚えのない天井と背中に硬いスプリングの感触。 自分の部屋じゃない…ここは…? 視線を巡らせてぼんやり考える。 会社出て…明日休みだからコンビニ寄ってビール買って、いつもの道を行こうとして…そうだ…私…。

2015-07-25 16:57:24
あ阿々。 @rainbow_solara

7 体を起こそうとして痛みに顔をしかめた。 鳩尾の辺りがズキズキ痛い。 誰もいない、殺風景な部屋。 煙草の吸殻と酒瓶と…銃…が無造作に転がってる。 やっぱり私が見たあれは…。 プシュって音と同時に倒れた影。 頬に散っていた血はきっと…。 …逃げなきゃ…。 体を起こす。

2015-07-25 16:57:51
あ阿々。 @rainbow_solara

8 服は…着たままだ。 靴は見当たらないけど…探してる時間はない。 痛みを堪えてベッドから足を降ろした瞬間…ドアが開いた。 『っ!?』 目が、合った。 遠目にもわかる、綺麗な顔。 薄い唇が醜悪に歪む。 さっと血の気が引くのが、分かった。

2015-07-25 16:58:22
あ阿々。 @rainbow_solara

9 どうしてこんなことになってるんだろう…。 喉の奥を突かれて思わず嘔吐くけど、逃げ場もなくただ口の中の塊を必死でを吸い上げる。

2015-07-26 01:12:04
あ阿々。 @rainbow_solara

10 女探す手間省けたわぁ…って、薄く笑いながら私の胸の上に乗り上げた彼。 グッと息が詰まって抵抗しようともがく私の額にガチャリ冷たい金属が突きつけて、ヒッと息を飲む私を満足そうに見下ろして笑う。 「殺った後なかなか治まらへんねん」

2015-07-26 01:12:08
あ阿々。 @rainbow_solara

11 ベルトをカチャカチャ外していきり立ったモノを目の前に突き付けた。 「終わるまでは生かしといたるわ」 両頬を掴んで無理矢理口の中に捻じ込んでくる。 「余計なこと考えんなや…わかってるやろ?」 当てられた銃が強くめり込む。 震えながら、乾いた舌を這わした。

2015-07-26 01:12:18
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