マーク・オブ・ザ・デビル #1

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お願い、あなたの力が必要なの、これは」「ナンシー=サン、悪いが力は貸せぬ。これはニンジャではない」イチロー・モリタは席を立ち、ハンチング帽を目深に被ってドアを開けた。「待って、ニンジャスレイヤー=サン!」ナンシーがドアを開くと、もう彼はおらず、街は重金属酸性雨に濡れていた。 1

2015-08-01 22:39:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『ハァーッ!ハァーッ!追ってくるぞ!アイエエエエエエ!アイエエエエエエエエエエエ!』ナンシーの秘密アジト内、UNIXモニタのひとつには、暗視モード撮影された素人臭いドキュメンタリー映像が流れていた。『もうダメだ!ナムアミダブツ!アイエエエエエエエエエ!アイエエエエエエエエエ!』2

2015-08-01 22:43:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ブロロロロロー。ナンシーの運転する白い取材バンは、交通量の少ない峠道をゆく。ここはネオサイタマの遥か南東、ヤマ山地。「おいしい」「反対」「少し」などの旧世紀カンバンが、路肩で錆び、朽ち果てている。ゼンめいた松林を抜け、農道へ。騒々しいバイオセミの鳴き声が、車内にまで聞こえる。 3

2015-08-01 22:54:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガタン、ガタン。取材バンが荒っぽく揺れた。そして細い松林の中を走る農道で停まる。「……ジャージーデビルが出現するのは、夜中。あの映像を偶然撮影した大学生たちも、ウシミツ・アワーの事だったと証言しているわ」ナンシーはエンジンを切り、助手席に呼びかけた。「調査開始よ」 4

2015-08-01 23:02:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「えらいとこまで来たな、自動販売機も無いぜ」特派員助手エーリアスも、カメラや各種機材を背負ってバンから下りた。カラテこそ乏しいものの、エーリアスはニンジャであり、この程度の労働は特に問題ない。「何か感じたりする?」ナンシーが先へ進みながら問う。「何かって?」「何かの気配とか」 5

2015-08-01 23:08:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ちょっと待ってくれよ」エーリアスは右こめかみに指を当て、目を閉じ、左手をかざしながら四方の松林をソナーめいて探った。「いや、これといって無いな。ニンジャじゃないんだろ、今回?」「そうね、でも敵意を持つ大型動物が近くにいたとしたら、どうかしら」「察知できる、俺はニンジャだし」 6

2015-08-01 23:15:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二人の特派員は前進した。エーリアスは、常に周囲をニンジャ警戒力で警戒しながら、先を歩くナンシーを映し続けた。「このヤマ峠では、しばしば謎の転落、行方不明、UMA目撃などの事件が発生します」NSTV報道特派員に偽装したナンシー・リーは時折、カメラに向かって調査の経緯を語った。 7

2015-08-01 23:22:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

騒々しいセミの声。「目撃情報によると、そのUMAは馬、コウモリ、蛇などの特徴を持ち、ジャージーデビルと呼ばれています。数週間前も、ふもとのオンセン街に下宿する大学生グループが、偶然これをビデオ撮影し……」「うわッ」エーリアスが不意に立ち止まり、斜め後方の空にカメラを振った。 8

2015-08-01 23:29:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ワッツ!?」ナンシーが駆け寄った!すわ、UMAか!あるいは閉鎖的な地元農民によるアンブッシュか?一行に緊張感が走る!エーリアスは周囲を見渡し、撮影映像を巻き戻しながら言った。「ゴメン、何でもなかった。何かちょっと、ニューロンがゾクっとして。上のほう、たぶん鳥、あそこの奴」 9

2015-08-01 23:34:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ただのカラスだ。2人は緊張した面持ちで見つめ合い、頷き、取材行為を再開した。セミがまた鳴き始めた。汗が滲んだ。「……また水牛ミューティレイトや奇妙な音が聞こえた等の報告も。しかし地元マッポは怪現象として取り合ってくれません。なお、近隣にはヨロシサン製薬の私有地が存在します」 10

2015-08-01 23:41:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーとエーリアスは、馬めいたヒヅメ跡、ブラックメタルまたは地元農民フォークロアに基づくと思われる奇妙なブードゥー(魔法陣と砕かれたコケシ)、食い散らされたマンゴーやパイナップルの山などを発見し進んだ。だがUMA存在の決定的証拠は見つからず、やがて孤立した農家に辿り着いた。11

2015-08-01 23:51:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーモ、撃たないでください!我々は怪しいものではありません!」ナンシーはNSTV特派員証を提示しながら、黙々とマキ割りを行うたくましい農家の男に近づいた。歳は50前後、髭面の逞しい男で、名はマイヨシと言った。マイヨシはよそ者に対する不信感をあらわにしながら、取材に応じた。 12

2015-08-02 00:00:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何を栽培しているんですか?」ナンシーが質問した。「何って……見れば分かるだろ……」マイヨシは薪割りを続けながら、しばし無言だった。気難しい男のようだった。「マンゴーやパインだよ……」「マンゴーやパイン」映像撮影は許可されなかったため、エーリアスは録音を行い、メモを取った。 13

2015-08-02 00:06:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「農作物が荒らされていたりは?」ナンシーが問う。マイヨシは無言で薪割りを続けた。カッ、カッ……カコーン。汗を拭った。タンクトップ、逞しい上腕二頭筋がのぞく。かなりのカラテだ。「……別に困ってねえよ……それよりさ、あんたらみたいなよそ者が首突っ込んでくるのがさ……困るんだよ」 14

2015-08-02 00:14:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マイヨシは寡黙な男だった。この先の峠にはもう家も自販機も無く、廃村になったマンゴー農家だけがあるという。「……ガケ崩れも多いし、危険なんだよ。……あんたらもさ、TVなら、ガキ共に伝えろよ。たまにあるんだよ。興味半分で生活を邪魔するなってさ……ほら、もう夕暮れだし帰れよ……」 15

2015-08-02 00:25:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マイヨシは薪を抱え、納屋に帰ろうとした。彼は何かを隠している!ナンシーのジャーナリストとしての直感が、そう告げた!「ジャージーデビルについて教えてください」ナンシーが鋭く斬り込む!「それはマンゴーやパイナップルが好きなのでは!?」「……知らねえよ」彼は吐き捨てるように言った!16

2015-08-02 00:33:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お願いです。ここへ来る途中、食い荒らされたマンゴーやパイナップルをいくつも撮影しました!」ナンシーが食い下がる。「ジャージーデビルの正体は、大型化したバイオウマヅラコウモリではないかと私は考えて」「……クソッ、くだらねえ……」マイヨシは舌打ちし、二人を無視して背を向けた。 17

2015-08-02 00:43:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あッ」エーリアスが不意に、こめかみに指を当てて言った!「おッさん、ゴメン、その左腕」マイヨシは立ち止まった。「その、歯形みたいな跡」「……昔、馬に噛まれたんだよ。悪いかよ!」マイヨシの様子がおかしい!「いや、俺さ、たまに分かるんだよ。なんていうか、その、普通じゃない事が」 18

2015-08-02 00:51:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「普通じゃない事が……わかる?」マイヨシはエーリアスを睨みながら言った。息が荒い。激しい感情を強引に押さえつけているようだ!一体彼にどんな過去があったというのか!?「スミマセン、彼女は撮影アシスタント歴が浅く時々シツレイを」剣呑なアトモスフィアを察し、ナンシーが謝罪に入る! 19

2015-08-02 00:58:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なあ、頼むよ。その歯形のせいで、実は何か苦しんでるんじゃないか?」エーリアスは特派員を装う事も忘れ、衝動的に言った。「うまく説明できないけどさ、俺、鍼灸師メンキョとかも持ってるから……何か、力になれるかも知れないンだよ、マジでさ。だから」己にも理由が掴めぬまま、オジギした。20

2015-08-02 01:07:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

エーリアスは明らかに何かを察知している!ニンジャの力で!ナンシーは額に汗を滲ませ、静観した!……果たして、マイヨシの答えや如何に!?「……別に困ってねえし、オカルトにも興味ねえよ、帰ってくれよ……」マイヨシは二人に背を向けて歩き、納屋に入ると、電磁ショック門を固く閉ざした。 21

2015-08-02 01:16:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二人はその場に取り残された。再びセミが騒々しく鳴き始めた。緊張が解けた。「ダメか」エーリアスは頭を上げ、息を吐いた。「ニンジャなの?」ナンシーが囁く。「いや、ニンジャじゃないと思う」「じゃあ何が?」「……解ンねえ。でも、治療したくないって言う人に、無理には踏み込めねえだろ」 22

2015-08-02 01:22:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……そうね」「なンか、悪かったな、ナンシー=サン。出しゃばっちゃってさ」こんな時、イチロー・モリタ特派員がいてくれたら、また展開は違っていたかもしれない。だが詮無き事だ。「いいのよ。まだ時間はある」ナンシーは言った。ふもとのオンセンには、調査のために1週間宿を取ってある。 23

2015-08-02 01:30:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

エーリアスは再びカメラを回し、辺りを撮影した。「さっき夕方だったと思ったら、あっという間に真っ暗だ。ナンシー=サン、今夜はこれからどうするンだい?もうかなり疲れてきたけど」「相手は夜行性のUMA。時間を無駄にはできない」ナンシーが提案した。「道路にマンゴーを仕掛けましょう」 24

2015-08-02 01:36:12
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