マーク・オブ・ザ・デビル ＃２

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「助けて！」「誰か！アイエエエエエエエ！誰か！」「ダメだ！やっぱり誰も助けてなんか……！アッ！」無軌道大学生達が必死に叫んだ！その時！プップー！クラクションが鳴り、頼りないヘッドライト光が彼らを照らした！無限の暗黒めいた峠の国道を走る一台の小型自動車が、接近し、停まった！　69

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「お願いです！私たちはブラックメタリストではありません！この子達を乗せて、ふもとのオンセンに行って！理由はあとで話すわ！」ナンシーがNSTV報道特派員証を掲げながら叫んだ。道路に座りこんだ大学生たちは、祈るような気持ちで小型自動車を見た。全員は乗れないのだ、と悟りながら。　70

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皆が息を呑んで見守る中、ドアが開いた！ナンシーは驚きの声をあげた！「あなたは……！」「ドーモ」車から降りたのはトレンチコートにハンチング帽の男！おお……その胸には、NSTV報道特派員イチロー・モリタの特派員証が！「ナンシー＝サン、車と彼らを頼む。あとは私がカタをつける…！」　71

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【マーク・オブ・ザ・デビル】#２

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暗視モードカメラはしばし、松林と砂利道だけを映し出していた。大きく揺れ、エーリアスの顔が映し出される。「……ハァーッ、ハァーッ……」農道に倒れた彼女は、転がったカメラへと必死で這い進み、指先でその向きを変えたのだ。彼女の目は虚ろだ。毒のせいで、全身の筋肉が弛緩し始めていた！　1

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「ヤバイ、奴が……奴が…！」彼女にはコウモリめいた翼の音、砂利を踏みしだく蹄音、獣じみた粗い息づかいが聞こえていた！「……アイエエエ？アイエーエエエエエエエエエ！」エーリアスの体が後方の闇へと徐々に引きずられてゆく！ナムサン！ジャージーデビルが彼女を連れ去ろうとしているのだ！　2

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その時！「ARRRRRGH！」BLAMN！BLAMN！突如、闇の奥からショットガンの銃声と狂ったような農夫の叫び声！「やめろーッ！キノシタ！もう終わりにするんだ！キノシターッ！」暗視カメラはその姿を捉えている！マイヨシだ！白いタンクトップは血に塗れている！キノシタとは誰か！？　3

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散弾が命中したのか？アクマめいた馬のいななき声が夜の松林を圧し、カメラ映像が乱れる！セミが一斉に飛び立つ！「キノシターッ！」マサカリを振りかぶって突撃するマイヨシ！だが次の瞬間！キイイイイイイイイイン！頭を割るような凄まじい怪音波が発せられ、エーリアスとマイヨシを襲ったのだ！　4

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「グワーッ！」マイヨシがマサカリを取り落とし、うずくまって頭を押さえた。おびただしい鼻血だ！「ウワーッ！」エーリアスも頭を押さえ、のたうちまわる！「やっぱりこいつだ！ちくしょう！同じ感触だ！……最初、俺が気配を感じた時に……車にマキビシを仕掛けやがったんだな…！ちくちょう！」　5

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「Wasshoi！」突如、ジゴクめいたカラテシャウトが松林に響き渡った。闇を切り裂くスリケン！命中！アクマめいた唸り声が響く！エーリアスが赤い返り血を浴びる！音波が止んだ！「ドーモ、ジャージーデビル＝サン、ニンジャスレイヤーです」暗視カメラは、そのニンジャの足先を捉えていた！　6

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キイイイイイイイ！再び音波攻撃！「イヤーッ！」ニンジャスレイヤーは回転跳躍でこれをかわすと、見事な松の木を蹴ってトライアングル・リープを決め、カラテチョップを振り下ろした！機敏な動きでこれをかわすジャージーデビル！異形の怪物とニンジャ殺戮者の間で、凄まじいカラテ攻防が始まる！　7

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轟音とともにジャージーデビルが襲いかかった！竿立ち姿勢から相手を叩き潰す連続キックだ！「イヤーッ！」死神は防御を固め、この凄まじい乱打を凌ぐ！この時、暗視カメラも怪異の一部を捉えていた！馬のヒヅメじみた前脚！その形状は、以前ガケから転落した車に残された謎のへこみにも似ていた！　8

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「おい、マイヨシ＝サン！大丈夫か！」死闘が続く中、エーリアスが辛うじて這いより、倒れたマイヨシを揺り起こそうとする！危険な状況だ！「しっかりしろ、死ぬなーッ！」「イヤーッ！」劣勢を覆す死神のカラテ・ローキックが決まった！ジャージーデビルは唸り、怒り狂い、翼を広げて舞い上がる！　9

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暗視カメラが映し出す農道の砂利道に、巨大な影が刻まれた！怪物は満月を背に上空を飛び回り、恐るべき滑空攻撃を繰り出さんとしているのだ！ニンジャスレイヤーはその方向を睨み、情け容赦ないジュー・ジツを構える！「キノシタ！キノシターッ！」正気付いたマイヨシが上空に向かって叫んだ！　10

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「イイイヤアアーーーーーッ！」赤黒の死神は、迎撃カラテを放つべく跳躍！その姿は再びカメラ視界から消えた！直後ヤマ峠に、この世のものとは思えぬ、凄まじい音が響き渡った。「「アイエエエエエ！」」何かを見たエーリアスとマイヨシが泣き叫んだ。暗視カメラ映像が地震めいて揺れ、途絶えた。11

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何も映し出されない真っ暗な画面には、見知らぬ男の断末魔の叫び声が、激しいノイズとともに録音されていた。「サヨナラ！」と。　12

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果たしてエーリアスとマイヨシは何を見たのであろう。…キュルキュルキュルキュル。巻き戻されたテープを解析すると、そこには、コウモリめいた翼を持つ巨大な怪物が地面に叩き付けられたと思しき不鮮明な映像。次いで、苦しげにマイヨシらのもとへ歩み寄る、〈黒の男〉らしき人影が確認できた。　14

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……果たしてジャージーデビルの正体は何だったのか。マイヨシが叫んだキノシタなる言葉には、いかなる意味があったのか。数日後、未だ解き明かされぬ謎に突き動かされたエーリアスはカメラを構え、再びマイヨシの農場を訪れた。所々に包帯を巻いていたが、彼は粛々と農作業に精を出していた。　15

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「あ、ドーモ」エーリアスはオジギした。「……ドーモ」マイヨシが返し、汗を拭った。しばしの静寂。騒々しいセミの声だけが辺りに響いた。「マイヨシ＝サン、あンた、もう大丈夫なのか」「……俺が作業しねえと、誰がこいつらの世話すんだよ」マイヨシの静かな視線はマンゴーに注がれていた。　16

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「まだ何か用か」マイヨシが言った。余所者に対する攻撃的な態度は消え失せていたが、それでも未だ、どこか不穏なアトモスフィアを纏っていた。エーリアスは少し躊躇してから言った。「あの夜のことなんだ。死に物狂いで叫ぶあンたを助け起こそうとした時、偶然、俺の頭に、入ってきちまってさ」　17

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「……入ってきた？」マイヨシが問うた。「ああ、見えた、っていうか……マジでその、悪気があったわけじゃないんだ。普段だったら、絶対やらない。でも不可抗力でさ、俺の中に入ってきちまったんだよ」「だから、何がだよ」「キノシタ＝サンって、あんたの弟さんだろ。マイヨシ・キノシタ＝サン」18

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「……まあ、長い話になるからよ」マイヨシは農作業の手を止め、エーリアスを家のチャノマへと導いた。エーリアスは出されたチャを呑みながら、台所でマイヨシがマンゴーを切って持ってくるのを待った。ふと、かけられた家族写真のひとつを見ると、そこには〈黒の男〉に良く似た目元の男がいた。　19

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それからマイヨシは、恐るべき過去の秘密を懺悔めいて語った。「……今から七年前のある日、突然、キノシタはさ、ニンジャになっちまったんだよ……」記憶は混濁しており、どこからどこまでが真実なのかは、もはや彼自身にも解らぬという。「……それから徐々に、ジャージーデビルになったんだ」　20