子どものコミュニケーション力が伸びる瞬間-アナログゲーム療育中の一コマ-

アナログゲームを使った遊びで、5歳児のコミュニケーション力が伸びていく様子を、治療教育の基本概念の一つであるZPD(再近接発達領域)との関連で描いています。 アナログゲーム療育については、下記サイトを御覧ください。 www.gameryouiku.com
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松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

昨日は幼児のゲーム会だった。幼稚園の年長クラス5人組を相手に、不定期に開催している。久しぶりにあった子が僕をみて、「あっ!ゲームセンターが来た!」と言った。ゲームセンター。この上なく光栄な呼ばれ方だ。

2015-08-25 12:49:45
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

この年長児5人を対象としたゲーム会だが、5人ともフラットな発達をしており、段階のズレもないため、幼児向けゲームのベンチマークテストの機会とさせていただいている。今回は、ZPD(再近接発達領域)ギリギリのゲームをプレイしてもらい、子どもたちを動きを観察した。

2015-08-25 12:54:02
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

ZPD(再近接発達領域)とは旧ソビエトの教育学者レフ・ヴィゴツキーが提唱した概念。子ども一人ではできないが年長者や大人の手助けがあれば、達成できる程度の課題領域を指す。子どものZPDにあわせた課題を設定し、適切な指導のもと取り組ませることが、治療教育の基本となっている。

2015-08-25 12:57:45
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

今回五歳児のZPDに相当する課題として設定したのが「質問する力をみにつける『わたしはだあれ?』だ。」gameryouiku.com/2015/06/26/%E8…

2015-08-25 13:05:00

「わたしはだあれ?」というゲームは、動物が描かれたカード16枚と、そこに対応した動物のきぐるみをきた子どもが描かれたカード16枚で構成されている。

松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

「わたしはだあれ?」は一人のプレイヤーが手にした動物カードを手にし、ほかのプレイヤーは「空はとびますか?」「色は黄色ですか?」などの質問を繰り返してその動物カードが何なのかを当てるゲームだ。

2015-08-25 13:08:10
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

テーブル上には動物のきぐるみをきた子どものカードが並んでおり、質問を通じて何の動物かわかったならそのカードをカルタのように取りに行く、というルールでやっている。

2015-08-25 13:09:57
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

かわいらしいカードをみた子どもたちは「うわー面白そう!」「これどうやるの?」と興味津々。私がひと通りルールを説明した上で、「それでは始めます。質問したい人は手を挙げてください。どうぞ!」と言った。すると、それまでの様子から一転、5歳児たちは水を打ったように静かになってしまった。

2015-08-25 13:12:39
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

子どもたちはどうしたらよいものか、お互いに顔を見合わせている。その様子をみて、「さっきまでの元気はどうしたのかしら」とお母さん方もクスクス笑っている。

2015-08-25 13:16:14
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

「自由に質問を発して正解を絞り込む」というのは、5歳児たちにとってはほとんど初めての経験のはずだ。ここが彼らにとってのZPD(再近接発達領域)。すなわち、子どもたちだけではできないが他者の助けがあって初めて達成出来る領域である。

2015-08-25 13:19:13
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

しばらく経つと、一人の男の子が意を決して手を挙げた。「おっTくん、質問どうぞ!」と、指名したが、Tくん、「・・??・・・??」と止まってしまった。「じゃあ質問考えたらまた手を挙げてね」と軽く流す。

2015-08-25 13:24:46

結果的に質問を発せられなかったTくんですが、そのことをよくわからなくてもとりあえず手を挙げた、という行為が素晴らしい。その理由は後で述べます。

松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

実は、この会には5歳児の他に、その小3と小4のお姉さんが参加していた。前半活躍したのはこのお姉さんたちである。「くちばしはありますか」「しっぽは長いですか」など的確な質問がでる。

2015-08-25 13:27:38
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

ゲームの中盤、5歳Tくんがまた手をあげる。「くちばしはありますか」と先ほどのお姉さんの質問を真似てきた。答えは「はい」。それを聞いて彼は近くにあった「カラス」のカードを取った。残念お手つき。なぜならくちばしがある動物はカラスの他、ツルもニワトリもいるからだ。正解はツルだった。

2015-08-25 13:30:04
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

同様のミスは他の五歳児にも見られた。「耳はありますか」という質問に「はい」という答えが返ってきたのを見て、「うさぎ」を取りに行ってお手つきになる子がいた。耳がある動物は他に犬も猫もリスもいる。

2015-08-25 13:34:06
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

つまり、「提示されたヒントに適合する動物をえらぶ」ことはできているのだが「正解の可能性がある複数の候補の中から一つに絞り込む」ところまではできないのである。

2015-08-25 13:35:45
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

それでも、5歳児たちは学ぶ。ゲーム後半、「くちばしはありますか」という質問に「はい」という答えがきた。ここで三度手を挙げたT君。「くちばしは、長いですか」と質問した。「はい」との返答を受けTくんツルを取った。正解。カラス・ニワトリ・ツルでは、くちばしが一番ながいのはツルなのだ。

2015-08-25 13:49:56
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

30分に満たないゲームの中で、T君は「よくわからないけどとりあえず手を挙げる」段階から、「他者の質問を真似る」という段階を経て、最後「正解を絞り込む質問を発する」ところまで発達している。この発達には、年長のお姉さんが的確な質問をして手本を見せていたことが大きく寄与している。

2015-08-25 13:54:53
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

その子一人だけでは達成出来なかったであろう課題に、他者といっしょに取組むことで達成できる。これがZPD(再近接発達領域)が重要になってくる所以であり、私が療育で異年齢集団での関わりを重視する理由でもある。

2015-08-25 13:57:27
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

ヴィゴツキーの考えでもう一つ重要だと思うのは、子どもがコミュニケーションを取ろうとするとき、コミュニケーションの準備ができてから行動に移すのではなく、まず行動して、その中でコミュニケーションを学んでいく、ということである。

2015-08-25 14:02:44
教員採用試験支援BOT(加藤礼亜) @Kyousai_K_bot

【教育心理】レディネス=「学習活動に必要な条件が準備されている状態」ゲゼルとトンプソンは学習には最適な時期が存在することを明らかにし、一定の成熟状態に達していることが必要と考えた。ヴィゴツキーは教育は発達に先立つと主張し、発達しつつある水準を越える援助をするものであると考えた。

2015-08-25 12:42:49
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

今回の子どもたちの動きでいえば、Tくんが最初どう質問していいかわからないにもかかわらずとりあえず手を挙げた、というのが重要だ。そのときは質問できず失敗だったが、他者の様子を見て真似し、最後は自分で考えて適切な質問を発するまでになっていた。

2015-08-25 14:08:50
松本太一@アナログゲーム療育 @gameryouiku

もしTくんが過去に、うまく質問できないことで怒られたり馬鹿にされた経験があったとしたら、Tくんは質問の仕方もわからないのに手を挙げたりはしなかっただろう。その場合、Tくんは後に「正解を絞り込む質問をする」ところまで発達する機会を逃したことになる。

2015-08-25 14:12:12