歪んだ世界と愛の唄外伝[朱璃]

劇団The LAST PEACE @LastPeace815

第一項 僕の家は余り良い家庭だとは言えなかった。 父親は帰ってくる度に飲んだくれて、暴力を振るうことはなかったけど、ただ虚ろな目でテレビを見るだけだったし、母親は夜になると、自宅の階下に作ったスナックで働いて、僕らはいつでも二人きりだった。 ＃朱璃

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だからこそ、僕らの間には普通よりずっと、強い絆で結ばれていたと思うし、ずっと一緒だよなんて話したりもした。 ずっと一緒に入れると思っていたからこそ、襖の奥の大人達の言葉に苛立っていた。 僕は弱い子供なのだと、軽んじられているようなきもした。 ＃朱璃

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気づくと、僕は襖を開けてそこにいる大人たちに言った。 大人たちは、今まで僕らの事を押し付けあっていた癖に僕のその提案を否定する。 朱璃は施設に 碧は独り暮らし それが幸せだと、そう説得した。きっと僕はひどく醜い顔をしていたと思う。 ＃朱璃

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その怒りをただぶつけた。 僕らを押し付け会う奴らに僕らの幸せがわかるもんか。その方が幸せだなんて、ただ、自分達の都合の良いようにしたいだけじゃないか。 大人達は、俯いた。誰もそれ以上に言葉を発さなかった。 拍子抜け そんなことを思っていると、大叔父が、口を開いた。 ＃朱璃

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碧ももう働ける年だ。 住むところには現状困らないわけだし、朱璃だけ施設に入れるのは野暮かもしれん。 ただし、碧。 どうにもならなくなったら、必ず連絡すること。朱璃は、まだ幼いのだから、自分でできないことも多い。わかっているな？ 僕はただ、頷いた。 ＃朱璃

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大叔父が、面倒はできるだけ見ると告げると、他の大人達は不承不承納得し、解散していった。 取り残された僕は、襖の奥に戻り、朱璃の顔を見ながら、明日どんな仕事を探しに行こうかと考えていた。 気づくと、僕は寝ていた。 第一項 終 ＃朱璃

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第二項 ふと目を覚ますと、朱璃は布団から抜け出し、窓際で空を眺めていた。 碧ちゃん。 僕はこの呼び名が嫌いだった。けれど、二人きりになった今、これが幸せの一部なのだとふと感じた。 朱璃は、その言葉をもう一度、僕に何かを確かめるかのように言った。 ＃朱璃

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碧ちゃん。朱璃達捨てられたの？ 僕は思わず笑ってしまった。朱璃は意味わかんない、と頬を膨らましたけれど、僕はまるでそのフィクションのような台詞が、とても可笑しいな、と思った。 捨てられたんじゃないよ。母さんはもっと大事なものを見つけてしまったんだ。 僕はそう言った。 ＃朱璃

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さっと朝食を済ませ、朱璃を見送ると僕は、コンビニのフリーペーパーを全種類とって、家に持ち帰った。 この世の中には本当にたくさん仕事があるんだな、漠然とそう思った。 その中の求人の１つにCDの梱包作業というものを見つけた。 自分にもできそうだな、と思った。 ＃朱璃

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部屋を開けると小綺麗なオフィスだった。 こんにちは。 昔、やんちゃしてたような雰囲気の20代後半位の女性が話を聞いてくれた。 面接できたんですけれど。 そう言うと、彼女は説明を始めた。 どうやら、ここは派遣会社で、梱包はその仕事の一部らしい。 ＃朱璃

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お、若いね、と後ろから、男の人が話しかけてきた。 君、梱包に興味もって来たみたいだけど、力仕事やってみない？その方が給料いいよ？ 悪戯に笑い、彼はそう言った。 僕にできますかね？ そう問うと、 大丈夫だよ。誰でもできる仕事だから。 と言われ、僕は快諾した。 ＃朱璃

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明日、仕事があるということで、その仕事を貰い、僕はそのオフィスを離れた。 こんなに簡単に仕事がもらえるのかと、少し驚いたけれど、どちらかと言えば、嬉しさの方が勝っていた。 家に帰り、朱璃に仕事をもらえたことを言うと、嬉しそうに笑った。 第二項 終 ＃朱璃

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第三項 僕はマンションの階段の途中で、箱を持ったまま動けなくなっていた。 あいつら化物かよ… 他の人は、まだ休むことなく物を運んでいた。 社員だから体力があるのか、それとも、僕に無さすぎるのかわからないが、ついていくことすらままならなかった。 ＃朱璃

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休み休みではあったけど下まで箱を運び終えると、現場のリーダーの人が話しかけてきた。 一回休憩いれようか。 その言葉と息の上がっている様子を見てほっとした。この人も人間なのだな、なんて馬鹿なことを考えた。 ベーター無いからきつかったっしょ？ 優しさが嬉しかった。 ＃朱璃

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仕事を終えて事務所に行くと、この前のお姉さんがいて、給料の手続きをしてくれた。 明日同じ所から仕事来てるんだけど、どう？ そう聞かれ僕は快諾した。 もらった一万円を握りしめ、夕飯は何を作ろうか？どうしたら朱璃は喜んでくれるだろうか？そんなことばかり考えながら帰った。 ＃朱璃

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碧ちゃん、ハンバーグ作れたの！？ パソコンでレシピを探して、画面とにらめっこして作ったハンバーグを朱璃はとても喜んだ。 家財道具を母が全て置いていってくれたのは幸いだった。 単に必要がなかったのか、それとも最後の情けだったのだろうか、僕らに必要なのは間違いなかった。 ＃朱璃

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朱璃。学校は楽しいか？ そんなことを聞いたのは単なる気まぐれだった。朱璃は うん。楽しいよ。 と、そっと笑った。 これが僕らの幸せなのだと、どんなに周りに可愛そうだと思われても、幸せなのだ。と思った。 僕は疲れていたのか、早い時間に眠ってしまい、そして夢を見た。 ＃朱璃

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君はすごいね。 誰かの声がした。目を開けると、そこにはネコがうずくまっていた。 君が喋ったの？ そう聞くとネコは そうだよ。 口を開かずに言った。 君は幸せを見つけた。それがいつまでも続くことを願うよ。 そう言われ、僕は目を覚ました。 第三項 終 ＃朱璃

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君はすごいね。 誰かの声がした。目を開けると、そこにはネコがうずくまっていた。 君が喋ったの？ そう聞くとネコは そうだよ。 口を開かずに言った。 君は幸せを見つけた。それがいつまでも続くことを願うよ。 そう言われ、僕は目を覚ました。 第三項 終 ＃朱璃

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君はすごいね。 誰かの声がした。目を開けると、そこにはネコがうずくまっていた。 君が喋ったの？ そう聞くとネコは そうだよ。 口を開かずに言った。 君は幸せを見つけた。それがいつまでも続くことを願うよ。 そう言われ、僕は目を覚ました。 第三項 終 ＃朱璃

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第四項 慣れとは怖いもので、一月も経つと僕は一人で洗濯機を階段で降ろせるようになっていた。 若いっていいねえ。 そんな風に言われたけど、僕は毎日仕事がある社員さん達が羨ましくてしょうがなかった。派遣の僕は、仕事がない日もあって、貯金を崩さないと生活できなかった。 ＃朱璃

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ある日、突然大叔父がうちを訪ねた。お金の工面をしてくれていたようだ。 この生活には慣れたか？ちゃんとしたご飯食べてるか？そんなことを聞かれた。 ほっとしたのと同時に、いつまでもこのまま負担をかけるわけにはいかないな、と思った。 明日、頼んでみよう。 ＃朱璃

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正規のバイトにねぇ… 相談したのは、いつもお世話になっている笹山という人だった。 まぁ、人足りてない訳じゃないんだけど、結構来てくれてるしね… 来週中に、面接をする事になり、その日はただ仕事をした。 何かうまくいきすぎな気もしたけれど、甘えることにした。 ＃朱璃

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家に帰ると朱璃の様子が少しおかしかった。顔を真っ赤にしてテレビを見ていた。 額に手を触れると熱かったすぐにお粥を作って、食べさせ寝かしつけた。 朝になってすぐ、派遣会社に電話した。 ごめんね。 朱璃に何度も謝られたのがただただ、悔しかった。 ＃朱璃

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数日後、朱璃もすっかり良くなり、面接を受けに行った。 面接、と言っても名ばかりのもので、気づけば、すぐに、仕事に出ていた。 トラックの中にはラジオの音が響いている。 僕はこの静かな時間が好きだった。社員さんは煙を吐き出している。 僕は鼻唄を歌った。 第四項 終 ＃朱璃