秋山信将さんによる「国防」と「安全保障」

秋山信将さん(一橋大学教授、国際政治学、国際安全保障) https://hri.ad.hit-u.ac.jp/html/202_profile_ja.html が連投された国防と安全保障をめぐるコメントをまとめました。
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nobu akiyama @nobu_akiyama

故佐藤誠三郎先生が1999年にお書きになった「『国防』がなぜ『安全保障』になったのか:日本の安全保障の基本問題との関連で」(『外交フォーラム』1999年特別号)という論文があります。最近の安保法制の議論を眺めていると、この「国防」と「安全保障」の区別できてるのかなと感じます。

2015-09-02 21:40:54
nobu akiyama @nobu_akiyama

特に「抑止力」をめぐる言説を見ていて思うのですが、国防と安全保障のダイコトミーを使っていえば、日本の「国防」という視点から抑止の対象になるものと、「安全保障」にとっての抑止の対象というのは異なっていることを皆さん意識して話をされているのかなと。もっと言えば、

2015-09-02 21:43:20
nobu akiyama @nobu_akiyama

自分が国防の話をしているのか安全保障の話をしているのか意識されているんだろうかと思うんですよね。今や、日本の安全保障は、単に他国による領土・領海や国民の生命・財産の侵害という、ある意味では狭義の「国防」だけでは確保できないということは、広く共有された認識となっていると思います。

2015-09-02 21:45:20
nobu akiyama @nobu_akiyama

もしそうでなければ、これ以降の話は成り立たないのですが、一次エネルギーの96パーセント、カロリーベースで食糧の約6割を海外からの供給に依存し、その他の貿易、金融取引など、現在の日本そのものを支える活動のグローバルな基盤を維持することも安全保障政策の重要な役割ですよね。

2015-09-02 21:47:44
nobu akiyama @nobu_akiyama

そうしたグローバルな基盤(インフラ)やコモンズ、そしてそれらを支える制度や政治的構造があって、今の日本のさまざまな活動があるわけですよね。んで、それをどう支えるか、みんなで考えないといけないと思うんですよ。「アメリカの言いなりになって、戦争に駆り出される」っていう単純なレトリック

2015-09-02 21:50:00
nobu akiyama @nobu_akiyama

とかではなくって、そういう制度や政治的構造がどう維持されてきたのか、歴史をたどってみるとアメリカの役割の大きさに気づくわけです。それは、アメポチになるとか、言いなりになるとかそういうのとはまったく違った次元の話です。好き嫌いも別としての話です。それで、現状認識ですが、

2015-09-02 21:51:42
nobu akiyama @nobu_akiyama

今、そうしたインフラやコモンズを支える制度や政治的構造が盤石ではなくなっている、それを揺るがす「脅威」の要因は何なのか、またそうした制度や構造が揺らぎそして喪失したあとに来るべき新たな国際政治の態様とはどのようなものなのか、といった不安が存在するわけです。

2015-09-02 21:53:37
nobu akiyama @nobu_akiyama

ところで、皆さんご存知だとは思いますが、securityとは、ラテン語で不安という意味のcuraに「ないこと」という接頭語のseがついてできた言葉ですよね。つまり我々の生命や生活を不安がない状態におくことがsecurityの要諦なわけじゃないですか。

2015-09-02 21:55:19
nobu akiyama @nobu_akiyama

それで、今の「不安」ですけど、例えばロシアのウクライナに対する攻勢は、直接的な軍事力の行使(つまり伝統的な戦争や武力行使)ではないけれども、そうした軍事力のアセットを別の形で活用したり、軍事力を背景にして政治的な圧力をかけたり、あるいは他の勢力を支援したりして政治的な目的を

2015-09-02 21:57:07
nobu akiyama @nobu_akiyama

達成しようとしているわけですよね。それは、多くの人たちが想定している戦争の形態ではないわけですが、非伝統的な形で軍事力、insurgencyへの支援その他の手段を組み合わせる(よくhybrid threatとかhybrid warfareと形容されますが)という、

2015-09-02 21:59:38
nobu akiyama @nobu_akiyama

リデル・ハートのいう「戦争とは他の手段をもってする政策の継続に他ならない」をまさに現在において体現するような状態です。ロシア・ウクライナ関係は二国間の間の関係性の中での話ですが、そうした軍事的アセット等の利用によって、地域の秩序であったり、そうした秩序を支える規範や制度

2015-09-02 22:01:05
nobu akiyama @nobu_akiyama

を脅かし、そして崩壊に導きかねない(国際政治における制度や規範は脆弱なものですよね)事態を抑止すること、それこそが実はいま議論されるべき「抑止力」に含まれるべきことだと思います。単に従来の概念の「戦争」の抑止ではないと思います。まあ安全保障をやっている人にはわかりきった話ですが。

2015-09-02 22:03:09
nobu akiyama @nobu_akiyama

ついでに言うと、抑止力の三要素は能力、意思、そして認識です。安保法制に反対している人たちは、安倍政権は軍事力による抑止ばかり言って対話が足りない、というような批判をする方々がいます。どこかの学生さんも、相手とお酒を飲んで分かり合えば戦争は防げると行っていました。その心意気は◎です

2015-09-02 22:05:09
nobu akiyama @nobu_akiyama

しかし、実は抑止(特に相互抑止)が成り立つためには、両者の間にそれなりに意思の疎通が成り立っていなければならないのです。相互に抑止が効いているという相互の認識があれば、ガルトゥング博士の言う「消極的安全保障」くらいは成り立つでしょう。しかし「積極的安全保障」の状態に至るには、

2015-09-02 22:06:45
nobu akiyama @nobu_akiyama

単なる対話だけでは不十分で、共通の政策目標の共有であるとか相互の国益の親和性であったりが必要ですよね。果たして、今の東アジアにおいてそこまでの深い意思疎通ができているのでしょうか。というかそもそも相手は共通の目標、国益の親和性を望んでいるのでしょうか。

2015-09-02 22:08:48
nobu akiyama @nobu_akiyama

もし、これらの疑問に対して確信をもってYESと答えることができないのであれば、まずは、国際安全保障の共通の言語である軍事力を通じた「対話」、すなわち軍事面での信頼醸成が現実的な目標として浮上してくるのではないでしょうか。しかし、私の限られた情報から理解する限り、

2015-09-02 22:10:37
nobu akiyama @nobu_akiyama

我々が信頼醸成の対象としなければいけない近隣の国は、表面的には信頼醸成や対話を望むものの、実質的な理解が深まるような透明性の担保などには不誠実な対応しかしていません。私の研究している核軍縮、核不拡散、軍備管理では、かの国を相手にするのは非常にフラストレーションの溜まる事です。

2015-09-02 22:12:29
nobu akiyama @nobu_akiyama

であるならば、観念的な平和論を全く取り下げるべきとは思いませんが、同時に現実的なリスクヘッジとしての安全保障政策の追求をするのは、責任のある政府の態度としては必要なことではないかと思います。 以前、原発事故に絡んで「絶対安全神話」という概念が取り上げられました。

2015-09-02 22:15:39
nobu akiyama @nobu_akiyama

これは、あるべき姿を非妥協的に追求するがゆえに観念論的な安全性の議論に支配された空気の中で非現実的な政策選択を行った(選択した側からすれば、取り巻く環境によって選択を迫られたということかもしれません)結果でした。安全保障政策の選択においてあってはならないことだと思います。

2015-09-02 22:18:52
nobu akiyama @nobu_akiyama

僕は、政府も、野党も、賛否両側の研究者も、市民も、日本を取り巻く国際環境と今の日本の活動を支えているインフラやコモンズ、あるいは国際的な制度の現状をしっかりと議論するというそもそも論(まあそんな時間はないんでしょうけど)をやったって罰は当たらないと思いますけどね…

2015-09-02 22:20:57
nobu akiyama @nobu_akiyama

冷徹なリスク評価があって、リスク低減策とリスクヘッジがあり、残余リスクに対するミティゲーションを考えるという立論の手順をしっかり踏むべきだと思います。

2015-09-02 22:22:37