戦前戦中の日本の電線は紙で巻いただけだった?そんなことはなかった話

経年劣化で天然ゴムの部分がなくなってたというお話だったようです
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TFR_BIGMOSA(首輪付きの大猫、地球長期滞在者) @TFR_BIGMOSA

天然ゴムは鋼に馴染まない。この両者は接着性が悪い組み合わせなので、昔ゴムタイヤのカーカス(ベルト?)として鋼線を使おうとしたメーカーは苦心した。銅は天然ゴムとの接着性が良い。そこで鋼線に銅メッキすることで、スチールベルトを用いたタイヤが実現した。

2015-09-02 17:49:10
TFR_BIGMOSA(首輪付きの大猫、地球長期滞在者) @TFR_BIGMOSA

さて、電線業界では従来から逆の悩みがあった。銅線にゴム被覆を施すと、しっかりと接着してしまっていろいろと困るのだ。そこで、セパレーターとして(絶縁強化を兼ねて)銅線に紙を巻いてからゴム被覆を施した。ビニール被覆電線が登場するまではこれが普通だった。

2015-09-02 17:51:39
TFR_BIGMOSA(首輪付きの大猫、地球長期滞在者) @TFR_BIGMOSA

よりによって職場で「昔の日本軍の飛行機の電線は銅線に紙を巻いただけだった」と言う言葉を聞いてしまったので、思わず呟いてしまった。大戦当時に日本で製造された電子機器がオークションなどに出てくるとき、経年劣化によってゴム被覆が失われセパレーターしか残ってないことがある。

2015-09-02 17:53:19
TFR_BIGMOSA(首輪付きの大猫、地球長期滞在者) @TFR_BIGMOSA

そんな場合でも仔細に観察すると端子部あたりにゴム被覆の痕跡が残っていたりする。また、スミソニアン博物館で保存されているいくつかの日本製軍用無線機だとゴム被覆が残っているものがある。

2015-09-02 17:54:22
TFR_BIGMOSA(首輪付きの大猫、地球長期滞在者) @TFR_BIGMOSA

また、大戦末期の窮乏した状況では出荷時からセパレーターを巻いただけのものがあったかもしれない。あるいは出荷時はゴム被覆されていても、戦地に到着したときにはセパレーターしか残ってない、なんて話もあったかもしれない。

2015-09-02 17:56:37
TFR_BIGMOSA(首輪付きの大猫、地球長期滞在者) @TFR_BIGMOSA

だがそれらの可能性を文献や証言から調べようとす試みは「日本の電線は銅線に紙を巻いただけ」伝説で上書きされてしまい、一向に進まない。正直、この説を広めた何人かの戦記漫画家と戦史家に文句を言いたいところだ。

2015-09-02 17:58:03
TFR_BIGMOSA(首輪付きの大猫、地球長期滞在者) @TFR_BIGMOSA

あと、特に若い人が多いはずの「艦隊これくしょん」系のサイトなどで「日本の電線は銅線に紙を巻いただけ」と言う人を見かけるとなんとも言いがたい気分になる。今日は仕事が早く終わったので文句を呟く気力もあるが、普段は諦めている。

2015-09-02 18:01:23
TFR_BIGMOSA(首輪付きの大猫、地球長期滞在者) @TFR_BIGMOSA

なお、エンジンのスパークプラグケーブルの場合は油の付着する可能性が高いので天然ゴム被覆の上にチオナイトゴム被覆がなされた。そしてさらにその上に銅の平編み線によるシールドがなされた。

2015-09-02 18:07:03
TFR_BIGMOSA(首輪付きの大猫、地球長期滞在者) @TFR_BIGMOSA

同じ頃、連合国ではすでに被覆用のビニールが大量生産されて使われていた。銅線に紙を巻く必要もなく、耐熱性に難があるチオナイトで保護しなくてもビニール自身が優れた耐油性を持つ。

2015-09-02 18:10:07
TFR_BIGMOSA(首輪付きの大猫、地球長期滞在者) @TFR_BIGMOSA

といったい具合に日本の電線産業は連合国に対して劣っていた。レーダーやVHF無線機に至っては「曲げてはいけない同軸ケーブル」が使われていたりもしたくらいだ。

2015-09-02 18:11:07
鷹見一幸 @takamikazuyuki

@TFR_BIGMOSA 私の父は、大正生まれで、戦時中に海軍工廠におりましたが、大戦末期の昭和19年頃受領した電線は、ゴムの欠乏で被覆は銅線に紙を巻いた上からエナメルを塗ったものを使用していたそうです。曲げると剥落するため、配線した後にエナメルを塗り直したそうです。

2015-09-02 18:06:13
TFR_BIGMOSA(首輪付きの大猫、地球長期滞在者) @TFR_BIGMOSA

@takamikazuyuki 証言紹介ありがとうございます。そして質問があります。エナメル線に紙を巻くのでなく、紙の上からエナメルですか?

2015-09-02 18:17:44
鷹見一幸 @takamikazuyuki

@TFR_BIGMOSA 銅線にエナメルを塗った上から和紙を巻き、その上からさらに厚めに、ぼったりとエナメル塗料が塗ってあったそうです。曲げると塗膜にヒビが入って剥落するので、塗り直しの手間が大変だった。と聞いております。

2015-09-02 18:24:30
足柄矢矧@転職活動中 @ashigara_yahagi

@TFR_BIGMOSA 日本は開戦時にマレー半島を抑えていて天然ゴムは輸送が途絶えるまで在庫が潤沢にあり贅沢に使える状況にあった、ということを完全に忘れている人が多い、という点に尽きるのではないかと思います。仮に自分が指摘しても詮無きことではありますが……

2015-09-02 18:14:29
TFR_BIGMOSA(首輪付きの大猫、地球長期滞在者) @TFR_BIGMOSA

@ashigara_yahagi ご指摘感謝します。対日戦争開始後、アメリカではマレーの天然ゴムが入手できなくなったことからデュポン等に合成ゴムの研究を開始させています。短い期間ですが、日本がアメリカに対して資源量の優位を得た数少ない品目ですね。

2015-09-02 18:22:57
Msg. Merwin J. Toome @bco_100bn

@TFR_BIGMOSA 具体的に何年頃からビニールで覆われた物になるのでしょうか? レストアや考証に役立ちますのでご教示ください。

2015-09-02 18:22:07
TFR_BIGMOSA(首輪付きの大猫、地球長期滞在者) @TFR_BIGMOSA

@bco_100bn 1926年にグッドリッジが生産開始していることは掴めましたが、米軍での制式採用年度はまだ掴めていません。フィリピンで鹵獲された米軍無線機はセパレーター配線だったりビニールだったりしたようです。

2015-09-02 18:31:20
TFR_BIGMOSA(首輪付きの大猫、地球長期滞在者) @TFR_BIGMOSA

普段は諦めているが、今日はwebで何かを書くことで見返り(つまり新たな知見)が得られた。良い水曜日だった。

2015-09-02 18:19:59