(漫画原作者、元編集者の)喜多野土竜先生による「電子書籍と出版の未来」についての意見

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喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

【電子書籍と出版の未来】出版は不況に強いと言われる。戦前、不況でも羽振りが良く、そういうイメージが出来たらしい。実際、バブルが崩壊して以降も出版社の業績は上がり続け、1995年ごろまで伸び続けた。しかし、以降は右肩下がり。このため、出版社は出版点数を増やす事で穴埋めしようとした。

2011-01-08 12:25:25
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

02:下手な鉄砲も数打ちゃ当たるの時代から、販売部から売れる根拠・確実に売れるコンテンツを求められ、実績のあるベテラン作家の文庫本や再編集本が大量に投入され、コンビニには廉価本が溢れた(これはBOOKOFF対策もある)。しかしこれは一種の蛸の足食い状態。結果、新人が割を食う事に。

2011-01-08 12:31:03
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

03:最近はそうでもないが、平成も一桁代の頃は出版社には「一度上げた原稿料は下げられない」という不文律があり、漫画が超優良の成長産業だった頃にガンガン原稿料が上がったベテランは、原稿料を下げられないので切るしかないという、変な状況があった。もっとも雑誌の看板作家はそうはいかない。

2011-01-08 12:36:08
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

04:結果、看板作家はゴネれば原稿料が上がり、中堅作家が切られ、新人の原稿料が昔ほど上がらないという状況が生まれた。ただ、あるベテラン作家は同世代の作家の中ではかなり知名度があるのに、原稿料が相場の3分の1。調子に乗って原稿料を上げて切られた仲間を見てきたから、上げないとのこと。

2011-01-08 12:43:05
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

05:そういう自己防衛をする作家は一握り。文庫本や廉価本の収入も併せて、業界内の老若の格差が広がった。しかし、どんな業界もそうだが、新しい血が入って来ない世界は淀み、廃れる。才能を発掘できず、安かろう悪かろうとわかっていても、比較的原稿料が安い中堅作家に頼った本作りでは限界。

2011-01-08 12:49:31
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

06:元々、漫画というのは雑誌で売って利益を出すものであり、原稿料は安いものだった。それは『ゲゲゲの女房』で描かれた貸本時代から売り切り雑誌への過渡期の時代もそう。漫画は読み捨てるものであり、原稿の扱いも書き捨てる物だった。出版社見学にきた子供に、生原稿をあげるという行為も普通。

2011-01-08 12:56:08
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

07:ところが元小学館の社員が独立、雑誌に連載された作品を単行本としてまとめて売りたいと申し出て、そんな一度読んだ物が売れるはずがないと小学館も了承。こうして、秋田書店からサンデーコミックスが発売。『どろろ』や『鉄人28号』が同レーベルなのはこのため。ところが、これがバカ売れ。

2011-01-08 13:03:48
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

07:結果、他社も独自のレーベルを立ち上げ、単行本販売に力を入れる。そして、漫画の収益構造が変わってしまった。単行本で莫大な利益が出るため、雑誌は赤字でもいいという構造になり、漫画家の原稿料もあがる。こうして、90%以上売れないと黒字が出ない・完売しても黒字が出ない雑誌が増えた。

2011-01-08 13:09:53
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

09:この構造の変化は、音楽業界と一部似る。本来はライブの演奏で日銭を稼ぐのが芸人の在り方だったのに、ラジオ(後にはテレビも)で楽曲を流してもらって、レコードの売り上げがメインとなるという状態。それでもプレスリーはライブを大事にしていたが、ビートルズのあたりで、大きく転換する。

2011-01-08 13:14:07
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

10:ビートルズに限らないが、時代の代表として生声とレコードの差を指摘された。またコンサートもファンの歓声で歌がほとんど聞こえないという状況に辟易し、アルバム制作に時間をかけ、ツアーは何年もストップという状況が、多くのアーティストで見られるようになる。良い悪いではなくそう変化。

2011-01-08 13:18:41
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

11:ビートルズは特殊な事情があったが、後続がスタイルを真似する。漫画家も「単行本で修正すればいいや」という慢心(より完成度を高めようと手を加えるのとは別)が生まれて、ライブの場の雑誌が荒れても、気にしなくなった。でも、そういう幸せな時代も、レコードや単行本が売れなくなると…。

2011-01-08 13:24:36
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

12:音楽業界の場合は、何百年もある出版業界と違って、狭い意味では新興勢力。そういう意味では、わりと出版業界の先駆となっている部分がある。CDの登場によるデジタル化とか、一部の好事家が音質の違いを言い立ててレコードを擁護しても、世はCDになったように、出版もDTPが主流に。

2011-01-08 14:11:01
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

13:また、iTunesMusicStoreの登場で、ダウンロード販売の方への移行もわりとスムーズ。細かい部分では異論もあろうが、少なくともレコードが売れない時代は出版に先んじてた訳で、アメリカと日本の流通形態の違いもあって、楽曲のダウンロード販売は拡大の一途。でもここで問題が。

2011-01-08 14:15:58
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

14:映画評論家の町山智浩さんがアメリカの音楽事情を『ストリーム』などで語っていたが、アメリカでも若手はヒットが出てもなかなか儲からない構造が出始めていると。音楽レーベルはそれなりに設けても、創作者や表現者には還元されない構造。これは日本の漫画業界も同じ(一部の人気雑誌以外)。

2011-01-08 14:21:02
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

15:アメリカの場合、例えばプリンスはCDはもう無料でバラマキ、代わりにライブで収益を上げるという構造を選択した。でもこれって、本来の芸能で身を立てる物の正道でもある。世界一アルバム(スリラー)を売ったマイケル・ジャクソンが、ツアー再開の矢先に急死したのは、時代の変化の暗示か?

2011-01-08 14:24:08
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

16:例えば、落語。若い人にはピンと来ないかもしれないが、かつては娯楽の王者だった。江戸には数百件の寄席があり、落語家はそこを梯子して演じていたが、今は新宿末広亭・池袋演芸場・上野鈴本などしかなく、広小路亭や両国寄席など定席でないものも含めても少ない。

2011-01-08 14:28:39
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

17:定席に出られるのは基本、落語協会と落語芸術協会に所属する落語家だけ。寄席の出演料は安く、ハッキリ言って儲からない。落語家としては独演会や、司会などの営業の方が儲かる。だが、新人が育つ場としての寄席は必要なので、寄席の経営者(席亭)は協会の幹部と協議し、人気落語家を入れる。

2011-01-08 14:32:27
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

18:昔、落語協会が分裂する騒動があったが、分裂した側の副会長であった古今亭志ん朝師は、新協会が寄席から閉めだされたため、それでは弟子を育てられないと、落語協会側に頭を下げて復帰。三遊亭圓生の一門は意地を通し、独演会や営業の方に力をいれるが圓生が急死。他の弟子は協会に復帰した。

2011-01-08 14:35:05
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

19:だが、圓生の一番弟子だった圓楽は復帰を拒み、円楽党として活動を続ける。若手育成の場として、『若竹』という寄席を経営するが、後に閉鎖の憂き目に。だが、後に協会分裂を画策した張本人とされる立川談志師は協会から脱退、立川流を設立する。立川流は独自の寄席経営には乗り出さなかった。

2011-01-08 14:38:28
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

20:これは、談志師がかつて寄席経営の経験があり、旧来の寄席による新人育成システムの限界を感じていたためか。立川流はこの時、立川志の輔という稀有な才能を得て、寄席システムに頼らなくても食っていける落語家のシステムを、模索し成功する。志の輔を手本に、談春・志らく・談笑の俊英が出る。

2011-01-08 14:42:32
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

21:寄席若竹を閉鎖した円楽党だが、笑点という場を確保していたため、両国寄せを中心とした活動でも安定して若手を育成している(自分の好みではないが)。立川流も、日暮里と上野広小路で定期的に一門会を開いているが、基本的によせえの教習を持つ古参の弟子と若手が中心。

2011-01-08 14:45:34
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

22:さて、長々と落語の噺をしたのは、漫画業界の構造とやや似ているため。漫画家も、世に出るためには雑誌などに作品が掲載されないと難しかった。出版社などを通して全国流通させないとダメなわけで、無名の新人作家は人気作家が多数執筆し、それなりの部数がある雑誌だからこそ注目してもらえる。

2011-01-08 14:48:43
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

23:人気落語家が出演するからこそ客は寄席に足を運び、そこで意外と自分の肌に合う若手や、将来性のある前座を見つけ、彼らの贔屓になり独演会などにも足を運ぶ。寄席が雑誌なら、単行本が独演会(同人誌は営業か?)。ところが、中堅出版社はもちろん、大手出版社でもこの構造が壊れつつある。

2011-01-08 14:51:19
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

24:単行本の収益を重視しすぎたあまり、一話ごとの読み応えは低く、単行本でまとめて読んでようやく面白い作品が量産され、一話完結型の難しい作品作りが敬遠された(書き手としても毎週引きを作る作品作りのほうが、一話で起承転結付けてアイデアも必要な短編やレギュラーストーリーは大変)。

2011-01-08 14:56:26
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

25:現在のマンガ業界では、確実に数が見込めるオタク向けの雑誌作りが多く、けっきょく単行本型のビジネスモデルに依存している。だが本来、来週・来月もその本を買おうと思わせる作品を大切にすべきなのだが、雑誌は赤字で当然というスタイルに慣れてしまい、単行本重視の本作をする。

2011-01-08 14:59:49