「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」 #3

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
5
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」#3

2011-01-09 22:27:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

武装霊柩車を駆るデッドムーンは、指定された場所へと向かっていた。重金属酸性雨がフロントガラスにまとわりつき、銀色のワイパーがそれを左右に振り払う。デッドムーンは愛車の制御システムとの間でLANケーブル直結を行っており、雨のまとわりつくアンニュイさまでもがニューロンに伝わってくる。

2011-01-09 22:30:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「一億か……」熟練の霊柩車ドライバーである彼にとっても、相当でかいヤマだ。彼は感情をフラットにする方法を武装霊柩車ドライバーの師匠ゲバタから学び、殺人機械のように淡々と運びをこなしてきたが、それでも今回は金額が金額だ。音楽と酒を少し足さねばなるまいと考え、ラジオのスイッチを捻る。

2011-01-09 22:32:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

するとハードコア・ヤクザパンクバンド『ケジメド』の高速チューンが流れ出した。フロントマンのタケシは両手の中指以外をケジメしていることで若者に人気がある。「アーッ?未来!未来!未来!もう無い?未来!未来!未来は今!未来!未来!未来!もう無い?未来!未来!アーッ?アーッ?アーッ!!」

2011-01-09 22:35:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

耳の奥をナイフで切り刻まれるような、性急で生々しい音が車内に響いた。運転が乱れる。「ブッダファック……!」デッドムーンは小さく舌打ちし、さらにスイッチを捻って、レトロなエレクトロ・ダークポップ・チャンネルを探し当てる。

2011-01-09 22:40:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ズッタンズタタン、ズッタンズタタン、ビュッイーン、ビュビュイーン…。心安らぐ電子音とBPMだ。それでいてロケット発射秒読みのような緊迫感がある。真の男はこれを聞かねばならぬ、と彼は常々考えていた。ダッシュボードに置かれたテキーラを呑み乾す頃、指定された廃コロシアムが視界に入った。

2011-01-09 22:45:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ウォーミングアップのように、デッドムーンは廃コロシアム前のトリイ下で愛車ネズミハヤイを素早くドリフトさせ、クロームシルバーに塗装されたカワラから重金属酸性雨の雨粒を振り払った。無線IRCチャンネルが自動ログインを促し、そのまま前進するようクライアントからの短いメッセージが入る。

2011-01-09 22:49:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

4個のヘッドライトを照らすと、廃コロシアムの中央に築かれた土俵の残骸付近に、黒いスーツを着てマシンガンで武装した数名の屈強なヤクザたちと、それに護衛される白衣を着た医療関係者らしき男女が見えた。デッドムーンは土俵際で愛車を止め、左右のドアと、柩を納めるためのバックドアを開ける。

2011-01-09 22:55:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

デッドームーンが親指で車体後方の移動式シュラインを指示すると、クローンヤクザたちが数人がかりで真っ黒い鋼鉄製の柩を担ぎ、シュラインの中の畳の上に収めた。デッドムーンは、誰が死んだかには興味を持たない。それが武装霊柩車ドライバーのプロフェッショナルとしての掟の一つだからだ。

2011-01-09 22:59:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「クライアント様は誰だい?」デッドムーンは、無人スシバーの案内音声のように平坦で無感動な声で聞いた。「センセイは思考実験で忙しいから、私がやるわ」胸元が強調された白のPVC白衣を着たオレンジボブカットの女性が、漆塗りオボン状のIRCトランスミッターを持って土俵から降りてきた。

2011-01-09 23:07:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「手付金は100万、素子でいい?」「ああ」「確認なさい」デッドムーンは受け取った素子を、サイバネ義手のスロットにはめ込む。網膜内に緑色のドットで『百万』の文字が映し出された。「残りは成功報酬か?」「ええ、テンプルで渡されるわ」女はデッドムーンの露出した胸板を見て淫靡な笑みを作る。

2011-01-09 23:16:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「潜在敵を全て教えてくれ」とデッドムーン。武装霊柩車の仕事は、敵対するヤクザクランなどの攻撃をかわしながら、病院やヤクザの家からテンプルまでクライアントの遺体を安全に運ぶことだ。奥に作られた医療設備を見る限り、この連中は真のクライアントの中継ぎをしているモグリの医者か何かだろう。

2011-01-09 23:24:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「潜在敵は1人よ」「1人だと? 1人に一億を払うというのか?」デッドムーンは怪訝な顔を作る。「相手は、1人でヤクザクラン数個分に匹敵する殺し屋なの。…うちのヤクザを1人、武装霊柩車の助手席に載せてもらうわ。敵の詳細はそのヤクザから聞きなさい」「了解だ」深入りはしない、それが掟だ。

2011-01-09 23:28:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「目的地は?」「これよ」女はオボン状IRCトランスミッターの3D画像機能を操作する。オボンの縁が、PVC白衣に隠された豊満なバストに呑みこまれた。緑色のワイヤフレームで、ネオサイタマ南西部の道路網が3D表示される。「ダルマ・テンプルに、今日のウシミツ・アワーを目処に入棺しなさい」

2011-01-09 23:37:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「経由したいテンプルや、希望のルートはあるか? フジサンの麓まで行って戻るオプションもあるが?」「無いわ。時間が迫っているから。ちなみに、プログラムが弾き出した最速ルートはこれよ」ボブカットの女が細い指先でオボンタブレットを操作すると、上に浮き出した3D画像に推奨ルートが現れた。

2011-01-09 23:41:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「全く駄目だ。狙撃を受けやすいビル街が20ヶ所以上ある」デッドムーンはかぶりを振って、自らの指でタブレットの表面をなぞり、別ルートを提示する。「俺ならここを通る。建造中止になったグラントリイ・ブリッジだ。時間も短縮できる」「いいわ、好きになさい。ミスター・プロフェッショナルさん」

2011-01-09 23:46:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

デッドムーンは愛車ネズミハヤイの運転席に納まり、一足先にドアを閉める。女の強すぎる香水が鼻腔に残り、偏頭痛をうながし、彼をいらいらとさせた。少し待っていると、助手席に件のヤクザが乗り込んできた。左の顔面1時から4時までの部分が存在せず、サイバネティック・カメラが埋め込まれている。

2011-01-09 23:51:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(監視役というわけか? 1億ともなれば、不思議な話ではない。さて、ネオサイタマ湾のグラントリイ・ブリッジで陰気なヤクザとドライブを楽しみながら、たった一人の潜在敵というやつを聞かせてもらおうじゃないか…) デッドムーンはアクセルを踏み、二度と引き返せない死へのドライブを開始した。

2011-01-09 23:59:45