黄昏町(柊)五十六日目

情報屋。 初日/一日目→http://togetter.com/li/849906 前日/五十五日目→http://togetter.com/li/878163 翌日/五十七日目→http://togetter.com/li/881146
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@hiiragi_r_t_d

【五十六日目】 【魂15/力13/探索5】 【異形】複口(力+2、探索+1)、長指(力+1、探索+2)、鬼腕(力+5)、竜尾(力+5)、触角(探索+2) #hollytk

2015-09-30 17:07:53
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私と巳穂は、ぶらぶらと道を歩いていた。ここは学校から伸びる一本道。何度も通った、この町では数少ない見慣れた道だ。 私の横を歩く巳穂は懐かしそうに周囲を見回しては、時おり隣を歩く私を見て微笑みを浮かべている。 01 #hollytk

2015-09-30 17:15:11
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そうニコニコと眺められると、どうも居心地が悪い。私は気になっていた事を巳穂に聞いてみた。 「どうして巳穂は縁日を出たんだ?あそこは安全でいい場所だと思うのだが」 「あそこは安全ですが、楽しくはないのですよ。それに」 巳穂は私に向き直ると、竜尾で引き寄せる。 02 #hollytk

2015-09-30 17:17:37
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巳穂の顔が近付く。縦長の瞳がじっと私を見据え、蛇達の吐く息が私の触角を揺らす。 「貴方様がいつまで待っても来てくださらないから、我慢出来なくて」 「……そうか、すまなかったな」 「事情は分かっておりますわ。分かっていても、我慢出来ないものなのです」 03 #hollytk

2015-09-30 17:20:00
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「で、巳穂はこれからどうするつもりなんだ?出口を探すのか?」 「特には決めておりませんわ。最大の目的は達したのですから」 そう言うと巳穂は私の手を取り、軽く握る。 「私は、貴方様に会いに来たのですから」 「……やれやれ。困った娘だ」 04 #hollytk

2015-09-30 17:22:29
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それを聞いた巳穂の表情が曇る。 「む……娘?」 「ああ、私はそう思っているのだが……迷惑だったか?」 「いえ、その……迷惑では、ないのですが…うう……」 巳穂は難しい顔をして唸る。 「どうかしたのか?怪我をしているなら早めに言った方がいい」 「大丈夫です」 05 #hollytk

2015-09-30 17:24:07
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ふい、とそっぽを向いてしまった巳穂を見ながら、私は頭を掻く。 と、そこに声がかかる。 「おーい!そこのお二人さん!」 私と巳穂がそちらを見ると、丸々と太り、スーツを来た猪が駆けてきた。 「あれは……?」 06 #hollytk

2015-09-30 17:26:33
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「どうします?騙し討ちかも」 「まあ待て。聞いたことがある」 蛇髪が鎌首をもたげ、今にも襲いかからんとする巳穂を抑えながら、私は猪に目を凝らす。 お世辞にも筋肉のあるようには見えない手足。はちきれんばかりの腹。 「あれはきっと、情報屋だ」 07 #hollytk

2015-09-30 17:28:37
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「ふう、ふう、ふう……情報、いるかい」 巳穂がガックリと脱力するのを横目に見ながら、私は彼に話しかける。 「すいません、もしかして世々木さんですか?」 「ああ、僕が世々木 太郎だが……君、どこかで会った?」 「いや、会った事はないはずですよ」 08 #hollytk

2015-09-30 17:30:58
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「だよな。ふう、ふう、僕は物覚えがいいほうだし。はあ、はあ、君はどこで僕の名前を知ったのかな?」 「えっとですね。まず少し落ち着いて、深呼吸してください」 私達三人は公園に移動し、猪男をベンチに座らせた。 09 #hollytk

2015-09-30 17:32:54
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「ええと、貴方の名前は奥さん…貴世さんに聞きました」 「貴世に会ったのかい!!」 猪男が立ち上がり、腹を揺らして私に詰め寄る。気持ちは分からないでもないが暑苦しい。 「で、貴世はどこにいるんだい!教えてくれ!」 10 #hollytk

2015-09-30 17:34:09
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「ですから落ち着いて……貴世さんは自宅にいます。貴方と同じように情報屋をやっているようです」 「そうか……貴世は家に……ありがとう。やっと気持ちが落ち着いたよ」 そう言うと猪男はどっかとベンチに座り込み、ネクタイを緩めた。 11 #hollytk

2015-09-30 17:36:12
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しばらく彼はそうやって休んでいたが、ふっと顔を引き締めると、私にベンチの隣を勧めた。 「ちょいと話を聞かせてくれ。町以外のことも是非にな。」 「貴方の奥さんにも話した事ばかりですが、構いませんか?」 12 #hollytk

2015-09-30 17:38:19
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「構わないとも!そちらこそ二度手間になってしまってすまねえな。謝礼は弾ませてもらう」 私は彼に、貴世さんに語ったのとおおむね同じ事を話した。違う点は竜の成体についてと、巳穂が語った縁日の仕組み。 「ふむふむ……ありがとう二人共。それじゃあお礼をしねえとな」 13 #hollytk

2015-09-30 17:40:24
@hiiragi_r_t_d

パタリと手帳を閉じた彼は、懐から笛を取り出すと景気良く吹き始めた。 ほら貝のような独特の音色が響き渡る。 しばらく吹き続けると、彼方から陽気なラッパの声が答えた。 ゆっくりと歩いてきたのはラーメンの屋台車を引く男。パッカパッカと蹄がアスファルトを叩く。 14 #hollytk

2015-09-30 17:42:12
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「へいらっしゃい!何にいたしやしょうか!」 「とりあえず僕はいつもの豚骨ラーメン肉増しで」 「あいよっ!」 「二人はどうする?好きに頼みな」 なるほど、謝礼はラーメン一杯らしい。 15 #hollytk

2015-09-30 17:44:18
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「では、私は醤油ラーメン。トッピングは……そうですね。メンマ増し」 「私も醤油ラーメン、トッピングは味玉にいたしますわ」 「あいよっ!」 しばらく待つと私達の前には湯気の立ち上るかぐわしいスープと縮れた麺が現れた。 16 #hollytk

2015-09-30 17:46:24
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そこから先の行動に説明は必要ないだろう。私達は大いに食べた。替え玉は無料だった。 17 #hollytk

2015-09-30 17:47:04
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「「「ごちそうさまでした」」」 「あいよっ!また呼んでくれよな!」 私達が席を立つと、男は再び荷車を引き始めた。 「とても美味しかったですわね」 「巳穂も意外と食べるのだね」 「あら、沢山食べる女はお嫌いだったかしら?」 19 #hollytk

2015-09-30 17:50:11
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「まさか。食べる事は良いことだ」 味玉をとても美味しそうに食べている巳穂の姿は、見ているこちらまで幸せにしてくれる。 「うふふ、それは良かったですわ。貴方様に嫌われたら、生きていられませんもの」 巳穂は私の肩に頭を預け、こちらを見上げる。 20 #hollytk

2015-09-30 17:52:13
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「じゃ、じゃあここらで邪魔者は退散するぜ」 猪男は席を立つと尻に火がついたように駆けていった。 「あ、ありがとうございました。ってもう見えなくなってしまいましたね」 逃げ足には自信があるようだ。 「巳穂、折角会えたのに追い払ってはいけないよ」 21 #hollytk

2015-09-30 17:54:21
@hiiragi_r_t_d

「もう用事は済みましたでしょう?」 そう言うと巳穂は更に私に密着する。 「ねえ、貴方様……私にも聞かせて下さいませんか?」 「情報屋に話している間、ずっと隣で聞いていたじゃないか」 「そうじゃありませんの。貴方様が、この町に来る前の事が知りたいのです」 22 #hollytk

2015-09-30 17:56:04
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僅かに潤む縦長の瞳が、じっと私の目を覗き込む。 「ねぇ、いいでしょう?あの娘にも話したのですから」 カスカに話した事もお見通しらしい。 「ふふ。女の勘、ですわ」 「……やれやれ」 今日はもう遅い。残り少ない時間を、寝物語に使うのも悪くは無いだろう。 23 #hollytk

2015-09-30 17:58:08
@hiiragi_r_t_d

「占い師はなんでも知ってるんじゃないのか?」 「貴方様の口から聴かせて欲しいのですよ」 私は巳穂に膝枕をしながら、カスカに話した事をもう一度聞かせてやることにした。 巳穂の瞳に映る夕焼け空を見て、昔家族で見に行った紅葉を思い出した。 まずはそこから話そう。 24 #hollytk

2015-09-30 18:00:37