ロンググッバイ　#同題ffTB

俺が星の街を離れる時、あんたは見送りには来ない。俺はいつもひっそり早朝にあんたにキスして家を出る。合鍵があんたの体温を宿して温かい。ポケットの中で握り締めながらそっと玄関から踏み出す。次いつ帰れるかな。そんなことを思いながらこの街に腰を据えない俺をあんたはいつまで待つだろうと。

2015-10-05 23:55:26

そんなぐにもつかないことを考えては少し振り返り、人気のないポーチを見やって情けない顔で苦笑する。だから人気のない朝ばかり俺は選んで出るんだ。空港への道すがらはあんたのかけてくれた言葉や掌の温かさが、まだ暗い道の標になる。あんたの手を初めて握った夜、俺手をあらえなかった。

2015-10-05 23:59:43

あんたの手の暖かさを洗って流してしまえなかった。あんたが俺の色んなところに触れて残したかけらが俺からぽろぽろ落ちていくたびに泣きそうなくらいに胸が痛いことがあるってあんたは多分しらない。知らなくていいと思う。本当は離れてなんていたくないのかもしれない。

2015-10-06 00:02:55

ずっとずっとあんたの傍にいたいのかもしれない。だけど留まる事への不安が同じくらいの強さで俺を外へ引っ張る。まるで俺は周回軌道に乗った衛星みたいだ。あんたって星に落ちていくこともできないまま、離れることも出来ずにあんたの周りを回っている星みたい。

2015-10-06 00:04:59

あんたの知ってる俺は、星の街以外を転々としている俺で。一所にとどまる俺じゃないんじゃないかって思うんだ。だからあんたが寝てる間に、キスだけ残していつもの起動に戻るよ。目深に被ったキャップとスタイリッシュとは真逆のばっさばさの格好で今日何度目の感傷をやり過ごして搭乗ロビーへ向かう。

2015-10-06 00:08:51

いつもへ通路側なのに、今日の便はたまたま窓側が取れた。見るとはなしにぼんやり見ていたSB国際空港。あれ？と思った。何かが視界の端にひっかかった。なんだろ。空港の屋上。小さな黒い人影が見える。なぁ、嘘だよな。あんたに見えるけど嘘だよな。だってあんた俺がキスしてもぐっすりだっただろ。

2015-10-06 00:11:49

あんたはただフェンスにもたれかかって腕を組んで。見送りって風情じゃぜんぜんない。俺が気づいてなかっただけで、あんた毎回そこから俺をみてたのか。ただ見てたのかよ。窓から必死に目をそらして俯くと膝の上に涙がぽたぽた落ちた。その日が俺が「周回軌道」からおさらばした日。

2015-10-06 00:15:29

いつまであんたが待っててくれるんだろうとくだらねぇ悩みに、俺が俺でなきゃあんたは俺なんて忘れちまうだろう何て悪い想像に、きっぱり別れを告げて星の街にどっどーんと大きなクレーター開ける覚悟で飛び降りた日。俺の風穴にロンググッバイした記念日だ。　ロンググッバイ #同題ffTB

2015-10-06 00:18:19