【秋、ぎりぎり】 福間健二 #k2fact128

福間健二 @acasaazul

追いつこうとして苦しむ靴ではない。その滴をたらしていいのは。靴の踏む落葉だ。木は動かない。人は動く。動いて壊れていく。夕べの雲とその下の灯る線を見ながら、六十代の、二人の男が立ち話している。山をおりてきた。トリカブトの紫の花を見てきた。（秋、ぎりぎり１） #k2fact128

福間健二 @acasaazul

ゆっくりと歩いた。自分たちを薄くして死者に語らせた。枝豆、おいしい。トマト、おいしい。ニンジンの葉、おいしい。本も新聞も読まないが、ラジオでニュースと音楽を聞く。この夏からコーヒーに砂糖を入れるようになった。できるだけ座らないようにして。（秋、ぎりぎり２）#k2fact128

福間健二 @acasaazul

三人、もう同じ夢のブランコに乗らない。着地の下手なのは似たようなものだが、遠のく光、破片、孤独な心で、ちがう地図をつくる。二人、高音と低音。たがいに、たがいの、贈り物の意味を誤解したまま。おしっこ、どこでしようか。そこの道端でも大丈夫だよ。（秋、ぎりぎり３）#k2fact128

福間健二 @acasaazul

ひとり、虚空からの最終提案を受け入れて、傷ついた唇をなめる。スプーンを持ってきましょうか。すぐに二人と二人の夜になるのだとしても、言えないこと、乾かしてある衣類、朝を待つプラスティック類の上にある換気口。生存に必要な空気、液体、吉岡実の詩。（秋、ぎりぎり４）#k2fact128

福間健二 @acasaazul

何を、だれを抱きしめるのか。彼の詩は問わないだろう。広い部屋につかつかと入って、自分の位置を決められない。さらに別の部屋。返事をしない妹たちが床に座って作業をしている。熊牛原野。足寄。新得。植物と女性。移動しても見て感じるのはその二つだけ。（秋、ぎりぎり４）#k2fact128

福間健二 @acasaazul

廃棄物を運ぶトラックが通っていった。あっちに何があるのか。こっちには、物理的な、内側が壊れている大きなものへの従属関係。でも、ほどかれた糸が光る。このまま、かがんで、これを拾うのですか。そうじゃない。拾う前に、人には見えない部分を確保する。（秋、ぎりぎり６）#k2fact128

福間健二 @acasaazul

黒くて必死なものが、黒くて音を立てないものに追いつめられている。重い袋の、落ち方の、片足の、折れ方の、ちがい。この糸が見ていた。黙りなさい、ということじゃない。知っている気がするメロディー。事故。大きくても小さくても、蓋はちゃんと締めること。（秋、ぎりぎり７）#k2fact128

福間健二 @acasaazul

トンネルをいくつも通って、雨の弟子屈からここまで、漂流と迂回。生きているきみ、死んでいるきみ、どちらも同じ世界を横切ってきた。欲しい絵、望む音はちがっても。晴れたり曇ったりの、きょう。まだ存在しない要素に打ちのめされる鑑賞者たちの東京だ。（秋、ぎりぎり８）#k2fact128

福間健二 @acasaazul

影は、影に、何を言いたかったのだろう。狭い階段の、途中の、切取線。そこに息を吐き、自分を少しだけ濃くして、うつぶせになる。理由はいくつもあって、電話だ。二〇一五年の、葉を落とした枝の、血管。考える前に目で確かめて感じるのよ、と妻は言った。（秋、ぎりぎり９）#k2fact128

福間健二 @acasaazul

壊れて、すってんころりん。ミクちゃん、美咲さん、千秋さん。旭通りでは水色の遠慮もいらない。最後に、共感の糸をたぐろう。出来事について知っていることを共有して、背中、へこませない、この十月の空と地理。むこうから来るもの、曖昧にしか来なくても。（秋、ぎりぎり10）#k2fact128