金剛VS長門

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ワタシは、潮の香りを夢に見る。

星金 剛 @DB_kongo000

ワタシが旗艦でなくなって、どのくらい経つだろう。 ワタシが海に出ることを辞めて、どのくらい経つだろう。 かつては洗っても洗っても落ちなかった火薬の臭いはもう、全くない。 石鹸のいい匂いがすると、扶桑サンに言われたことがある。 長門からはいつでも火薬の臭いがする。

2015-09-29 23:32:10
星金 剛 @DB_kongo000

彼女は旗艦だから当たり前。 何かがある度真っ先に飛び出して、戦果を挙げて帰ってくる。 臭いが取れる訳がない。 ワタシはこの鎮守府で最古参の戦艦。 着任したばかりの提督と二人で障害を乗り越え、強くなった。 そして、ワタシが提督とケッコンカッコカリをしたのと同時期に長門がやって来た。

2015-09-29 23:32:55
星金 剛 @DB_kongo000

それ以来、海にはほとんど出ていない。 身を案じられているのも分かる。 分かるけど……ネ。 「フゥ……こんなに重かったカナー……」 久しぶりに身に着けた艤装を撫でながら、呟く。

2015-09-29 23:33:25
星金 剛 @DB_kongo000

今日は鎮守府総出の大規模演習。 普段は内勤のワタシにも無事に参加許可が出た。 久しぶりに身に着けた白と赤の戦闘装束、頭の電探、そして艤装。 訛った体ではずっしりとその重みを感じることが出来る。

2015-09-29 23:34:02
星金 剛 @DB_kongo000

「これは……重過ぎマスネ。ネジの一本分でも抜いて軽量化を図るべきデース」 ワタシの艤装は長いこと使われていないにも関わらず、ネジ一本抜けるどころか緩みも無い。 まぁ、ワタシ自身の手で毎日整備しているからだケド。 ふっ、と。 艤装の動作確認を行っていた手が止まる。

2015-09-29 23:34:48
星金 剛 @DB_kongo000

普段は頭の中に留めている思考が、無意識のうちに声となって吐き出されていることに気が付いたからだ。 手をゆっくりと顔の前へと持って行く。 ……微かに、震えている。 久し振りの海に、不安を覚えている……の、だろう。 ワタシは大きく深呼吸しながら、腰へと手を回した。

2015-09-29 23:35:43
星金 剛 @DB_kongo000

「スゥーッ……ハァッ!」 息を肺一杯に吸い込み、全てを吐き出しながら、腰に回した手を振り上げた。 鞘の中を滑った刃が、空気ごと、ワタシの中の負の感情を切り裂くような……そんな錯覚を、起こしたかった。 「……ま、そう簡単にはいかないよネ」

2015-09-29 23:40:24
星金 剛 @DB_kongo000

ワタシの装備はいつもと違うところが一つある。 それが指差された刀帯、そして刀。 伊勢型が使用しているのと同じものを、今日は腰に差している。 顔の前で縦に構えた刀身に移るワタシの顔は、少し青かった。 いつも通りにやったって勝てないのだから、工夫は必要だ。

2015-09-29 23:40:58
星金 剛 @DB_kongo000

その時、ズドン! と、轟音が鳴った。 ハンガーが揺れ、パラパラと埃が落ちてくる。 「……始まりマシタか」 ボタンを押す。 エレベーターが下がってい 出撃のタイミングを知らせる三つのランプが順に、大きなブザー音と共に灯っていく。 最後の一つが灯ると同時に、艤装のロックが解除された。

2015-09-29 23:45:56
星金 剛 @DB_kongo000

「戦艦金剛! 出撃しマス!」 艤装靴がエレベーター床上のレールを滑り、火花が散る。 クリアーな海を切り裂き、左右へと散らし、潮の香りを巻き上げる。 潮の香りは嫌いじゃない。 懐かしい、あの戦火の中へ。 塩と火薬の匂い渦巻く、ワタシの世界へ。

2015-09-29 23:46:56
星金 剛 @DB_kongo000

「ああっ!!」 至近弾が着弾。 大きな水柱がいくつも立ち上がり、海面を、ワタシの身体を揺らす。 香りは嫌いではないが、海水に濡れた髪が肌に貼りつく感触は好きではない。 「どうしたんですか金剛先輩。もう終わりですか?」 「うるさいっ、ヨッ!」

2015-09-29 23:48:21
星金 剛 @DB_kongo000

大和はすまし顔で主砲を放ってくる。 距離を保てば避けることは出来る。 近づいていくところを撃たれれば……自信は無い。 「Fire!」 副砲を放って牽制する。 ワタシは高速戦艦、その武器は機動力。 逆に言えば速度を大きく落とさずに主砲を撃つパワーは無いし、直撃に耐える装甲も無い。

2015-09-29 23:48:44
星金 剛 @DB_kongo000

大型戦艦と殴り合うには分が悪すぎる。 「180度回頭!180度、回頭!」 反転。 追いかけてくる大和と目と目が逢う。 大和は少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐ得意のすまし顔に戻した。

2015-09-29 23:49:20
星金 剛 @DB_kongo000

「覚悟は出来たようですね。では、撃墜します!」 「Fire!」 大和が主砲を放つ。 向き合ったワタシも、艤装をX型に展開し、四門の主砲を放つ。 主砲の向きは、180度回頭させて真後ろを向いている。

2015-09-29 23:49:47
星金 剛 @DB_kongo000

「何を!?」 「Fire! Fire!! Fire!!!」 主砲を発射、発射、発射。 その度に身体が加速し、風の壁に激突したような衝撃に意識を手放しそうになる。 だけど。 だから。 「抜刀! 戦艦金剛、突撃しマスッ!」 刀を抜く。 時間をかければかけるだけ、ワタシにとっては不利。

2015-09-29 23:50:52
星金 剛 @DB_kongo000

一撃で決める! 「くっ……! 機銃、斉射!」 弾丸の雨を浴びせられる。 全身の至る所に鋭い痛みが走る。 だがワタシであっても、腐っても戦艦。 この程度で沈みはしない。 「Fire!」 ダメ押しの主砲斉射。 眼前に迫る大和の引き攣った表情。

2015-09-29 23:52:46
星金 剛 @DB_kongo000

跳躍。 腰を右側に思いっきり捻じり、刀を振り上げる。 「こっ来ないでくださいよ!」 「一撃でぇえええええええええええええええええ!」 「私は素手ですからああああああああああああああ!」 身体を左側に、逆側に捻じり上げるように、刀を振るう。 確かな手ごたえ。 着地で勢いを殺せない。

2015-09-29 23:58:08
星金 剛 @DB_kongo000

腰を低くし、片足を伸ばし、海面を抑えるようにして減速。 再び180度回頭。 大きく膨らんだ軌道を描きながら、大和へ目を向ける。 艤装から黒煙を吐き出し、戦闘装束がボロボロになっている。 誰の目から見ても、彼女は大破していた。 両手を上げ、心底不愉快そうに顔をしかめている。

2015-09-29 23:58:44
星金 剛 @DB_kongo000

「はいはい降参です降参です。近寄らないでください頭おかしいのが移ります」 「相も変わらずビビりデスネェ……移るのなら移してあげたいぐらいデスヨ」

2015-09-29 23:59:57
星金 剛 @DB_kongo000

「いりません。絶対に移さないでください……長門先輩は北側で見ました。あーあ、長門先輩に近づきたくないので逃げて来たのですが。その先に筆頭がいるなんてついてない」 「なんの筆頭デスカ?」 「自分で分かるでしょう?」 「そうだネ」 刀を鞘に納め、再び走る。 今日こそケジメをつける。

2015-09-30 00:01:11
星金 剛 @DB_kongo000

地獄絵図の一歩手前と言ったところだろうか。 あちらこちらで黒煙が吹き上がり、大破した艦娘たちが救護班のボートに引き上げられている。 どこに目をやってもそんな光景が続いている。 その先で、一人、すらりとした長身の女が立っていた。

2015-10-01 03:58:48
星金 剛 @DB_kongo000

こちらには背中を向けているが、海風にたなびく長い黒髪、頭から伸びる日本の電探、キャラに似合わず露出の多い戦闘衣装。 連合艦隊旗艦、ビッグセブン。 戦艦長門がただただ静かに立って、そこにいた。 「……大人げないと思うか?」

2015-10-01 03:59:07
星金 剛 @DB_kongo000

「エエ、それはもう。あれは妙高で、そっちは浦風デスネ、間違いありまセン。たまげたネェ……」 「自分でも大人げないとは思った。だがどうも大和に逃げられたようで、戦艦が見つからなくてな」 「手当たり次第って訳デスカ」 「先に撃ってくるのだ。迎撃しない訳にもいかないさ」

2015-10-01 03:59:24
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