黄昏町(九板)四日目

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@hiiragi_r_t_d

【四日目】 【魂11/力0/探索0】 【異形】なし #hollytk

2015-10-11 01:15:28
@hiiragi_r_t_d

「……はぁー……寒い」 わたしは目を覚ます。ここは乗用車の助手席。肩にかけていたバスタオルは、すっかりずり落ちていた。 とりあえず、隣で眠っている鏑木君を起こしてあげよう。昨日はずっと話しっぱなしで疲れただろうけど、彼の話が本当なら寝坊は命に関わるし。 01 #hollytk

2015-10-11 01:17:07
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「起きてくださーい、かぶらぎくーん」 寝ぼけ眼をこすりながら、肩を揺らす。運転席の鏑木君はゆっくりと目を開けた。 「おはようございます鏑木君。といってももう夕方ですが」 「おはようございまーす……って、な、な」 目を覚ました鏑木君が、口をぱくぱくさせる。 02 #hollytk

2015-10-11 01:19:05
@hiiragi_r_t_d

「どうかしましたか?」 首を傾げるわたしに向けて、鏑木君は真っ赤な顔で叫んだ。 「うっ、上になにか着て!」 ……あー。わたしは下着だけの上半身を見下ろす。 「忘れてましたー。わたし、朝は弱いタイプなんですよね」 「もう夕方だよ……」 鏑木君が肩を落とす。 03 #hollytk

2015-10-11 01:21:38
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わたしは車外に出て、干してあったセーラー服に袖を通す。 「さて、と。鏑木君、昨日はありがとうございました」 「いいよ、そんな改まってお礼なんか言わなくても。……昨日言った事、考えてくれた?」 昨日、沈もうとする夕陽を見ながら彼が言った事をわたしは思い返す。 04 #hollytk

2015-10-11 01:24:24
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「『良かったら僕と一緒に暮らさないか』でしたっけ?」 「繰り返されると恥ずかしいんだけど……君はこの町に来たばかりだし、分かるまでだけでも」 「うーん……申し訳ないのですが、お断りさせて頂きます」 わたしの言葉に、鏑木君は溜め息をつきながら頷いた。 05 #hollytk

2015-10-11 01:26:32
@hiiragi_r_t_d

「そんな気は薄々していたよ。君以外にも、そういう子は時々いるんだ。大抵は、数日もたたずに死体で見つかるんだけどね」 わたしはあの学校と、竜の事を思い出す。鏑木君はそれを夢か、この町によくある不思議な幻だと片付けたが…… 「とにかく僕が教えた事を忘れないで」 06 #hollytk

2015-10-11 01:28:34
@hiiragi_r_t_d

わたしは昨日、鏑木君が語った事を思い出す。 夕暮れしか存在しない町。恐ろしいバケモノと、厳しい規律で縛られた自警団。町から出ることも、入る事も自由には出来ない事。 「隠れろ、集まれ、武器を持て、でしたっけ?」 「そうだ。『命あっての物種』だからね」 07 #hollytk

2015-10-11 01:30:29
@hiiragi_r_t_d

「分かりましたよ。それじゃあ、お元気で」 「僕はここら辺をこの車で走っているから、気が変わったらいつでも言って欲しい。待ってるよ」 「はいはーい」 わたしは振り向かずにひらひらと手を振りながら、その場を後にする。 エンジン音が響いて、車は走り去っていった。 08 #hollytk

2015-10-11 01:32:38
@hiiragi_r_t_d

エンジン音が遠くなり、角を曲がるのを確認してから、わたしは軽く溜め息をついた。 「はぁー……疲れました」 わたしは人付き合いがあまり得意な方ではない。 「ひとりの方が、気楽ですよねー」 ぼんやりと虚空に独り言を投げる。当然、誰も返す人はいない。 09 #hollytk

2015-10-11 01:34:23
@hiiragi_r_t_d

「さーて、これからどうしましょうか」 夕暮れしか存在しない、出口のない町。それだけでも充分、わたしの待ち望んだ『非日常』。 でも、どうせなら。 「バケモノってやつを、見てみたいですよねー」 「ほほう?バケモノを御所望かね?」 「……へっ?」 10 #hollytk

2015-10-11 01:36:37
@hiiragi_r_t_d

わたしは周りを見回すが、誰もいる様子はない。 「上を見たまえ、物好きなお嬢さん」 声のする方を向けば、民家の屋根の端に腰掛け、膝を組む初老の男がいた。 「……えーと……こんにちは」 「うむ。こんにちは、麗しいお嬢さん」 男は微笑むと、屋根から飛び降りた。 11 #hollytk

2015-10-11 01:38:38
@hiiragi_r_t_d

普通なら大怪我になるところ、男は難なくブロック塀の上に降り立ち、更に飛んでわたしの前に降り立った。瀟洒なスーツの埃を払い、パナマ帽の角度を直し、腕に絡まるストールを解いてから、わたしに向けて一礼する。 「お嬢さん、バケモノが見たいというのは……本気かね?」 12 #hollytk

2015-10-11 01:40:53
@hiiragi_r_t_d

「……あなたは、バケモノなんですか?」 「ふむ。お嬢さんに比べればバケモノに近い。そう言えるだろう。……私はまだ、人間のつもりだがね」 「人間のつもり?バケモノなのに、ですか?」 「おや、もしかしてお嬢さん……」 男は驚いた様子で、帽子を目深にかぶり直す。 13 #hollytk

2015-10-11 01:42:22
@hiiragi_r_t_d

「お嬢さん、少し驚くかもしれないが、これから私が語る事は真実だ」 そう前置きをして、男は語り出した。 「この町では、人間は死ぬ事を許されない。……いや、この言い方だと語弊があるね。この町では死んだ人間は蘇るんだ」 「……そうなんですか」 14 #hollytk

2015-10-11 01:44:06
@hiiragi_r_t_d

「その反応、心当たりがあるようだね?」 「ええ、まあ。大きな竜に少々」 「……なるほど。それは大変だったね」 男は心当たりがあるのか、ぶるりと体を震わせた。 わたしはそんな彼の様子に構わず、疑問をぶつける。 「それで、あなたのどこがバケモノなんですか?」 15 #hollytk

2015-10-11 01:46:32
@hiiragi_r_t_d

「ああ、そうだったそうだった。」 男は何気なく、パナマ帽を脱ぎ去った。 「これが私の異形、バケモノの欠片だ」 男の両目は閉じられていた。 「……不気味だろう?」 額に縦に走る裂け目がぱっくりと開き、大きな目がわたしを見つめる。 わたしはそれを見て…… 16 #hollytk

2015-10-11 01:48:12
@hiiragi_r_t_d

……とても、美しいと思った。 「……素敵ですね」 男がぎょっと目を見開く。 「本気で言っているのかい?」 「通りすがりのおじさんに愛嬌を振りまくような娘に見えます?」 「……いや、本気なのだろうね。お嬢さんの言葉に嘘はない」 「それは、その眼の力ですか?」 17 #hollytk

2015-10-11 01:50:24
@hiiragi_r_t_d

「いいや。長く生きていると、多少は分かるようになるのだよ」 男はにっこりと笑う。 「この眼に見えるのは、君の魂だ。汚れ一つない、まっさらな灯。きれいだね」 わたしはその言葉を聞いて、少し憂鬱になる。まっさらな魂。そのとおり。わたしには何も無いのだ。 18 #hollytk

2015-10-11 01:52:05
@hiiragi_r_t_d

『非日常』の中にあって、わたし自身はどこまでも日常だ。 「……あの、一つお願いが」「この夕暮れを」 初老の男は、わたしの言葉を遮って話し始めた。 「この夕暮れを、お嬢さんは美しいと思えるかね」 「夕暮れを……ですか」 わたしは男と並んで、夕焼け空を眺める。 19 #hollytk

2015-10-11 01:54:06
@hiiragi_r_t_d

「私のこの眼には、この夕暮れがとても美しく見える。消え行く魂の色のようだ」 「魂が……消える、ですか?」 「この眼は、バケモノの欠片だと言ったね……あれは外見の話ではない。この眼に魅入られてから、私は……」 静かに涙を流す男に、わたしはそっと歩み寄る。 20 #hollytk

2015-10-11 01:56:14
@hiiragi_r_t_d

「殺したのですか?」 「仕方が無かった……皆、私の眼を見たいと言って……そして私は……この眼で…」 眼で殺した。その謎めいた響きに、わたしの胸が高鳴る。 「では、やってみせて下さい」 「だから私には……なに?」 「ですから、私にやってみせて下さい。」 21 #hollytk

2015-10-11 01:58:04
@hiiragi_r_t_d

どうせ死んでも死なないのなら。 そんな『非日常』を、逃す手は無い。 「本当に、いいのかね?」 「ええ。できるだけ何が起こっているのか分かるように、お願いします」 男が額の眼を大きく見開く。瞳孔が広がり、光を反射しない真っ暗な闇がわたしを見つめる。 22 #hollytk

2015-10-11 02:00:31
@hiiragi_r_t_d

「それでは、始めよう」 闇が広がる。いや、広がっているのではない。合わせた視線から、闇が流れ込む。 「君はまず、脚が動かなくなる」 男の言葉に、わたしの脚が彫像のように凍りつく。わたしはバランスを崩し、後ろに倒れ込んだ。それでも彼の眼から視線を逸らせない。 23 #hollytk

2015-10-11 02:02:22
@hiiragi_r_t_d

「君は次に、腕が動かなくなる」 地面に突いていた腕が崩れ落ち、わたしは仰向けに横たわる。倒れた拍子にスカートの裾が捲れ上がっているが、直す事も出来ない。 彼は膝をつき、わたしの上に覆いかぶさるように四つん這いになると、さらに近くでわたしに目を合わせる。 24 #hollytk

2015-10-11 02:04:50