「百人斬り」についての最低限の解説

「百人斬り」についての最低限の解説、更新
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能川元一 @nogawam

さて、稲田朋美の著書『百人斬り裁判から国会へ』、じゃなかった『百人斬り裁判から南京へ』(文春新書)も図書館で借りてきましたので、歴史修正主義者がどれくらいチンケなインチキをするのかについて、解説することにいたしましょう。まずは「百人斬り」について最低限の解説をば。

2015-10-23 21:27:30
能川元一 @nogawam

1937年南京攻略戦の最中、京都第16師団に所属する二人の下級将校が「どちらが先に100人斬るか」の競争をしている……という趣旨の記事が『東京日日新聞』に掲載されました。日本の敗戦後、二人は戦犯として処刑されます。

2015-10-23 21:29:08
能川元一 @nogawam

2003年、二人の遺族が『東京日日新聞』の後身である『毎日新聞』や、『朝日新聞』、本多勝一氏らに対する民事訴状を起こしました。朝日と本多氏が被告になったのは、1970年代初めに本多氏が朝日紙上で行った連載で、この「百人斬り競争」を紹介したためです。

2015-10-23 21:31:19
能川元一 @nogawam

訴訟の主たる争点は、法律論を除けば(1)記事のきっかけとなるような殺害行為は現にあったのかどうか、また(2)記事は2名の将校の方から話をもちかけて執筆されたのか、それとも記者が一方的にでっち上げたものなのか、でした。

2015-10-23 21:33:08
能川元一 @nogawam

右派はしばしば、「『東京日日新聞』の記事は真実であったのか?」という偽の争点をでっち上げます。この訴訟で原告代理人を務めた稲田朋美も、先に触れた著書の「はじめに」で次のように書いています(9-10ページ)。

2015-10-23 21:34:31
能川元一 @nogawam

「大隊副官と歩兵砲の小隊長が『日本刀で中国人を一〇〇人斬り殺す競争』を実行し、わずか一〇日あまりでそれぞれ一〇〇人以上斬り殺したという話は本当なのだろうか」

2015-10-23 21:36:17
能川元一 @nogawam

しかし『東京日日新聞』に当時掲載された記事が真実を記述しているのか? などということが戦後の日本で議論の対象となったなどということは、実質的にありません。なぜか?

2015-10-23 21:40:07
能川元一 @nogawam

本多氏の連載によって「百人斬り」が改めて紹介されて間もなく、「実はあれは捕虜の据えもの斬りだった、と本人が喋っているのを聞いた」という証言者が現れたからです。そして「なるほど、据えもの斬りならわかる」となったわけです。

2015-10-23 21:40:57
能川元一 @nogawam

アジア・太平洋戦争における日本軍、特に中国戦線の日本軍では捕虜や非戦闘員を斬殺することが常態化していました。心ある旧軍関係者も、このことは率直に認めています。東部憲兵司令官だった大谷敬二郎は著書『捕虜』の冒頭で次のように記しています。

2015-10-23 21:42:46
能川元一 @nogawam

「昭和十二年七月からはじまった日中戦争では、日本軍はいたるところ、そこで捕えた中国人捕虜たちを殺害した。『捕虜は殺す、殺される』は日本将兵の通念となっていた。すでに、満州事変で発明された『厳重処分』なる言葉は、全軍に徹底していたのだ。」(原文のルビを省略)

2015-10-23 21:44:56
能川元一 @nogawam

訴訟の結果ですが、2006年に原告の請求を棄却した東京高裁判決が確定しています。先にあげた主要な争点の双方とも原告の主張が退けられ、被告側の主張を裁判所が支持したわけです。以上が背景となる事情です。

2015-10-23 21:49:39
能川元一 @nogawam

数日前に一人の歴史修正主義者が twitter.com/yamamoto8hei/s… twitter.com/yamamoto8hei/s… というメンションを送ってきました(私の側のツイートは省略)。これ、「名誉毀損訴訟」の常道を知っているだけで「怪しい」とわかるホラなんですよね。

2015-10-23 21:52:48
山本八平 @yamamoto8hei

あの裁判は「名誉毀損に当たるか否か」を裁いただけ。二少尉の捕虜据え物斬りを事実認定した訳ではない。それで冤罪の可能性を否定するのはご都合主義にも程がある。 RT @nogawam 具体的に「百人斬り」裁判の判決に反論してみたら?稲田朋美を含め右派がまともに反論したの見た事ないんだ

2015-10-21 10:23:07
山本八平 @yamamoto8hei

そういう印象操作しか出来ないのかね? 私だけでなく第三者にもわかるように「判決文の何処に二少尉が据え物斬りしたと事実認定した箇所があるのか」明示してごらん。 RT @nogawam はい、判決を読んでないのがバレちゃいましたねw ま、読んでないだろうと思ってたけどね

2015-10-21 10:30:45
能川元一 @nogawam

名誉毀損(この場合厳密には民法上の不法行為、ですが)が成立するか否かの基準は幾つかありますが、なにしろ公務員(陸軍将校)の犯罪行為の有無が問題となっているのですから公益性等はまず争点にならない。記事の真実性、真実相当性が争点になるのが普通であるからです。

2015-10-23 21:54:40
能川元一 @nogawam

のちに示すように、実際に裁判所は二人の将校による捕虜の「据えもの斬り」があったかどうかについての事実認定をしています。そしてかの歴史修正主義者は、私が twitter.com/nogawam/status… という要求を出すと逃走モードに入りました。

2015-10-23 21:56:34
能川元一 @nogawam

私の「注文」というのは twitter.com/nogawam/status… twitter.com/nogawam/status… の2つなんだけど、よっぽど都合が悪かったとみえるw @yamamoto8hei

2015-10-21 22:57:01
能川元一 @nogawam

では東京高裁は「据えもの斬り」云々に関してどのような事実認定をしたのか。これが当該箇所です。 pic.twitter.com/3rI8sOAdM1

2015-10-23 21:57:25
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能川元一 @nogawam

そしてかの歴史修正主義者が行った姑息な工作の最初の一手がこれです。 twitter.com/yamamoto8hei/s… 「一見して明白に虚偽であるとまでは認められない」だけを読めば、「なるほど、裁判所ははっきり事実と認めたわけではないんだな」と思いますよね?

2015-10-23 22:00:46
山本八平 @yamamoto8hei

「一見して明白に虚偽であるとまでは認められない」との判決が、何故「捕虜据え物斬りした」との事実認定となるのか?そこのロジック説明してみ。 RT @nogawam 名誉毀損(厳密には民事訴訟だけどそこはまあいいや)の訴訟では大抵「真実性」「真実相当性」が争点になるって事知らないの?

2015-10-21 23:41:11
能川元一 @nogawam

しかし先に提示した高裁判決の当該箇所を読めば、「一見して明白に虚偽であるとまでは認められない」は「新聞記者の創作記事であり」に続く箇所であることがわかります。つまりは、最初に提示した主要争点の(1)だけでなく(2)も含めての判断を述べた箇所であるわけです。

2015-10-23 22:03:03
能川元一 @nogawam

「据えもの斬り」があったかどうかについての裁判所の判断は、より明確です。「両少尉が南京攻略戦において軍務に服する過程で、当時としては「百人斬り貌争」として新聞報道されることに違和感を持たない競争をした事実自体を否定する事はできず」がそれです。

2015-10-23 22:05:56
能川元一 @nogawam

「……違和感を持たない競争」が「据えもの斬り」を意味することは、「次の諸点に照らせば」とされている「次の諸点」を参照すれば明確です。当事者たる将校のうち1名が捕虜を斬ったと話しているのを聞いた、という証言の信用性を判決は認めているからです。

2015-10-23 22:10:48
能川元一 @nogawam

私が高裁判決の当該「箇所」を指摘するであろうことは容易に想定できますから、かの歴史修正主義者は自分の予防線があまりにも脆弱であることにさすがに気づきました。そこで彼が打った次の手がこれです。 twitter.com/yamamoto8hei/s…

2015-10-23 22:12:56
山本八平 @yamamoto8hei

「高裁判決文に捕虜据え物斬りの事実認定した箇所がある」との主張を裏付けるロジックを貴方が明示したら公式RTすれば良いのですね。了解しました。約束します。よろしくお願いします。 RT @nogawam 私がそれを明示したら自分のフォロアーにもわかるようRTすると約束してくださいね

2015-10-22 00:12:49
能川元一 @nogawam

おわかりでしょうか? 判決の「箇所」を示せという主張を「裏付けるロジック」を示せにずらしてきたわけです。何のためか? 「箇所」の有無ならこれは争う余地がない。しかし「ロジック」ならいくらでもゴネることができるからです。「オレは認めないぞ!」、と。

2015-10-23 22:14:38
能川元一 @nogawam

つい先日も早川タダノリさんが紹介されていましたけど、 twitter.com/hayakawa2600/s… 日中戦争での「〇〇人斬り」は武勇伝の基本的フォーマットの一つだったんですよね。これが近代戦のプロパガンダだった、という事実にまずクラクラしますが。

2015-10-23 22:39:16
早川タダノリ @hayakawa2600

「据物斬り」ではなく白兵戦でも、一回の戦闘で日本刀によって52人を斬殺した記録がありまーす。ソースは『子供が良くなる講談社の絵本 漢口攻略皇軍奮戦画報』(大日本雄弁会講談社、昭和14年)です キリッ #臣民への道 pic.twitter.com/SjCGJRBkBQ

2015-10-21 23:45:00
能川元一 @nogawam

先に紹介した判決中、「……事実を否定することはできず」と「ま全くの虚偽であると認めることはできないと言うべき」という、素人目にはかなりニュアンスの違う表現が同居している点につき、補足しておきます。

2015-10-23 22:48:45
能川元一 @nogawam

この訴訟は記事になった本人ではなく、すでに故人である二人の将校の遺族が原告となったものでした。従って民法上の不法行為が成立するか否かについても本人が原告である場合とは異なる基準が採用されたのです。

2015-10-23 22:50:54
能川元一 @nogawam

すなわち、不法行為が成立するには問題の記事が「全くの虚偽であることを要する」というのがその基準です。従って原告の請求を退けるには「全くの虚偽であると認めることはできない」で十分だったわけです。では、なぜ「全くの虚偽であると認めることはできない」のか?

2015-10-23 22:52:39